第28話

(もっと食べたかった。唐揚げの日は、ごはん大盛り三杯は食べてたのに!)


 やがて片付けを終えた理央が戻ってくる。エプロンを脱ぎ捨ててソファに座り、テレビをつけてから乃亜を見た。


「何してるの、そわそわして」

「い、いや別に……」

「そんなに警戒しなくても、何もしないよ。座れば?」


 軽く笑う理央にムッとする。


(おまえなんかに手を出すわけないだろって?)


「別にそんなこと心配してません。ただちょっと、ごはんが足りなかっただけで」

「そっか……まだ食べたかったよね、可哀想に」


 からかうような物言いに、更にムッとする乃亜。


(あなたがおかわり、許してくれなかったんでしょ!)


 突っ立ったまま唇を引き結んでいる乃亜に、理央がにこやかに両手を広げた。乃亜は怪訝に眉を顰める。


「な、なに?」

「おいで。抱っこして慰めてあげる」

「……は?」


 耳を疑い、乃亜はその場に立ち尽くした。寄ってくる気配を見せない乃亜に、理央がこれ以上ない台詞で揺さぶりをかけてくる。


「素直にそばに来たら、何か食べ物あげようかなー。さっき買ったお菓子もあるし。ほら、これ」

「!!」


 ダイニングテーブルの上に置かれた、先程スーパーで購入した複数のお菓子を手に取り、乃亜に見せつける理央。乃亜の喉がごくりと鳴る。そして誘惑に負けた乃亜は、そそくさと理央の隣に腰掛けるのだった。


 あっけなく罠にかかった仮の妻を、理央は当然のように抱き寄せる。

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