第7話

「あなたは、バーにいた人ですよね……? ここは?」

「俺の家だよ。君、バーでいきなり眠っちゃって……ホテルも取ってないって言うから、仕方なく連れてきたんだ」

「そう……だったんですね。ありがとうございました」


(リゾートホテルも健ちゃんも、全部夢だったのね……)


「君、もう少し警戒心を持った方がいいんじゃない? 旅行中なんでしょ。一人であんな飲み方して、危ないよね」

「す、すみません……」


 皮肉っぽく笑む男性に、乃亜は小さくなるしかない。頭を下げた後、上目遣いに男性の顔をチラッと見て、その顔色を伺う。


 やや垂れ気味の大きな目は、優しそうで親近感を感じさせるが、今は醸し出す雰囲気が刺々しい。迷惑をかけたのだから当然と言えば当然か。


 ふんわり柔らかそうな髪は真っ黒ではなくて、茶色がかっている。瞳の色も同様で、暗めの茶色。全体的に漂う、透き通るようなイメージ。色素が薄めなのかもしれない。


(私が無理矢理連れて来させたんだよね。あなたの部屋に泊まらせてって、迫った記憶が……)


 気まずさと情けなさに、乃亜は再び頭を下げる。


「本当にすみませんでした。飲み過ぎで眠っちゃったみたい……」

「まあ、もういいよ。今後気をつけてくれれば」

「ありがとうございます。あの、それで……」

「なに?」

「その……」


(聞きたいけど聞けない。私達一線を超えちゃったんですか、なんて)


「いえ、なんでもないです」

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