第24話

乃亜の首筋を強く吸った後、理央は顔を上げた。鏡越しに目が合う。


「消してよ」

「消すって……?」

「さっきの男のアカウント、削除してよ。駄目?」


 縋る子犬のような視線に、乃亜は一瞬言葉に詰まってしまった。


「駄目なの?」

「いや別にダメってわけじゃ……元々関わるつもりもないし」

「よかった。今後のことだけど、仮とは言えど夫婦だから浮気はしないでね。もし浮気したら……」


 理央は指先で、先程彼が吸い上げて跡がついた乃亜の首筋を撫でる。


「君のこと、めちゃくちゃに抱いちゃうかもね」


 爆弾発言にドキッとしたのはほんの一瞬で、すぐに乃亜の心に、もやもやした感情が広がった。


(あの夜、最後までできなかったくせに。抱けないくせに!)


 そのことを思い出すと、女としての自分が惨めでたまらなくて、泣きたい気分になる。


「いいよ、抱いても」


 挑むように、乃亜は言った。やれるものならやってみろ、そんな気持ちで。鏡越しの理央は驚いたようだ。真顔で見つめていたら、彼から目を逸らされる。


「俺が欲しいのは、そんなんじゃないから」

「…………」


(太った身体はいらないけど、お飾り妻は欲しいってこと? 浮気を許さないのは、世間体を気にして?)


 乃亜のもやもやが更に増した。理央は床に置いてあった紙袋から、一着の服を取り出した。


「これ、君の服。良かったら着てよ。他にもパジャマとか色々買ったから、後から見てね」


 手渡された服は、乃亜が好む、体型がカバーできるワンピースタイプ。着なれたカジュアルではなくきれいめなものだが、落ち着いたデザインで好印象だ。タグには見覚えのあるロゴが入っていた。

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