もう少し甘えて呼んでみて

第44話

「もう、変な写真消してよ!」


 レストランを出て歩きながら、乃亜は隣の理央に詰め寄る。


 信じられないほど美味な料理でお腹が満たされ大満足の乃亜だが、理央の方は料理よりも、乃亜の写真の方に満足していそうな雰囲気だ。


「変な写真じゃないよ、奥さんの可愛い写真」


 理央はどこか誇らしげに、乃亜にスマートフォンの画面を見せつける。本当に待ち受けにしてしまったようで、起動しただけで、画面いっぱいに乃亜の間抜け面が映し出される。


「ね、可愛いでしょ」

「やめてってば、もう」


 スマートフォンを奪おうとしても、長身の理央に腕を高く上げられては届かない。乃亜は頬を染めながら、楽しそうな理央の顔を見上げる。


 屈託ない笑顔。その顔を見せられるたび、不覚にもキュンとしてしまう。理央に目を奪われたまま歩いていた乃亜は、前方から歩いて来る歩行者――ガラの悪そうな若い男にぶつかりかけた。


「ふぇっ!?」


 ぐいと引き寄せられ、間抜けな声を上げる。ぶつかりかけた男はチッと舌打ちし、なぜか理央と睨み合ってから通り過ぎていく。


「変な奴に気をつけて。あれ、詐欺師だよ」

「詐欺師?」

「わざとぶつかってきて、金銭を要求するんだ。最近多いから問題になってる」

「そうなんだ。ごめんね、ぼーっと歩いちゃって……ありがとう」


 理央は乃亜の腰を抱き寄せたまま、離す気配がない。やがてそのまま歩き出すものだから、乃亜は動揺した。

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