欲しいの?じゃあ、あげる

第26話

マンションを出て、理央と二人で夜の街を歩く。きらびやかなネオンに包まれて、たくさんの歩行者で賑わっていた。


(うわあ、さすが都会!)


 田舎者丸出しとばかり、物珍しそうにキョロキョロ見回す乃亜を見て、理央はクスッと笑う。


「さ、スーパーはあっち。観光は明日以降、改めて連れて行くから心配しないで」


 ナチュラルに握られた手に、乃亜は驚いた。


「あの、手……」

「はぐれないようにね」


 そんな言葉と共に向けられる、やたらと甘い理央の微笑み。その不意打ちの甘さに酔う。


 出会ったばかりの理央と恋人のように手を繋いで、賑やかな夜を歩く。何もかもが違和感だらけだというのに、乃亜の心は弾んでいた。


 買い物を終えてマンションに戻ると、理央は乃亜をソファに座らせて、エプロンをつけてキッチンに立った。乃亜はそんな彼の姿をこっそり凝視する。


(様になってる。顔とスタイルがいいと、なんでも似合うのね)


 ぼんやり見惚れていたかったが、そうもいかない。彼だけに料理をさせて、待っているなんてできないのだ。乃亜はついにキッチンに入った。


「あの、私も手伝いを……」

「ありがとう。じゃあその唐揚げを焼いてくれる?」


(唐揚げを……焼く? 揚げるの間違い?)


「唐揚げなら任せて。大好物で、毎日のように作って食べてたから!」


 自信満々に言って、フライパンに向き合った乃亜は眉を寄せた。


(やけに油が少ないな。ちょっと足しちゃおう)


 油のボトルを手に取った乃亜は、フライパンにドボドボと注ぎ入れる。と、気づいた理央が慌てて寄ってきた。


「何してるの、油入れすぎだよ!」

「えっ!」


(なんで!?)


 乃亜からフライパンを取り上げた理央は、オーブンの前の深皿を指し示した。


「これはいいから、あのグラタン焼いて」

「は、はい!」


 今度こそ上手くやろうと、乃亜は張り切ってオーブンの前に立った。


(……これ、チーズが控えめすぎない? グラタンはチーズ増し増しじゃないと!)


 近くのシュレットチーズを発見した乃亜は、グラタン皿にチーズをたっぷり、山盛りに追加していく。夢中になっていると、ポン、と肩に手を置かれた。


「どれだけチーズ足してるの、君。もうグラタンじゃなくて、ただのチーズ焼きだよね、それ」


 呆れ顔でため息をつくと、理央は乃亜をソファへと連行した。


「もういいよ、一人の方が早いから。ここで座って待ってて」

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