好きになってはいけない人
第59話
乃亜が理央の部屋に住むようになってから、一カ月が経過した。体重計の上に乗った乃亜は、数値を確認してホッとした表情を浮かべる。
(ダイエット開始から一か月、マイナス4kg。体が軽くなったし、見た目もお腹周りがスッキリした)
無理なく痩せているのは、理央の協力あってこそ。既に運動メニューも終えている乃亜は、ソワソワと準備を始めた。
(今夜は待ち合わせでレストラン。なんか緊張する……)
しっかりおめかしして、マンションを出た。
◇ ◇ ◇
「美味しかった!」
明るい夜の道を歩きながら、弾んだ声の乃亜は笑う。そんな乃亜にスマホのカメラを向ける理央、乃亜が嫌がって顔を隠すのは、もうお決まりの流れだ。
「乃亜ちゃんは順調に痩せてて偉いから、たまには息抜きしないとね」
「ありがとう、理央くん」
「やっぱりそのネックレス似合うね。プレゼントしてよかった」
乃亜は首元に揺れる、先日理央から贈られたネックレスを握りしめる。
(おかしいんだよね。失恋して辛いダイエットに耐えたはずの私は……この一カ月、幸せいっぱいだった)
そんなことを思いながら、上着を着直す。
(それにしても、急に寒くなったなあ)
季節は一カ月で秋から初冬へ。昼間はそうでもないが、夜は随分寒くなっている。乃亜はムズムズする鼻を啜った。
◇ ◇ ◇
「ふう、今日もノルマクリア!」
翌日、日課の運動メニューを難なくこなした乃亜は、首にかけたタオルで汗を拭いながら、ソファに座りテレビをつけてくつろぎはじめる。ちょうどグルメ番組をやっていて、画面に美味しそうなデザートが映し出されたが、乃亜の心は動かない。
(最近はうっかり食べすぎたり、欲望に負けてケーキを食べに行くこともなくなった)
辛くないわけではないが、しっかり努力に答えてくれる体重計が、乃亜のモチベーションを維持していた。
「私、ストイックになったよね」
一人で呟いて苦笑する。そう、本当にストイックになった。ダイエットももちろんだが、失恋直後の傷心の状態で、理央というハイスペック極まりない男と暮らし、毎日抱き合って眠って。時に指輪やネックレスを贈られたり、キスされたり、好きだと言われたりと、思わせぶりなことをされていながらも彼に落ちていない。……落ちていないはずだ。
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