第27話

やがてテーブルに完璧な夕食が並んだ。グラタンに唐揚げ、大皿に盛り付けられたカラフルなサラダと、野菜たっぷりミネストローネ。美味しそうな匂いに、乃亜のお腹がぐうと鳴った。その間抜けな音に、乃亜は赤面し、理央は吹き出す。


「ごめんごめん、お腹すいて待ちくたびれた?」

「…………」

「どうぞ。食べて」


 気まずい思いでダイニングテーブルに座り、箸を取る。一口食べた乃亜は、瞳を輝かせた。


 外はサクサク、中はジューシーな唐揚げはごはんが進む。グラタンもホワイトソースとチーズがトロトロで最高だ。ミネストローネはハーブが香る本格派。サラダはドレッシングが手作りしてあり、信じられないほど美味しかった。乃亜は夢中で食べ進める。


「全部美味しい!」

「よかった、安心したよ。ダイエットメニューは初めてで、美味しく作れるか心配だったからさ」

「ダイエットメニュー?」


 唐揚げもグラタンも高カロリーメニューで、ダイエットとは結びつかない。


「そうだよ。君に台無しにされかけた、豆腐のグラタンと、ノンフライ唐揚げ」

「豆腐? ノンフライ? これが!?」

「味に問題なさそうだね。余計なことばかりしてくれたけど、二人で料理なんて新婚みたいで楽しかったよ」


 テーブルを挟んで座って、ニコニコ笑う理央。


(新婚……)


 その言葉の響きと、理央の笑顔の魅力に、乃亜はあっけなくときめいてしまった。照れ隠しのように、どうでも良い話題を呟く。


「毎日自炊してるの? すごいね」

「趣味だし、外食ばかりじゃ健康が気になるから。お腹すかせた君は和食じゃ物足りないと思って、洋食にしたよ」


(有能すぎる……お医者さんでありながら、私より女子力高いとかどういうこと)


 そんなことを考えながらも箸は進み、あっという間に、大盛りだったご飯茶碗が空になった。


「あの、ごはんのおかわりは……」

「それで我慢して。おかずは調理で誤魔化せるけど、主食は減らしてかないと。サラダとスープは食べて良いから」

「そんな……」


 サラダとスープをたくさん食べた乃亜だが、当然満たされない。皿洗いする理央に「休んどいて」とキッチンを追い出された乃亜は、うろうろ落ち着かない様子でお腹を撫でさすっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る