抱けないくせに

第18話

「とりあえず、散歩にでも行こうかな……」


 一人になった乃亜は、部屋を出ることにした。綺麗に揃えて置いてあった靴に履き替え、部屋の外へ出る。


 上層階からエレベーターで降りて行き、洒落たエントランスホールに出た。高級感を感じさせる天然石と、木目調を合わせたデザイン。コンシェルジュの姿もあり、豪華な仕様は高級タワマンといった雰囲気だ。


 そしてマンションから一歩足を踏み出した乃亜は、その立地の良さに仰天する。


(こんな都心部のタワマン……さすがお医者様)


 ごくりと唾を飲み込み、乃亜は歩き出した。田舎とは違い、行きかう人が多い。


(あれは……公園?)


 川沿いをのんびり歩いていくと、大きな公園が見えてきた。高層ビルをバックに、緑豊かな木々と池、芝生が広がっていて、気持ちの良い雰囲気だ。


 しばらく公園を散策し、広場に入った。たくさんの人がしているように、ごろんと芝生に横になる。ぼんやりしていると、健にフラれたことを思い出してしまった。視界いっぱいに広がる青空が、涙で滲んでいく。


(今頃、健ちゃんといるはずだったのに)


 今になって、失恋のショックが身に染みる。二日酔いの頭痛もまだ健在で、更に気が滅入った。


「思い出しちゃダメ。もう忘れないと……」


 そう自分に言い聞かせ、目を閉じて頭を空っぽにし、落ちてくる睡魔に身を委ねる。夢の中に落ちていく。

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