第17話
(言われるがままに、連絡先まで交換しちゃった……)
乃亜は複雑な顔で、理央の連絡先が表示されたスマートフォンを眺める。
「改めて、これからよろしくね、乃亜ちゃん」
「あ、ハイ、よろしくお願いします」
「敬語はやめようよ。俺のこと真剣に考えてほしいし、まずは新婚生活の練習をしたいんだけど、どう?」
「新婚生活の……練習?」
「うん。お互い、本物の夫婦と思って生活するんだ。結婚のイメージが湧いて、検討しやすいでしょ」
「え、でもそんな、初対面なのに」
「お見合いや婚活で、交際期間短いまま結婚する人も多いよね? 練習から入れば、ハードル低いと思うよ」
「そう言われてみれば、確かにそうかも……?」
「でしょ? 今日からよろしくね、奥さん」
チュッと音を立てて、乃亜の頬にキスが落ちる。
「!!」
「君のほっぺた、プニプニして気持ちいいね。子供みたい」
頬を指でつんつんしたり、つまんでプニプニされた乃亜は、バッと身を離し、頬を押さえて赤面した。
(言いくるめられちゃったけど、なんで夫婦の真似事なんか……)
悶々と考え込む乃亜を尻目に、理央は時計をチラッと見る。
「残念だけど、そろそろ出るよ。仕事」
「あ、そうなんですね」
「敬語」
「あ……そうなんだね」
理央は満足そうな顔をした後、財布から数枚お札を取り出した。それを手渡された乃亜はギョッとする。
「な、何この大金……?」
「君は観光でもしてきなよ。お金が足りなくなったら言ってね」
「あ、ちょっと、こんなに貰えない……」
「いいから」
理央はそう言って、リビングのドアを開けて玄関へ。と思えばすぐに戻ってきた。拗ねたような不満げな顔をしている。
「乃亜ちゃん?」
「な、なんですか?」
「なんですか、じゃないよ。奥さんに可愛く見送ってもらうの、夢だったんだけどな」
「あ、はい。すみません」
(第一印象はひたすら美形! って感じなのに、強引だし、なんか予想外な人だな)
小さく笑いを漏らしながら、スリッパをパタパタ鳴らして駆け寄る。
「乃亜ちゃん、夫婦に敬語は禁止。ごめんね理央くん、って言ってみて?」
「ごめんね、り……理央くん」
「いいね、最高。行ってきます」
そう言うと、理央は乃亜の腰を引き寄せて、今度は唇にキスをした。
「!?」
唖然とする乃亜に、にっこりと笑顔を向けてから、理央は部屋を出て行く。
「あ、そっか。新婚生活の練習……私、耐えられるのかな」
乃亜はぽつりと呟くのだった。
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