第8話

(うっすらした記憶しかないけど、最後までは行ってない気がする)


 乃亜は布団から伸びた自分の太い足に目線を落とした。


(そうだよね。こんな身体だもん。女に見れないって健ちゃんも言うし、この人もきっと……)


 健にフラれたことを思い出し、気分が沈む。乃亜が布団にくるまったまま動けずにいると、男性は床に散らばった乃亜の服を、かき集めて持ってきた。平然とした顔で下着まで持ってこられては、こちらが照れるしかない。


「はい、君の服」

「あ、ありがとう……」

「シャワーを使っていいよ。その間に朝食を用意しとくから」

「じゃあお借りします……」


 丁寧に揃えて置いてあったスリッパを履き、寝室らしき部屋を出て、男性についていく。白を基調としたリビングルーム。開放感を感じさせる大きな出窓からは、立ち並ぶビルの景色が見えた。続くダイニングルームの窓の外には、広いバルコニー。


 シャワーを浴びて出ると、ダイニングテーブルに朝食が用意されていた。ソーセージとサラダを添えたエッグベネディクト。生クリームとフルーツたっぷりの、美味しそうなパンケーキもある。


(なにこれ、お店みたいなクオリティ……それに量が多い!)


 乃亜がぽかんと素晴らしい料理に見惚れていると、男性が小首を傾げた。


「何か苦手なものがあった?」

「いえ、大丈夫ですけど。いつも朝からこんなに食べるんですか……?」

「そんなわけないでしょ。君が寝言で、お腹すいたって何度も呟くから」

「えっ……」


(私、寝言でもそんなこと言ってたの? 恥ずかしい!)


「ほら、座って。せっかく作ったんだから、無駄にしないでね」


 言っている内容はそっけないのに、無駄に優しい顔と口調だ。何か勘違いしそうになりながら、促されるままに座る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る