第15話
「如月美容外科では痩身コースもやってるから、ダイエットにも協力できると思うよ」
「!」
美味しい話に、乃亜の心が揺らぐ。
「それに、俺との結婚を検討する前に帰ったら、俺も約束を反故にするかもね」
「約束?」
「この傷跡を治してあげる約束」
理央は手のひらを乃亜の顔を添えて、親指の腹で傷跡を撫でた。理央にそのつもりはないのだろうが、いちいち接近されると、こちらとしては口説かれている気分になる。
(この人、天然たらしっぽい)
理央からさりげなく身を引いた乃亜は、頭を抱えてぐるぐる悩み始めた。
(要は政略結婚を回避するための、契約結婚ってことだよね。私は幸せになりたいのに、仮面夫婦なんてイヤ!)
チラッと理央の様子を伺うと、余裕の微笑みで小首を傾げている。何を考えているかわからない。乃亜の苦悩が加速する。
(だけど傷跡治して欲しいし……女に見られてないから同居も問題ナシ? でも初対面で同居ってどうなの!?)
見かねた理央が口を出す。
「難しく考えないでよ。君がダイエットに成功して、前向きになってくれればいいんだ」
「そんなこと言われても……」
「この部屋もホテル代わりくらいに考えて。今から帰ってまた来るのも大変でしょ?」
「別にそこまで大変ってほどじゃ……」
「結婚のことは、痩せて傷跡を治した後、考えてくれればいいから」
乃亜は彼の真意を図りかねて、不思議に思いながら理央を見つめる。
「どうしてそこまで良くしてくれるんですか?」
「……さあね、どうしてだと思う?」
意味深な含み笑いを浮かべて、乃亜を見つめ返してくる理央。乃亜が言葉を探していると、理央から話し出した。
「まあ、職業病かな。容姿で自信を無くした人見ると、綺麗にしてあげたくなるんだ」
「あ、なるほど。お医者さんの鏡って感じで、素敵ですね」
「そうかな。ありがとう」
理央は爽やかに微笑む。笑うと彼の整った容姿が更に際立ち、乃亜の目には彼がキラキラ輝いてすら見えた。
(この顔と一緒に住んで、好きにならない自信ない。失恋はもうこりごり。帰らなきゃ!)
「先生とは初対面だし、いきなり同居はさすがに。私やっぱり……」
と、乃亜が言いかけたところで、乃亜のスマホの着信音が鳴った。
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