面倒事は愛娘と共に
前書き
1週間ぐらい休むと言ったものの、書けてしまった更新する
でも、コレの更新後はマジで1週間くらい執筆を休む
下手したら、次の更新が来年になっても勘弁してね♡
陽子を"優しく説得"する事に成功。
正樹からは復讐を棄てなかった理由を聴いた翌日の夕方。
涼子は久し振りに異世界にある己の工房に居た。
「当面は私の出番無いみたいだし、空いた時間を活かす方が良いわね」
そう独り言ちた涼子は思考を巡らせる。
そうなると、彼の長所を活かせる装備を仕立てるのが一番良い。
それが普通の無難な方法だけど……
正樹の戦闘スタイルを基に、
だが、同時に何処か引っ掛かるモノ……と、言うよりは現段階では完成は見込めない。
そうも思っていた。
「現段階では完璧なモノは完成させられないのも事実なのよね」
今は正樹に魔法の運用方法を教えていない。
魔法の理論に関しては聴き取りをして、正樹自身に魔法の運用等に関する知識がある事は既に確認済である。
しかし、理論とも言える知識と、知識を基に実践する事は些か異なる。
それ故、未だスタート地点にも立ってない段階と言っても過言では無かった。
そんな状態の正樹を基に、涼子は逢瀬の時に使用するスーツのプロトタイプを作る為にこうして工房で思案していく。
兵士としての戦闘スタイルを踏まえると……
戦闘服と
それにブーツとメット。
この4つを製作する必要がある訳だけど……
「昔、チェンさんに作ってあげた装備を基にして作ってみようかしら?何せ、兵士的な装備を作った事は一度しか無いから勝手が解らないのよね……」
涼子は困った様子で独り言ちる。
ファンタジー世界の戦士の装備類は何度も作った事はある。
だが、現代的な兵士の装備は実質、未経験と変わらない。
それ故、涼子はどう作るべきか?
悩み、自分の思考と確認も兼ねて敢えて声に出しながら考える。
「チェンさんに作った時は魔法付与しただけの簡単な奴だった。プロトタイプでも作るなら、最高の奴を作りたいのよね。そうなると……やっぱ、戦闘服の生地は私の奴と同じのを用いる方が良いかしら?」
涼子は自分の魔女としての戦闘装束に製作する際に用いた、アトラク=ナクアの糸を用いた生地を戦闘服とプレートキャリアないしボディーアーマーに用いる事べきか?
そう考えた。
「戦闘服とプレートキャリアないしアーマーの外装はアトラク=ナクアの生地にするとして、プレートはどうしようかしら?ブッチャケ、師匠が相手だと防具なんて意味成さないんだよなぁ……」
師匠に限らず、自分やエレオノーレ等の最も強い魔女達の攻撃は必殺そのもの。
例え、防具で全身を鎧っても意味を成さない。
何せ、防具ごと相手を貫いて生命を奪うのが当たり前な連中なのだ。
それ故、涼子は頭を悩ませてしまう。
「魔法でエンチャするにしても限界はあるしなぁ……マジでどうしよ……」
魔法で強化、更には耐魔法性能を付与するにしても限界がある。
その限界まで強化しても、
怪しい。
否、無理と感じてしまう。
それ故……
「いっその事、私の不老不死の秘術与えようかしら?」
トンデモナイ爆弾発言を宣ってしまう。
産まれ出て、最後には死ぬ。
そんな生命の営みを真正面から破る禁忌と言っても良い、誰もが夢見るだろう不老不死を与える。
キマイラ達が実現する為に大規模な儀式をしようとしたソレを、涼子は当たり前の様に正樹へ与えるべきじゃないか?
当時のマッドサイエンティストとしての性から、本気で考えていた。
だが、理性が働いたのだろう……
「駄目。ソレをしたら人から怪物に成り下がる。それじゃあ、意味が無い」
己が宣った言葉を自ら全否定した。
しかし、最低でもそうしなければならない点は否めないが故に、一旦は保留にした。
思考が袋小路に入ってしまった涼子は辟易としてしまう。
ソレと同時に、何者かが侵入した気配を感じ取った。
気配の主から放たれる魔力の波長に気付いた涼子は、少しだけ困った表情を浮かべながらボヤいてしまう。
「参ったな。二度と会う事は無いと決めてたのに……」
そのボヤキを聴いた侵入者は少しだけションボリとしながら涼子へ語り掛けた。
「酷いわ。
涼子の事を御母様。
そう呼んだ侵入者へ涼子が振り向くと、侵入者である涼子と顔立ちが似た小さな革製の鞄を手にしている黒い髪の若い女は更に言葉を続ける。
「10年ぶりですね、御母様」
「えぇ、あの人の葬儀以来ね。マナ」
黒い髪の若い女……マナと言葉を交わすと、マナはにこやかに語り掛ける。
「会えて嬉しいですわ」
心の底から嬉しそうにする己の血を引く愛娘たるマナに涼子は問うた。
「私も会えて嬉しいわ。元気そうだし……で?何しに来たのかしら?」
涼子の問いにマナは答える。
「御母様が此処に居ると聴いて会いに来ましたの」
上品な言葉遣いをするマナ。
言葉遣いから、涼子はマナの今の立場を察したのか?
涼子は仮説を告げた。
「どうやら、何処か良い所に就職したみたいね」
マナは涼子の仮説を肯定する。
「御母様から教わった魔導のお陰で、私はラインメタル王国の宮廷魔導師になったの」
涼子が知る本来の言葉遣いをしたマナに涼子は「そう。おめでとう」と、心の籠もってない称賛をした。
そんな涼子にマナは不満を覚える事は無かった。
「私程度が宮廷魔導師になれるのはバカバカしく思うけどね」
マナ自身、宮廷魔導師と言う立場に興味は無かった。
だが、その立場で居る方が好きに振る舞える点は大きい。
「でも、宮廷魔導師と言う立場になれば、魔女であっても国家の庇護下に入れる。その上、立場的に御母様が残した課題に集中して研究しても責められませんから」
アッケラカンに宮廷魔導師になった理由を告げられると、涼子は呆れてしまう。
「誰に似たのかしら?」
「それは勿論、御母様ですわ」
ぐうの音も出ない答えに涼子は誰かを責めたくなった。
だが、自分の顔しか浮かばなかった。
そんな涼子にマナは尋ねる。
「御母様こそ愛する娘を棄てて元の世界に戻ったのに、どうして
その問いに涼子はアッケラカンに返した。
「そうね……愛する娘は立派な大人として独り立ち出来たからよ。それに、親が大人になった子を必要以上に干渉するのは良くない事だし、私は元の生活に戻りたくなったのよ」
自分勝手。
そうも捉えられる答えにマナが不満を見せる事は無かった。
「幼い頃のおっかない御母様が嘘みたいな言葉ね。だけど、私に与えてくれた愛は本物なのよね……」
マナの言う通り、涼子は愛する夫との愛の結晶とも言えるマナを愛情を以て育て上げた。
魔導に関する知識だけでなく、人として真っ当に生きるのに必要な常識や世渡りの術。
無論、悪い事をしたらキチンと叱ってお仕置きもした。
断じて、感情だけをぶつけるだけの事はしていない。
だからこそ、マナは今も母親である涼子を尊敬していた。
そして、魔導に於いて自分が知る限りに於いて、トップレベルの専門家である事を充分に理解しているからこそ相談する。
「御母様に見て貰いたい物があるのです」
真剣な眼差しと共に愛する母親の前に立つ娘の気配から真面目な仕事人としての面をマナが見せれば、涼子は愛娘を愛する母として、魔導の専門家として応じた。
「何があったの?」
「ソレを言う前に、先ずはコレを読んで欲しいの」
マナが鞄の蓋を開け、中から書類の束を取り出して差し出して来た。
書類の束を受け取った涼子は書類を1ページずつ真剣な眼差しと共に読んでいく。
書類は謂わば、ラインメタル王国が持つ間諜達から送られた報告書であった。
報告書に記される内容を読んでいく内に、涼子は深刻な表情を浮かべた。
そして、この報告書が事実なのか?
敢えて、問うた。
「此処に記されてる内容は事実なの?」
「はい。既にラインメタル王国の国境付近で戦闘が継続して居ます」
肯定と共に現在の状況を告げられれば、涼子は首を傾げてしまう。
「実に変な話ね。魔界からの侵攻は完全に頓挫してから既に数百年……大魔王は私と各王達の血筋が続く限り、この世界に侵攻しない事を確約している。それなのに、
数百年前。
涼子が邪悪な魔女となる前。
当時の涼子はこの世界の勇者達と共に魔界へカチコミを仕掛け、多大な屍山血河の果てに大魔王を倒して敗北を認めさせた。
幸いにも、大魔王は話が通じるタイプの王であった。
大魔王は涼子達が提示した条件の下、停戦。
それから、人間達の王達と和平条約を締結させる事にも成功した。
それ故、異なる世界から勇者達を召喚する必要性が無い。
そう断じる涼子は更に言葉を続けた。
「異なる世界からの勇者召喚は禁忌とする国際的な条約を教皇を含めた全ての王が認め、異なる世界から勇者を召喚した国には召喚した国以外が全力を以て断罪する。そう取り決められた」
当時からの生き字引であり、その条約を王達に呑ませた涼子はマナに告げると、辟易としてしまう。
そんな涼子にマナは告げる。
「しかし、ソレをラインメタルの隣国であるアルサレアが破りました」
報告書にも記されていた内容をマナが告げれば、涼子は首を傾げてしまう
「其処も引っ掛かるんだけど……アルサレアの"お隣さん"が軍事侵攻していたりしない?」
その問いにマナは宮廷魔導師として知る情報を答える。
「ガレス帝国とアルサレアは小規模な小競合いは幾つも起きてました。そして、1週間前にガレス帝国はアルサレアに宣戦布告し、ガレス帝国は数日でアルサレアの3分の1を占領しました」
マナから告げられると、涼子は納得する。
「成る程ね。アルサレアは逆転の一手として、ガレスに対する反撃の為に禁忌を犯したと……」
「ラインメタルはこの報告書の写しをアルサレアに隣接する国々と教国へ送りました。しかし、何処も様子見に徹しているのが現状です」
護られるべき条約が守られない事に涼子は落胆した溜息を大きく漏らし、悪態を吐いてしまう。
「ハァァァ……どいつもコイツもタマナシかよ」
しかし、各国が様子見に徹する事情も理解出来ない訳では無かった。
「まぁ、何処も魔女クラスのバケモノの群れとは殺り合いたくはないか……37人も居たら、尚更」
魔女と同等か、それ以上。
そんな人の姿をした怪物の群れに対し、国家存亡の危機というリスクを犯して被害を覚悟で戦いたいか?
そう問われれば、誰もがNOと答えるだろう。
それ故、涼子はタマナシと毒吐いたものの、各国の思惑に理解を示す。
そして、若輩ながら王国の重鎮たる宮廷魔導師となったマナも同様に言い、涼子に願った。
「はい。だから、ラインメタルは最悪、滅亡の危機に瀕する……だからこそ、"万が一"の際に備え、御母様の御助力を願いたいのです」
マナの願いが意味するのは、マナ自身も戦争に身を投じる。
それに他ならなかった。
涼子は母親として、愛する愛娘が戦争に参加する事に反対したくなった。
だが、同時に戦場に馳せ参じて救国せんとするマナの意思も汲みたかった。
どう答えるべきか?
悩んでいると、親しみ慣れた魔力の波長と気配を伴った来客がやって来る。
その来客はマナを他所に涼子へ質問して来た。
「貴様。モラの件はどうするつもりだ?」
来客……エレオノーレの姿を認めた涼子は微笑みと共にエレオノーレに尋ねる。
「エレオノーレ。異なる世界から来た勇者達と戦争したくない?」
戦争。
その一言にエレオノーレは嗤うと、具体的な内容を問うて来た。
「詳しく聞かせろ」
そう問われると、涼子は簡潔明瞭に答える。
「アルサレアが異なる世界から勇者達を召喚して、ラインメタルに攻め込んで来た」
涼子の答えにエレオノーレは首を傾げてしまう。
「おかしな話だ。アルサレアはガレスに侵攻されている筈だろう?何故、それがラインメタルに侵攻しているのだ?」
流石は戦争の魔女と言うべきか?
アルサレアとガレスの戦争を既に知っていた。
だからこそ、疑問を覚えて首を傾げてしまうエレオノーレにマナは当事者として解らないと答える。
「その理由は調査中でして、解らないのが現状です」
答えたマナをエレオノーレは鋭い視線と共にジッと見詰めると、マナに尋ねる。
「貴様は誰だ?」
エレオノーレに問われたマナは礼儀正しく答えた。
「失礼しました。私はラインメタル王国で宮廷魔導師を拝命しておりますマナと申します。以後、お見知り置きを」
マナが礼儀正しく答えれば、エレオノーレも礼儀と共に己の名を答える。
「私はエレオノーレだ。戦争の魔女の方が通りが良いか?」
「お噂はかねがね伺っております」
礼儀正しく返したマナはそそくさと涼子に歩み寄ると、涼子に耳打ちして不安そうに尋ねる。
「御母様、戦争の魔女とは殺し合う程に仲が悪いって聴いてたんだけど?」
顔を見合わせた瞬間に殺し合うエレオノーレが来た事に不安を覚えるマナに答えるのも兼ねて、涼子はエレオノーレに告げる。
「マナは私の娘よ」
その一言で俄然興味が沸いたエレオノーレはマナをマジマジと見詰めると、意外そうな顔をする。
「貴様の娘にしては礼儀正しいな」
「お願いだから、マナに手を出すのは無しよ」
「見損なうな。私はお前を殺したいのであって、貴様の娘を殺す気は無い。で?勇者達とラインメタルが戦争している件、私がラインメタル側で参加する方が愉しめるのか?」
その問いに涼子はハッキリ答えた。
「暇潰しにはなるんじゃない?」
「良いだろう。暇潰しが出来ると言うなら、断る理由が見付からん」
エレオノーレが嗤って承諾すると、マナはエレオノーレに感謝する。
「ありがとう御座います」
マナの感謝にエレオノーレは素っ気無く返した。
「気にするな。単なる暇潰しだ」
「じゃ、そっちは貴女に任せるわ。でも、万が一の際は私も参加するから……」
涼子がエレオノーレとマナに告げると、エレオノーレはまた意外そうな顔をした。
「ほう?腑抜け切った貴様が戦場に出るとはな……どう言う風の吹き回しだ?」
エレオノーレに問われた涼子は素っ気無く返した。
「単なる自己満足の為よ」
涼子の答えにエレオノーレは納得。
だが、同時に確認の為に質問する。
「それなら仕方無いな……しかし、良いのか?貴様の同郷を手に掛ける事になるのかもしれんぞ?」
エレオノーレの問いに対し、涼子はハッキリ答える。
「もう、とっくに同郷の人間を何人も
その時の涼子の表情は氷の様に冷めていた。
初めて見る母親の表情を目の当たりにすると、マナは何処か恐ろしさを覚えてしまった。
後書きと言う名の解説
蛙の子は蛙
そんな言葉があるように、魔女の子も魔女となる事も間々ある
涼子の娘であるマナも魔女である。
涼子と違う点は産まれながらの魔女であり、涼子の持つ強大な力を産まれながらに幾ばくか引き継いでる事だろうか?
愛する夫にソレを伝えた時、愛する夫は…
「例え、魔女であっても私にとっては愛する娘である事に変わりはないよ」って具合にコズミック・イラに於ける聖人とも言えるヤマト夫妻張りに娘を祝福し、娘を愛してくれた
因みに父親は普通の人間なので死んでるし、喪う事に恐怖した涼子が不死を与えようとした時には辞めて欲しいと願って己の死を受け入れてる
勿論、涼子が元の世界へ帰ろうとする事に関しても認めてくれた
マジでこの人に出会わなかったら、涼子は邪悪な魔女のままだったりする
ある意味でファークライ4のパガン・ミン陛下にとってのイシュワリみたいなものである
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