第19話
「……ちゃん……のんちゃん!」
乃亜がハッと我に返ると、目の前に長い廊下が続いていた。横に見える引き戸の上の方には、6-Aと書かれたプレートが見える。
(え? ここって……小学校? のんちゃんって……昔の私のあだ名じゃない)
キョロキョロと周りを見回すと、すぐ近くに長いほうきを手に持った女の子が二人いた。その片方の子に既視感を覚えた乃亜は、注意深く凝視する。
(この子、小学生の頃の私……!?)
二人は掃除しながら、乃亜のことなど眼中にない様子で談笑している。乃亜は眉を顰めた。
(私のこと見えてないんだ。これ、夢?)
「乃亜、こいつがおまえのこと好きなんだって」
ふと、背後から別の声が飛んできた。乃亜が振り向いた先には、いかにもやんちゃと言わんばかりの見た目をした少年が、掃除道具の一つも持たずに立っている。
(あ、中学生までつるんでた悪ガキ翔太。そして……)
乃亜は翔太の後ろに自信なさげに立っている、ふくよかでおとなしそうな少年を見た。真面目そうな彼は、きっちりほうきを持っている。
(……誰だっけ? 全然記憶がない)
いくら考えても全く思い出せなかった。
小学生の乃亜は、得意げに腰に手を当てると、名前もわからない、その大人しそうな少年に不敵な笑みを向ける。少年はおどおどと猫背になりながら、びくっと肩を揺らした。
「私、太ってる男の子って嫌い! 全然かっこよくないもん。痩せてる男の子のほうが好きなんだよね」
容赦なく言い放った乃亜の勝気な声に、少年はショックを隠し切れない表情で、大きく目を見開いた。幼い乃亜は更に続ける。
「まずは痩せてきてよ。痩せてから、ちゃんと私の目を見て好きって言えたら、考えてあげる!」
(うわ、私、いくら子供とはいえ調子に乗りすぎ……)
少年はふくよかな体を抱きしめるようにして隠しながら、涙ぐんだ目で乃亜を強く睨みつけた。ほうきを翔太に押し付けると、そのまま身をひるがえして走り去っていく。
その後ろ姿を見た乃亜の胸に、苦しいほどの罪悪感が広がった。
(ごめんね、悔しいよね。わかるよ……ごめんね)
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