第48話

こちらに来た日に訪れた緑豊かな広い公園で、乃亜はやる気満々でウォーキングに挑もうとしていた。燃え盛る乃亜の隣でのんびりとした理央は、乃亜と手を繋いで穏やかな様子。二人の温度差が激しい。


「今日は30分くらいにしとこうか」

「ううん、一時間行こう? 私、やる気満々なの」

「……大丈夫? 大変だと思うけど」

「もちろん大丈夫、私に任せて!」


 理央の手をぐいぐい引いて、早いペースで歩き出す。


 光の水公園――観光する場所には事欠かない、観光客にも人気の公園だ。複数の湖や各種施設、スポーツ用の芝生エリア、レストランやカフェもある。


 そんな素晴らしい公園を、ただひたすら歩くことを目標に進んでいく乃亜。黙々と足を動かす乃亜に戸惑いながらも、黙ってついてくる理央。


 しかし30分もしないうちに、乃亜の様子が変わり始めた。表情に滲む疲れ、落ちていくペース。やがて乃亜は立ち止まる。


(疲れた……もうやめたい。でも頑張らなきゃ!)


 自分を奮い立たせ、再び一歩を踏み出そうとした乃亜は、立ち止まったままの理央に手を引かれ振り向いた。


「今日は帰ろう。無理しすぎても意味ないよ。一気に痩せようとしてない?」

「ううん、私まだ大丈夫。帰らない」


 頑なな乃亜に、説得は無駄だと察したらしい。理央はため息を漏らした後、「わかった」と呟くと、乃亜を手近なベンチに座らせた。


「とりあえずちょっと休憩ね。すぐ戻るから、ここで待ってて」

「え? でも時間が勿体無……」

「少しの間だけだから。大人しく待ってること」

「は、はい」


 理央の勢いに押されて頷く。一人になった乃亜は、ベンチから景色を眺めてみた。


 人工とは思えない自然が溢れた、気持ちの良い公園。行き交う人々の笑顔。乃亜のように、鬼の形相で歩いている人などいない。


「何やってんだろ私。こんな素敵な公園を楽しく歩けないなんて。ケーキ食べて、カロリー消費に必死になって……」

「そんなことだろうと思ったよ」


 独り言に返ってきた声に、ハッと顔を上げる。理央が二人乗り用のタンデム自転車を引いてやってきたところだった。道の端に自転車を停めると、理央は乃亜の隣に座る。

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