第42話

(人としてどう見るかと、異性として見れるかは別問題ってことかな)


 悶々と考え込む乃亜の前で、理央は腕時計を確かめる。


「ごめん、ちょっとゆっくりしすぎた。少し急いでいい?」

「? うん」


 乃亜の手を引いて歩き出す理央だが、決して乃亜に無理させないペースで、こちらの様子を伺いながら歩いているのがわかる。


(歩幅、合わせてくれてる。基本優しいんだよね。たまにスパルタだけど)


 しばらく歩いた後理央が足を止めた先には、美しくライトアップされた、豪華な外観のレストランがあった。またも見覚えのある玄関に、乃亜のこめかみから冷や汗が伝う。


「まさか、ここって……」

「あ、知ってる? 最近話題になった、フレンチレストラン」


 空いた口が塞がらない。こちらに来ることになってから色々調べる中で、乃亜も特集動画を見たことがある。


(ランチの予算ですら、桁が違ったんだけど……平然と入っていく。これが、有名美容クリニックの跡継ぎドクター……)


 理央とともに、おっかなびっくり中に入る。品の良いウェイターに出迎えられ荷物を預けながら、乃亜は店内の雰囲気に圧倒された。


 高い天井から吊るされた複数のペンダントランプが、ほのかな照明でシックな雰囲気を演出している。目を引くのが、開放感のある大きな窓。そこから隣の公園のライトアップされた木々が見えて、まるで一枚の絵のようだ。


 所々に飾られた白い薔薇と、各テーブルにかけられた真っ白なテーブルクロスが、暗めな店内を明るく居心地の良い空間に仕上げている。


 こんな場所にいきなり連れてこられても、心の準備がまるで出来ていない。焦った乃亜は理央の服をくいくい引っ張ってから、背伸びして理央に耳打ちする。


「理央くん、私、こんなレストラン初めて。テーブルマナーちゃんとできるか自信ないよ」

「大丈夫、教えてあげるから」


 ウェイターに引かれた椅子に恐る恐る座りながら、乃亜はガチガチに緊張していた。

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