外では邪悪な権力者。家では良き夫
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その日の夕方過ぎ。
また人が死んだ。
また殺された。
静かな銃声がする度に胸や頭。
時には喉を穿たれ、彼等は血飛沫を上げながら死んで逝く。
彼等を殺しているのは勿論、正樹であった。
正樹は涼子への宣言通り、警察が昨晩の虐殺の犯人を血走った目で躍起に捜し回っている中でキマイラ派の残党狩りを決行したのだ。
まさに、有言実行と言えるだろう。
そして、最後の1人を大型のサプレッサーが取り付けられたスタームルガーMk4で喉と眉間を撃ち抜いて殺害すれば、今宵の狩りは完了。
他に残敵が無いか?
それを確認する為にセーフハウス内を見て廻り、他に敵が居ない事を確認していく。
残敵とも言える殺し損なった者が居ない事の確認が済めば、死体を引き摺って一箇所に纏めた。
部屋の中央に4つの死体を引き摺って纏めると、正樹はビジネスマンから提供された仕事用のスマートフォンを手に電話する。
相手……ビジネスマンの手下は直ぐに出た。
「終わりました」
4つの死体を見下しながら告げると、相手から電話が切られた。
それから3分もしない内にセーフハウスの扉が開くと、眼鏡を掛けた歳を召した老婦人が部下である妙齢の女性達を伴って現れた。
そう、彼女が電話した先であるビジネスマンの手下である。
そんな彼女は正樹の前に立つと、尋ねた。
「数は4つかい?」
死体の数の確認に正樹は肯定すると、同時に申し訳無さそうに尋ねる。
「えぇ、4つです。死体動かしたの不味かったですかね?」
4つの死体は何れも喉を撃ち抜かれていた。
それ故、頸動脈から夥しい血がドバドバ流れ、その血の跡が床に残っていた。
その為、余計な事をしたんじゃないか?
正樹は少しだけ申し訳無さそうにしていた。
そんな正樹に老婦人は気にする事無く返す。
「掃除の手間は変わらないから良いさ。寧ろ、死体を片付けやすくなったから好都合さね」
寧ろ、都合が良い。
そう告げられると、正樹は老婦人に感謝する。
「ありがとう御座います」
「じゃ、早速だけど外の車で着替えな。硝煙と死臭をさせたまま外に出歩くのは流石に不味いからね。あ、銃は此方で始末するから渡しな」
老婦人に言われると、正樹はスタームルガーMk4から弾倉を抜いてスライドを引いた。
そうして、完全に抜弾した正樹は手袋越しながらも慣れた手付きでアッパーとロアーを別れさせてから老婦人に差し出した。
2つに分けられたスタームルガーMk4と弾が3発残る弾倉を受け取った老婦人は、去り行く正樹の背に向けて告げる。
「アンタ、気に入ったよ」
老婦人の言葉に正樹は無言のまま手を挙げて返すと、老婦人は部下である女性達に告げる。
「さぁ、お嬢さん達。仕事だよ」
そう告げられると、同時。
彼女達は動き出す。
4つの死体を1つずつ頑丈な透明のビニールシートで厳重に包装し、ミイラの様にラッピングして外気に触れない様にする者達。
乾きつつある幾つもの血痕を特製のアルカリ洗剤等を用いて入念に清掃する者達。
そうして、役割分担が成されて清掃されると共に犯行現場は最初から何も無かったかの様な状態となっていく。
彼女達の手で清掃業者も真っ青なワザマエで清掃されれば、犯行現場はモデルルームの様な清潔感に満ち溢れた。
そして……
「終わりました」
部下達の長が老婦人に報告すると、老婦人は隠れ家内をチェックし始めた。
入念に隅から隅までチェックし、問題点が一切無い事を確認した老婦人は部下である彼女達に告げる。
「良い子よ、貴女達。じゃ、後はゴミを始末して帰るわよ」
そう告げると、老婦人達は犯行現場だった標的達の隠れ家から立ち去る。
残されたのは、此処で殺人が行われたのが嘘の様な状態と言っても良い綺麗に清掃された部屋だけであった。
運び出された4つの死体が表に出る事は永遠に無いだろう。
無論、此処で殺人事件が起きた事も誰にも知られないだろう。
それは、タケさんの手下をしている件のビジネスマンが強大な力を持っている事を意味していた。
そんなビジネスマンは自宅で幼い2歳の息子が3歳の虎模様のマンチカンと一緒に遊んでいるのを微笑ましく眺めながら、仕事のメールをしていた。
「たこにゃーにゃー」
幼い息子が
マンチカンのたこやきは意味を理解したのか、楽しそうに2歳の息子と戯れる。
そんな微笑ましい平和な光景を他所にビジネスマンはスマートフォンを眺め、送られてきた文面を確認する。
『掃除完了。出たゴミはこれから処理』
簡潔明瞭なメッセージにビジネスマンは淡々と返信した。
『ご苦労さん』
そうして、今夜の問題が人知れずに片付いた事にホッとしたビジネスマンは思案する。
八塚会は崩壊した。
入国して来たキマイラ派が片付くのも時間の問題となった。
だが、大きな問題が残ってる。
大きな問題。
それは今は亡き老人が率いていたチャイニーズマフィアの事だ。
チャイマ連中は八塚会が崩壊した事を既に察知していると見て良い。
そうなると、日本に既に居る連中は八塚会のシマを奪う為に動き出すと考えた方が良い。
ビジネスマンも正樹と同じ予想をしていた。
蛇の道は蛇とはこう言う事を言うのだろう。
そんなビジネスマンは、更に思考を巡らせていく。
八塚会のシマは要らない。
連中の抱えるシノギは欲しいけど……
だが、
そうなると……やっぱ、俺が奪った方が良いよな?
八塚会と言う関東に於ける巨大な裏社会の"重石"が外れてしまった事で騒乱は免れない。
そして、騒乱の勝者が今は亡き老人が率いていたチャイニーズマフィアに奪われる事だけは避けたかった。
その為……
八塚会に残る俺の狗達に組織を掌握させるしかないな。
崩壊してる関東八塚会を仕込んでいた
そうして、間接的に八塚会のシマとシノギを奪う事でチャイニーズマフィアに裏社会の主権を奪われない様にする。
これがビジネスマンが思い描く絵の理想であった。
だが……
展開が急過ぎるんだよ。
段階を踏んでくれよ……
初日に本部ビルを爆破して瓦礫に。
その翌日には派手なカチコミ掛け、残る主要な幹部達を全て地獄に送った。
流石に急展開過ぎる。
その為、本来の予定が大きく瓦解してしまった。
それ故、流石のビジネスマンでも戸惑い、この後に打つべき一手が覚束なくなっていた。
そんな原因であるこの場には居らぬ2人に対し、ビジネスマンは心の中で毒吐いてしまう。
あの2人ヤバ過ぎだ。
マジで縁切りてぇ……
ゲンナリとしてしまうと、たこやきをそっちのけに愛息子が心配そうな顔をして声を掛けてきた。
「どこかいたいの?」
心配そうにする愛息子にビジネスマンは優しい微笑みと共に返した。
「大丈夫だよ。ありがとうな」
そう返すと、愛する妻の声が響いた。
「貴方ぁ!
愛する妻から愛息子である晴をお風呂に入れる様に言われると、ビジネスマン「あ!もうこんな時間か」と、慌ててソファーから立ち上がって晴を抱っこした。
そして、約束のオヤツはどうした?
そう睨んで来るたこやきを尻目にビジネスマンは晴を優しく抱き抱えながらバスルームへと向かうのであった。
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