第10話

「大丈夫? 無理なダイエットでもしてたの? 寝言でお腹すいたって言った後、痩せたいって続けてたもんね」

「あ、あはは……私、そんなことまで?」


(何やってるのよ、寝てる時の私!)


 健と間違えて知らない男性に迫った挙句、能天気に寝言まで呟いた自分が恨めしい。


「昨夜あんなにフラフラしてたんだから、いきなり立ったら駄目だよ。ほら、あっちで休んで」


 必要以上に支えられて、リビングルームのソファに誘導された。二人並んで腰掛けた乃亜は眉を寄せる。


(……距離が近い。完全にぴったりくっついてる)


 さりげなく距離をとるが、理央に気を悪くした様子はない。


「落ち着くまでゆっくりして行きなよ」

「そんな、申し訳ないですし」

「こっちは全然構わないし、気にしないで。この後何か予定が? 送って行くよ、荷物も多いみたいだし」


 見ればリビングの片隅にボストンバッグとキャリーバッグが置かれていた。


(荷物まで持って来てくれたんだ……)


「いえ、予定なんかないので……ありがとうございました。助けてもらった上、ご馳走になっちゃって」

「気にしないでって。君、旅行で来たんでしょ?」

「旅行……じゃ、ないんですけど」

「そうなの? じゃあ仕事?」

「…………」


 また健のことを思い出し、乃亜の気分が沈んだ。隠すように頬の傷を撫でさすりながら、乃亜は事情を話し始めていた。

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