第49話

「痩せるのって、簡単じゃないよね。美味しいもの食べてる君は、すごく幸せそうだった」

「…………」

「そんな幸せを我慢して、君は変わりたいの? 自分を受け入れて生きてく道もあるんじゃない?」


 乃亜は景色の上に広がる、青い空を見上げた。視線の先で、流れていく雲。思考が洗われてクリアになって、はっきりわかった自分の気持ちを、ありのままに自白する。


「私、自分に甘いの。今日も結局、言い訳つけてケーキ食べちゃうし……」

「好きだね、ケーキ。3個食べてたもんね」

「だってあんなに美味しい食べ物、他にないと思わない!?」

「うん。だから、君はそのままでいいと思うよ」


 穏やかに微笑む理央。その優しい言葉に甘えてしまいたくなるが、乃亜は首を横に振る。


「でもそれじゃダメ。だってこんな自分を、私は好きになれない。誰も好きになってくれるわけない」


 隣から、横顔をじっと見つめてくる気配。だが自分と向き合うことに必死な乃亜は、空を見上げ続けていた。やがて理央が遠慮がちに切り出す。


「そんなことないよ。だって俺は、君がどんなでも……」

「だから私やっぱり、頑張りたい!」


 乃亜はすっくと立ち上がり、胸の前で拳を握りしめて声を上げた。理央はやれやれと目を伏せて、口元だけで笑う。


「言わせてもくれないんだもんな」

「え?」

「君の気持ちはわかったけど、頑張りすぎないでね。今日は自転車で帰ろう。俺が漕ぐからさ」


 そして、乃亜はタンデム自転車の、理央の後ろに跨ることになった。冷や汗ダラダラだ。


「ねえ理央くん、私、重いけど大丈夫なの?」

「大丈夫でしょ。心配なら君も漕ぎなよ。いくよ、せーのっ!」

「あっ!? 痛い!!」


 理央が漕ぎ出すと、乃亜側のペダルも連動して動いたので、うっかり足を離していた乃亜は、ペダルで脛を強打した。理央は慌てて足をついて、乃亜を振り向く。


「大丈夫? ごめん」

「ううん、私が任せようとしたのが悪かった。頑張ります。私、頑張って漕ぎます!」


 意気込む乃亜に、理央はおかしそうに笑った。

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