第38話
乃亜は理央の熱っぽい瞳を見つめる。失恋の痛みで心に空いた穴を埋めてくれるなら、今、一線を越えても構わないと思った。
(身体からでもいい。身体すら愛されないなら、何も始まらないから)
熱っぽい視線が交わり、二人の唇が近づく。だが理央はキスする寸前に、唐突に顔を逸らした。そして乃亜を突き放す一言を口にする。
「汗、気持ち悪いでしょ。シャワー浴びておいでよ。出かける約束だったよね。着替えたら観光に行こう」
雰囲気に逆らったそのあからさまな拒絶に、乃亜はショックを受けた。何も言わずに身を翻し、バスルームに駆け込む。
(流されないんだ。そうだよね。私ってほんと、女として終わってる)
激しい自己嫌悪で、涙が出てたまらない。
(泣いてる暇があったら努力するんだ。痩せて変わって傷を治して、人生やり直すんだから……)
シャワーを手早く終えた乃亜は、自分で持ってきた地味な服を着てリビングに戻る。乃亜を見た理央は、意外な顔をした。彼の方はかっちりしたジャケットなんか着ており、洒落た格好だ。
「今日はそれ着たんだね。でもせっかくの観光なんだから、俺があげた服の方が……」
「動きやすい方がいいかと思って」
(拒絶された直後に、贈られた服なんて着れない)
子供じみた理由かもしれないが、傷つきすぎて虚勢を張るのに必死だった。
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