第46話

「乃亜ちゃんってば。無視しないで」

「…………」

「あーあ、せっかく今日、奥さん喜ばせようと頑張ったのになー。こっち見向きもしてくれないなんて、ひどいなー」

「…………」


 そんなことを言われてはそのままでいることもできず、渋々振り返る。すると昨夜と同じように、ぎゅっと抱きしめられた。意志に反して騒ぎ出す、心臓の鼓動。


「寝る前の復習ね。俺の名前三回。はい、どうぞ」


 同じベッドで抱き合った状態で、名前を呼ぶのは照れ臭い。照れ隠しに理央の首元に顔を埋めて、早口で呟く。


「理央くん理央くん理央くん」

「棒読み、不合格。もう少し甘えて呼んでみて」

「できないよそんなの。ブタさんが甘えたら気持ち悪いし」

「ねえ、怒るって言ったよね。そういう悪い子には……」

「な、なに?」

「お仕置き!」


 理央の手が乃亜の脇腹に伸びて、容赦なくくすぐる。


「や、あはははっ! や、やめ、あはははは、くすぐった……あははは!」


 しばらくくすぐられ続けた乃亜は、ようやく開放されてぐったりベッドに沈み込む。


「はあ、はあ、いくらなんでもやりすぎ……ひどいよ」

「お仕置きなんだから当たり前」

「もう、疲れたよ……」


 心地良い眠気に襲われ、目を擦る。まどろみ始めたところで、理央の両腕に包まれて、彼の胸にすっぽりと収まる。


 後ろ髪を撫でる、優しい手のひらに心が安らいだ。乃亜は再び、理央の首元に顔を埋める。


(あったかい、気持ちいい。安心する)


「よしよし、反省したね。疲れて眠くなっちゃった?」

「うん……」

「おやすみ」

「……明日は、私がくすぐるから……」

「うん、受けて立つよ」

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