「僕は好きだよ、君のこと」

第54話

「なんか変な夢見たなあ……」


 翌日、午前中の運動メニューを終えた乃亜は、一人ぽつりと呟く。今朝の理央は、どこか余所余所しかった。しかしまだ出会ったばかり。余所余所しいのが普通なのかもしれないし、よくわからない。


「私、健ちゃんを拒否してた。しばらく忘れられないと思ったのに、どうしてだろう」


 今日も理央が用意してくれた昼食を口に運びながら、考え込む。


「はっ! 考え混んでたら、ついおかわりしちゃった!」


 ご飯二杯を軽く平らげてしまった自分に頭を抱える。


(夜を減らして、半身浴を長めにしよう)


 乃亜は再び運動に没頭した。


 理央が帰ると、お決まりとばかりに二人で光の水公園へ。今日は秋の陽気が心地よい、散歩日和だ。園内は人が溢れて賑わっていた。


「よし、今日こそ一周行こう!」

「張り切ってるね、乃亜ちゃん。頑張ろう」


 乃亜は理央の様子を伺う。


(今日は手、繋がないんだ……)


 にこやかな理央、機嫌は朝に比べて回復しているようだが、手を繋いでくる気配がない。乃亜はそのことが気になったが、気にしないように努めた。


 しばらく歩いた後、二人は公園内にある、ドッグラン程度の敷地の動物コーナーに足を踏み入れた。可愛らしいリスを見た乃亜は思わず声を上げる。


「可愛いー!」


 スマートフォンを構えて写真を撮っていると、理央もスマートフォンを取り出し、リスではなく乃亜を撮り始めた。乃亜は眉をひそめて理央を見る。


「……何してるの?」

「ん、こっちの生き物の方が可愛いと思って」

「ちょっと、どう言う意味?」


 ムッとして腰に手を当てる乃亜に、理央はおかしそうに笑った。


「うそうそ。普通に、喜んでる君が可愛いからさ」

「は?」


 乃亜の間抜け面を捉えた理央のスマートフォンが、小気味良いシャッター音を鳴らす。スマートフォンをしまうと、理央はかしこまった様子で尋ねてきた。


「手、繋いでもいい?」

「え……」


(何で今更、そんなこと聞くの?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る