第29話

「よしよし。おかわりを我慢した乃亜ちゃんは偉かったから、ご褒美をあげるよ。目を閉じて」


 ソファで恋人のように寄り添い合っている状況にドキドキはしたものの、食欲に支配された乃亜にとっては、お菓子を貰えるか貰えないかの方がずっと気になる問題だ。素直に目を閉じる。ガサゴソと袋菓子を開ける音に、胸が躍った。


「口、開けてね」


 素直に従い口を開けて、お菓子を入れてもらうのを待つ乃亜の耳に、理央の小さな笑いが落ちる。


「簡単に従っちゃうんだ。そんなにお菓子これが欲しいの? じゃあ、あげる」


 ピッと個包装を開ける音。程なくして、乃亜の腰はぐっと抱き寄せられ、理央と密着した。驚く間も無く、期待したお菓子の代わりに与えられる、深いキス。


「んんー!?」


 くぐもった声を上げながら目を見開くと、理央の長いまつ毛が見えた。柔らかい理央の舌が、何かを押し込んでくる。途端に口の中に広がる、甘い味。すぐに終わったキスの後、乃亜は口内に残された丸いものを舌で転がす。


「飴……?」

「美味しい?」


 至近距離から面白そうにこちらを見ている理央。呆気に取られていた乃亜は、ようやく我に帰った。


「い、いきなり何するの!?」

「何って、お菓子をあげただけだけど」


 平然と言ってのける、涼しい顔に目を剥く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る