第32話

「残念だけど、脂肪吸引は駄目。君の場合、楽して痩せても意味がないから」

「わ、わかったからもうやめて。なんかくすぐったいし、それに……」


 お腹から引き剥がすため、理央の手を強く握ると、またも至近距離で目が合った。透き通るような茶色の瞳から、慌てて目を逸らす。


「恥ずかしいから、やめて」


 眉尻を下げて赤くなった乃亜をじっと見た後、理央は不意に、乃亜の胸元にポスッと額を当てた。


「!?」

「その顔、反則」


 そう言って長いため息をつくと、理央は徐に立ち上がり、ソファの背にかけてあったエプロンを手に取る。それをハンガーにかけながら、何気なく口を開いた。


「先にシャワー浴びておいでよ。今日は疲れたでしょ? 明日も観光の予定だから、早く寝よう」

「あ、うん……」


 バスルームに入りシャワーを浴びながら、乃亜は考え込んでいた。


(一緒に寝るんだよね、ベッドは一つだし。どうせ何もないんだろうけど、緊張する……)


 シャワーを終えて、バスタブから出る。パジャマは持ってきていたが、せっかくだから理央に買ってもらったものを身につけた。繊細なデザインの白いネグリジェだ。


(可愛すぎる……さすがにこれは似合ってないだろうな)


 わざわざパジャマ姿を披露するのも照れくさいので、何か熱心に勉強している様子の理央には声をかけず、先に一人でベッドに入った。

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