第35話

一人になった乃亜は、恐る恐る体重計に乗った。そして表示された数値に衝撃を受ける。


「えっ、2kgも増えてる! 都会の体重計って重めに出るの!?」


 両手を頬に当ててしばし絶望した後、乃亜は気を紛らわす作戦に出る。


(ごはん食べよう……)


 ダイニングテーブルに座り、理央の用意した朝食を摂る。卵焼きを食べて、味噌汁を飲んでみる。


「美味しい……夫というよりむしろ、嫁に欲しい」


 あっという間に平らげて片付けをし、テレビをつけて、ソファに横になりゴロゴロする。やはりおにぎりは小さくて、物足りなかったが仕方ない。


「運動かあ。やる気出ないなあ」


 なかなか動き出せない。寛いでいたかったが、視界にチラチラ入ってくるのは、テーブルの上の小冊子。乃亜は最後に見た、健の機嫌の悪い顔を思い出した。


「やらなきゃ。決めたんだもん。見返してやるんだって!」


 乃亜は表情を引き締めて、ソファから降りた。怒涛の勢いで、運動メニューを上から順番にこなしていく。ストレッチ、エア縄跳び、ステップ運動。


「乃亜ちゃん、ただいま」


 腹筋に没頭していた乃亜は、近くで声をかけられるまで、理央が帰ったことに気づかなかった。息が上がった状態でなんとか体を起こし、汗をダラダラ流しながら彼を見る。


「おかえり、なさい……」

「頑張ったんだね」


 小さく笑いを漏らしながら鞄を置いた理央は、乃亜の脚を押さえた。


「手伝ってあげる。あと何回?」

「2回……」

「あと少しだね。はい、起きて」


 歯を食いしばって頑張るのだが、なかなか起き上がれない。

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