第55話

こちらの様子を伺いながら、どこか緊張気味な様子を見せる理央。中高生の初デートのような雰囲気に、乃亜は照れてしまった。


「うん……」


 頷いて、自ら理央の手を取った。手を繋がれるのを待っている方が恥ずかしい気がしたのだが、自分から行くのも、やってみるとかなり恥ずかしかった。


 指を絡めて、ぎゅっと乃亜の手を握ってくる理央。


(何これ、何でこんなにドキドキするの……)


 胸の鼓動を抑えられないまま、二人は口数少なく公園を歩いた。


(私、茨の道に足を踏み入れかけてる。契約結婚と、一生泣いて暮らす未来しかないのに)


 マンションに帰り、バスタブに薄く張ったお湯で半身浴をしながら、乃亜はぼんやり考え込む。今日は理央に先にシャワーを浴びてもらい、予定通りの長めの半身浴を決行中だ。


「はあ、そろそろ出たいけど。太ってるから、こんな悩みばかりなんだ。頑張らなきゃ」


 限界まで粘った乃亜は、すっかりのぼせ上がっていた。ようやく上がって身体を拭いたところで、目の前が白くなりよろけて、洗面台にぶつかった。派手な音を立てて、乃亜の化粧水やら理央の洗顔フォームやらが落下する。


「何の音? 大丈夫?」


 音を聞きつけてやってきた理央は、躊躇いなくバスルームに入ってきた。心配しているようだ。羞恥心はあったものの、それどころではなかったことと、一度裸を見られていることから、乃亜はバスタオル一枚でも、焦ったり隠れたりはしなかった。

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