第13話

「鏡に映った自分を見て、どう思う?」


 鏡にはっきりと映し出されている、乃亜の身体。下着姿でも、色気以前の問題だ。乃亜は目を逸らして顔を歪めた。


「目を逸らさないで。ちゃんと見て」


 理央の非情な言葉に、嫌々ながら自分を眺める。彼は黙って乃亜の言葉を待っている。沈黙の後、乃亜は仕方なく口を開いた。


「醜くて、だらしなくて、情け無くて……消えてしまいたい。大嫌いです……」


 乃亜の震える声を聞いた理央は、拾い上げた服を、乃亜の肩にそっとかける。


「ふくよかなことは悪いことじゃない。個性だよ。君はそのままでも素敵だし、恥じる必要もない」

「…………」

「でも君は、今の自分に納得してないよね? 自分を卑下してばかりの、コンプレックスの塊だ」

「っ!!」


 鋭い言葉が、乃亜の胸に深々と突き刺さった。


「君の心は、君自身を受け入れてない。傷跡だけ治しても、幸せになれないと思わない?」

「それは……そうかも知れないけど」

「だから君がダイエットに成功したら、無償で傷を治してあげるよ」

「……ダイエット成功って、具体的には何kg痩せたらいいですか?」

「君が納得できればそれでいいかな。自分に自信を持って、真っ直ぐ前を向いて歩けるようになれれば」

「自信を……」


 何kgと指定されるよりも、よほど厳しい要求だ。小中学生時代に近いくらい痩せなければ、自信は持てそうにない。


「俺からの提案は以上だけど、君はどうするの?」

「……私は、……」

「はっきり言ってみて。言葉にしないと何も始まらないから」

「…………」


(3kg痩せるだけでも、本当に辛かった。それ以上痩せるなんて……)


 一瞬言い淀むも、真っ直ぐな理央の視線に射抜かれた。乃亜は自然と居住まいを正し、表情を引き締める。


(でも、このままじゃダメ!)


「私は、変わりたい。痩せて綺麗になって、素敵な人と結婚してっ、健ちゃんを見返したいっ!!」


 思い切り叫んで、興奮から鼻息を荒くした乃亜に、向けられる優しい眼差し。乃亜は思わず惚けた。


「契約成立だね。きっと上手くいくよ。応援してるから、頑張ってね」

「はい、よろしくお願いします!」

「それから彼を見返すための結婚相手だけど、俺はどうかな」

「……はっ?」

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