第30話
(口移ししておいて、お菓子をあげただけって……私とのキスはキスにも入らないってこと!?)
怒りが表情に出ていたのか、理央は乃亜の顔色を伺っている。
「そんなに怒らないでよ。傷つくんだけど」
「別に怒ってない」
「君、まだ彼が好きなんだね。昨日の今日だし仕方ないのかな。話聞いた限りでは最低男だと思うけど」
「そんなことない! 私が悪いんだよ、全然痩せられなかったから」
必死に健を庇う乃亜に、理央は驚いたようだった。失恋直後の乃亜としては、これまで縋って生きてきた健を否定したくはなかった。
「健ちゃんは優しいところもあるし、私は彼に出会って救われたの。だから、そこまでひどい人じゃ……」
「ふーん、そう」
そっけない声でそれだけ言うと、理央は乃亜から身体を離す。自分が未練がましい女と化していることに気づいた乃亜は、軽く咳払いした。
「でも、フラれたんだし。もう忘れるつもり!」
「そうだね、見返すんでしょ? 頑張ろうよ。綺麗になって彼に会ったら、俺がはっきり言ってあげるからさ」
理央の指が乃亜の髪を梳き、頬に添えられる。
「絶対に返さない。君は俺のものだって」
その強い眼差しに、乃亜は放心した。台詞だけ聞けば、まるで彼女への独占欲を見せる彼氏のよう。
(勘違いしちゃダメ。お飾り妻として必要とされてるだけ!)
自分に何度も言い聞かせ、平静を装う。そんな乃亜から手をひくと、理央はキャンディの包み紙を破り、口に入れた。その様子をぼんやり眺めていると、理央がにやりと口角を上げる。
「なに、もう一個いる? また食べさせてあげようか?」
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