第40話

手を繋いだまま、屋外エリアを歩いていく。代表的なショッピングエリアだ。


 ぼんやり歩いていた乃亜は、不意に理央に手を引かれ方向転換。豪華なショーウィンドウが印象的な建物に入っていく。連れて行かれながら、乃亜はぎょっとした。


(観光ガイドで見た、高級ファッションブランド店!!)


「ちょ、ちょっと待って理央くん、このお店に一体何の用が?」

「君の服を買おうと思って」

「えっ!? いいよ無理だよそんな、私お金ないし、場違いだよ……!」

「お金は心配しないで。ダイエットに協力するし、傷跡も治してあげる。だから、君は俺の夢を叶えてよ」

「夢?」

「可愛い奥さんを連れて、デートを楽しむこと」


 結局理央に押し切られて店内に入る。理央と店員の見立てた靴から服までを一式購入し、それを着て出てくる羽目に。


 乃亜が自ら選ぶことは決してなさそうな、華やかなデザインのワンピースドレスに、美しいハイヒール。人目に晒されるのも恥ずかしい。


「まさに豚に真珠……」


 思わず呟いた乃亜に、なぜかムッとしたような視線を向ける理央。


「君、何言ってるの? 似合ってるでしょ。ほら、よく見なよ」


 理央はショーウィンドウに乃亜の体を向けて、そこに映る姿を見るように促す。着飾った自分を目の当たりにした乃亜は、苦笑いを漏らした。


「ブタさん」

「それ以上言ったら怒るよ?」


 言いながら既に怒っている理央が、乃亜は不思議でたまらない。


(何で怒るんだろう。理央くんだってそう思ってるはずなのに)


 不思議に思いながら、乃亜は再度、映っている自分の姿を見た。


「…………」


 似合わないとは思うが、着飾らせてもらって嬉しくないといったら嘘になる。そして乃亜の隣に映る、長身で魅力的な男性ーー理央の姿。


(せっかくの観光なんだし。どうせ夫婦ごっこなら、いっそなりきって楽しんじゃっても……)


 そう思い至り、乃亜は開き直った。繋いだ手を離してから、思い切って腕を絡めると、理央が眉をひそめて立ち止まる。


「どうしたの? 俺、理央だよ。また間違えてない?」

「間違えてないよ、理央くん。私の旦那さんなんでしょ」

「うん、そう。ようやくその気になってくれたんだ。じゃあ、大好き理央くんって言ってみて」

「大好き、理央くん」


 少し照れながらも顔を見上げて微笑むと、理央は口元を片手で覆って目を逸らした。心なしか耳が赤いように見える。


「やば、勘違いしそう……」

「え、なに?」

「……何でもないよ。行こう」

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