第51話

「なに?」

「う、ううん、何でも……あっ、スマホの充電切れかけてる、充電してくるね!」


 わざとらしい言い訳を口にして、乃亜はベッドルームに走り込んだ。スマホを充電につなぎながら、昨夜も理央と二人で眠ったベッドを眺める。何度も夜を過ごしているのに、やはり何も起こらない。


(一緒に楽しく遊んだんだもん。人として好きだって言われただけ)


 そう思い知ると、今度は心がモヤモヤした。夜がやってきて、また理央と並んでベッドに横になれば、そのモヤモヤはさらに大きくなっていく。


(適当に好きなんて言って、期待させないでよ、バカ!)


 モヤモヤの最高潮を迎えた乃亜は、ガバッと勢いよく起き上がり、隣の理央に襲い掛かるようにして組み敷いた。


「の、乃亜ちゃん……?」


 唖然、と言った様子で、乃亜を見上げる理央。ニヤリと笑った乃亜が理央の胸に触れると、彼が身を強張らせ、ベッドがギシリと軋んだ。手のひらから激しい鼓動が伝わってくる。


(理央くん、ドキドキしてる。ぽっちゃりの女もどきに迫られて、怯えてるの?)


 そう思うとムッとして、乃亜は据わった目で理央を見下ろした。


「言ったでしょ? 今夜は私が、あなたを……」

「君が、俺を……?」


 理央がごくり、と喉を鳴らす。


「私があなたを、くすぐってあげるって!」


 乃亜の手のひらは理央の脇腹に触れた。つついたり揉んだりして必死にくすぐるのだが……。


(なんで? 無反応!?)


「あっ!?」


 ついに両手を掴まれて、乃亜は間抜けな声を上げた。視界がぐるんと反転し、気づけば形勢が逆転している。乃亜は戸惑いながら、不敵に笑む理央を見上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る