第50話

二回目は理央の声かけを聞きながら、息を合わせて漕ぎ出す。一人で乗る自転車よりもバランスが取りづらく、なかなかに難しい。


 やがて自転車がスムーズに回転し、スピードをつけて進んでいく。二人で必死に坂道を登り、下り坂のスリルに騒いで声を上げる。


 膝を前のサドルにぶつけながらも、気づけば乃亜は熱中し、子供のように声を上げてはしゃいでいた。理央からも楽しそうな笑い声が返ってくる。


 見える景色も次々に変わり、疲れなど感じる暇もない。二人で全力で楽しみ、到着はあっと言う間だった。理央がにこやかに振り返る。


「着いたね。降りようか」

「最高! 楽しかった!」


 先に降りた理央に手伝われながら自転車から降りると、乃亜はよろけて、理央の腕に支えられた。


「あ、あはは。調子に乗ってやりすぎたみたい。足が棒になっちゃった!」


 照れて笑う乃亜に、理央は優しい眼差しを向ける。


「俺は好きだよ、君のこと」

「へ?」


 その帰り道から、乃亜は悶々と考え込んでいた。


(好きだよ? どういう意味!?)


 手を繋いで、買い物をして家に帰る。乃亜に荷物を一つも持たせない理央は、歩幅を合わせて歩く。家に帰ると、理央は乃亜をソファに座らせた。


「君、疲れたんでしょ。ここで休んでて」


 そう言って乃亜を休ませて、理央はテキパキ家事をする。すぐに出てくるのは、栄養バランスも味も完璧な料理。テーブルを挟んで座って食事を摂る、綺麗な顔立ちの男性をじっと見つめる。


(ハイスペックにも程がある……こんな人が私を好きになるはずない)


 間違いなくモテるはずで、何の取り柄もないどころか、太ってマイナスポイントしかない乃亜では不釣り合いも甚だしい。


(でも、好きだって、確かにそう言った)


 先に食べ終わってもダイニングテーブルに座ったまま、乃亜は理央をじっと見つめていた。気づいた理央が不思議そうに見返してくる。

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