第21話

(せっかくいいところだったのに)


 渋々フォークを皿に置いて、乃亜は電話に出た。


「もしもし?」

『ごめん、合鍵渡すの忘れてたよ。まだ観光中? 迎えに行くから、今どこか教えて』

「大きい公園の近くの、イーストウッドカフェってとこだけど……」

『わかった、ちょっと待っててね』


 電話を切った乃亜は、ようやく念願のケーキを口にする。


(美味しい!!)


 思う存分味わって、三個目のケーキを口に運ぼうとしたその時、誰かが乃亜の手を握った。


「ちょっと。俺とダイエットの約束したばかりだよね? ケーキ何個食べてるの?」


 理央だ。乃亜は気まずく目を逸らす。


「え、えっと……三個」

「三個? 痩せる気あるの?」

「ごめんなさい……」


 乃亜はしゅんと沈むと、断腸の思いでフォークを皿に戻した。涙目でがっかりする乃亜を見た理央は、なぜかぐっと言葉に詰まり、それからため息を吐き出す。


「まあいいけどさ。俺、君にそんな顔させたいんじゃないから。君が幸せなら、そのままでも全然……」


 と、理央が言いかけたところで、乃亜のスマートフォンが鳴った。SNSをフォローされて、通知が来たようだ。見れば、英語の見知らぬ名前。続いてダイレクトメールが届く。


『店名で投稿してくれてありがとう! ラテアート、気に入ってくれて嬉しいよ。今夜は空いてる?』

「えっ……」


 ふとカウンターを見れば、先程のバリスタと目が合った。ウインクを飛ばされて戸惑う。乃亜のスマートフォンを横から覗き見た後、バリスタと乃亜を交互に見比べた理央は、あからさまに不機嫌な顔をした。


 カウンターに歩み寄ると、バリスタと顔を突き合わせる理央。外国人と並んでも見劣りしない理央の身長とスタイルに、乃亜は驚くばかりだ。

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