「もっとちょうだい」

第34話

翌朝、寝ぼけ眼をこすりながら寝返りを打つと、理央は既にいなかった。


「朝……?」


 しばらく微睡んだ後、のそのそとベッドを出てリビングに入ると、理央が爽やかな微笑みで声をかけてくる。


「あ、起きた? おはよう。ご飯作ってあるけど、食べれそう?」

「うん、ありがとう」


 テーブルの上には、和食が並んでいる。根菜がたっぷり入った味噌汁、卵焼き、シャケおにぎり。乃亜からすればかなり小ぶりだ。思わず本音が漏れる。


「おにぎり小さい……」

「普通サイズ。文句があるなら食べなくていいけど?」

「い、いただきます」

「その前に体重測って。表を作ったから毎日記入してね。家でできる運動メニューも考えたから、それもやったら記入ね」


 リビングテーブルの上を見れば、小冊子が置いてあった。表紙には体重チェック表とグラフ、パラパラめくれば図入りの運動メニューをまとめてある。


「これ、いつの間に作ったの?」

「昨日論文のついでにね」


 乃亜は運動メニューを凝視した。


(腹筋とかもある。毎日続けるのは根気が必要かも。チェック表にしてもらえたのはありがたい……ん?)


 並ぶ運動メニューの中、気になる項目が目に留まる。


「二人で散歩?」

「毎日、俺が帰ったら一緒にね。ダイエットのためだよ」

「二人で?」

「そう、二人で・・・

「理央くんもダイエット?」

「俺は困った奥さんの付き添い兼監視。こっそり買い食いなんかしないようにね」

「うっ、気をつけます……」


 ケーキを食べまくっていた乃亜には、耳が痛い話だ。


「最終的には、一時間以上歩けるようになりたいよね」

「一時間……大変そう」

「まあ、それは明日からね。まずは観光。今日は外来で昼食前には帰るから、運動メニューの上から半分やっといてね」

「えっ!? そんな、いきなり?」

「ちゃんとできたら、またご褒美あげるから。じゃ、行ってきます。サボらないでね」


 にっこりしながらそう言い捨てると、ちゃっかり乃亜にキスをしてから、理央は出て行った。


(うう、やっぱりスパルタ……)

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