第57話

「いいから。なんで無理して半身浴したの?」

「……お昼、つい食べ過ぎちゃったから」


 言いながら、乃亜は自分の太腿を揉み始めた。突然の行為に、理央が眉を寄せる。


「君、何してるの?」

「ダイエットマッサージだって。今日スマホで見てから、寝る前にやろうと思ってて」

「やめなよ。今倒れかけた人が何してるの」

「でも、食べすぎちゃったし。身体がついてこなくて、運動もたくさんできないし……早く痩せたいのに」


 必死に言い募る乃亜を見て、理央は表情を消した。


「どうしてそんなに早く痩せたいの? 痩せて綺麗になって、ここから出て、……戻りたいの?」

「え? まだ戻れないよ。ダイエットの途中だし、傷跡治すため頑張ってるの知ってるでしょ?」

「違うよ、実家にじゃない。君が戻りたいのは……」

「……?」


 意味を測りかねて困惑する乃亜を見つめながら、口籠る理央。やがて彼は乃亜から目を逸らした。


「……いや、何でもない。気にしないで。そのマッサージ、俺がやってあげるよ」

「ひゃっ!?」


 火照った肌に触れる他人の手のひらに、思わず身体をびくつかせる。

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