第41話

店を出た後少し歩くと、理央はまた有り得ない店へと足を進める。今度は、有名なブランドジュエリーショップだ。理央が店員と何やら話すと、すぐに個室に通された。


(こんなお店で個室に通されるなんて、何事!?)


 目の前に出されたのは、いかにもお高そうなグラスに注がれたシャンパンと、ミニケーキ。ちゃっかりケーキはいただいてから、理央と並んで座ってそわそわ待っていると、店員がいくつかの指輪を持って来た。


「乃亜ちゃんはどれがいい?」

「あの、これって誰の指輪……?」

「俺と君のペアリング。痩せたらサイズ直すから安心して」


(いきなりペアリング……!)


 衝撃を受ける乃亜を置き去りに指輪は決まり、理央はさっさと購入してしまった。店員が一旦去った後、理央は唐突に話し出す。


「二代目医師だからよく羨ましがられるけど、俺だって遊んでたんじゃないんだよ」

「う、うん……?」

「勉強は大変で、仕事も楽じゃない。クリニックの評判は落とせないし、……腕を磨く理由もあったし」


 理央は乃亜をチラッと見た。乃亜は首を捻る。


(……?)


「とにかく、ずっと必死にやってきたよ。だからそろそろ報われるべきだよね。指輪、つけてくれるよね?」

「は、はい……」


 勢いに押されて、思わず頷く。やがて店員が持ってきた指輪を受け取り、乃亜の右手をとった理央は、薬指に指輪をつけた。そして自分の右手の薬指にもつけて、「お揃い」と上機嫌に笑う。不覚にもその笑顔に、キュンとする乃亜だった。


 外に出ると、すっかり夜の景色になっていた。


(なんか場違いな経験しすぎて、疲れちゃったな)


 理央は乃亜の全身をまじまじと眺めて、乃亜の薬指の指輪を撫でてから手を繋ぎ、満足そうに笑む。


「全身コーディネートして、すっかり綺麗になったよね」

「うん、おかげさまで。これで痩せてたら、最高だったんだけど」

「俺、前にも言ったよね? そのままでも素敵だって。努力はいいことだけど、自分を否定するのは違うよ」

「そう……だね」


(だけど理央くんだって、私を女として見てくれないじゃない……)


 喉元まで出かかった言葉を、ギリギリで飲み込んだ。

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