子狐は迷い、魔女と傭兵は次の仕事の打ち合わせをする


 あの夜。

 思わぬ形で望みである愛する母の死の真相を知り、父たる九尾が死んだ夜。

 アレから1週間後の夕方。

 結論から言うならば、陽子は退魔師達との絶縁に成功した。

 同時に、とある腕の良い弁護士が後見人となって陽子が成人するまで見守ってくれる事となった。

 勿論、後見人である弁護士の手筈で陽子は今通っている涼子の居る高校への通学も継続して出来る様にもなった。

 そして、今後の住居に関しては陽子の希望が叶い、当時住んでいた愉しかった想い出のある場所に引っ越す事が出来る様にもなった。

 そんな陽子は数年ぶりに帰って来た小さなアパートの一室でボンヤリと考えていた。


 薬師寺さんのお陰で私は退魔師達と縁を切る事が出来た。

 その上、普通の生活を取り戻す事も出来た。

 薬師寺さんに私は御礼がしたいと思ったのは、人として当然の帰結だと思う。

 だから、薬師寺さんに尽くしたいと想った。


 涼子が御膳立てした普通の人生を送れる生活。

 それを与えられたからこそ、陽子は礼を尽くしたいと想った。

 与えられた恩義に報いたい。

 そう思うのは人として当然だろう。

 だからこそ、薬師寺 涼子の為に尽くしたい。

 陽子はそう想った。

 そんな陽子に対し、涼子が要求した報酬は……


 薬師寺さんは私に「感謝の気持ちが有るなら、普通の女の子の人生を生きろ。それが私にとって最高の報酬であり、最上の望みでもある」と言った。


 涼子は恩義に報いたい陽子に「普通の女の子として生活し、普通の人生を全うしろ」と言う対価を要求した。

 無論、正樹も同様であった。


 冴木さんも「1ヶ月考えた上で決めろ。俺はそう言ったが、俺と彼女の望みは君が普通の女の子として真っ当に生きる事。コレに尽きる」そう言った。


 「薬師寺さんの望みに準ずるなら、私は普通に生きるべきなんだろうな……でも、私だけ普通にのうのうと生きて、薬師寺さんと冴木さんが死線を潜り続けなければならないのは何か納得がいかない」


 優しく、善良であるからこそ。

 陽子は自分だけ、平和で平穏な生活を享受する事に罪悪感を覚えてしまった。

 母親の死に対する復讐に関しては、2人のお陰で今は無い。

 愛する母の死の報いよりも。と、言うのはおかしな話になるだろう。

 だが、今は2人の為に何かしたい。

 そんな気持ちの方が強かった。


 「私はどうすれば良いのかな?」


 誰に言う訳でもなく独り言ちる。

 だが、答えてくれる者は居ない。

 此処には自分独りしか居ないのだから当然だ。


 「私は薬師寺さんの望むままに普通に生きるべきなんだろうな……だけど、何か恩返しがしたいと想っても居る。でも、薬師寺さん達はそれを望んでいない」


 敢えて口に出し、涼子と正樹の想いを改めて認識する陽子は悩んだ。


 「私自身は薬師寺さんに尽くしたい。私を救ってくれた恩義に報いたい」


 自分に救いの手を差し伸べてくれたからこそ、陽子は涼子に対して恩義に報いたい。

 その為に共に戦いたい。

 そう想ってしまう。

 だが、そんな陽子の気持ちを理解した上で正樹は辞めろと諭し、涼子は「恩義に報いたいなら普通に生きろ。それこそが私の要求する対価だ」と言う対価にならぬ対価を要求した。

 しかし、成熟してるばかりか既に枯れてすらいる2人の想いが、陽子には未だ解らなかった。


 「私が普通に生きる事が最高の報酬なのが解らないよ。無償の愛なんて本当にあるの?」


 母親の死後。

 酷い人生を歩んできた陽子にすれば、涼子と正樹は血の繋がりが無い他人と言っても過言じゃない。

 そんな2人が自分に無償の愛を与えてくれた事に正直な所、理解に苦しんで居た。

 だからこそ、陽子は2人の望みと反すると言っても良い、2人の下で戦う事で恩義に報いたいと想ってしまったのだ。

 そして、それが理由で今も悩んでいる。


 「どうすれば良いのかな?」


 そうボヤいても答えが出る事は無かった。

 そんな陽子の気持ちを他所に涼子と正樹は"犬小屋"で頭を抱えていた。


 「プリズンブレイクとクソ仕事を両立させろとか冗談じゃねぇぞ」


 正樹のウンザリとしたボヤキに対し、涼子も同じ様にウンザリとした面持ちで吐き捨てる。


 「まったく……飼い主と裏社会のクズ共は私達の都合ガン無視してくれるわね」


 タケさんの手下であるビジネスマンの行為によって、武器弾薬に各種装具類を始めとした物資は揃った。

 だが、同時に厄介なクソ案件を投げつけられもした。


 「例の指輪がソロモン王絡みの代物とはな……マジならガチで歴史的な大発見なんだけどな」


 歴史好きの正樹にすれば、ソロモン王が悪魔を使役する際に用いた指輪の存在とソロモン王が本当に悪魔を使役していた事が実証された事に興奮が隠せなかった。

 だが、それはクズなクソ野郎共が絡まなければの話だ。


 「指輪に六芒星が刻まれてたから、まさかとは思ったけどさぁ……マジでソロモン王絡みとは思わないわ」


 ボヤく様に言う涼子に正樹は辟易としながら言う。


 「で、ソロモン王の指輪と指輪を持ってたクソ野郎キマイラを殺った奴を捜しに裏社会のクズ共が来日する訳か……」


 ソロモン王の指輪を持っていたクソ野郎。もとい、キマイラ。

 彼には多数の手下が居た。

 キマイラを信奉する手下達はキマイラを殺した者への復讐を誓うと同時、力の根幹とも言えるソロモン王の指輪の回収の為に来日しようとしていた。

 だが、それだけで済まない。


 「オマケに情報の漏れ具合から察するに天使か悪魔のどっちかか、両方にクズ共と内通してるカス裏切り者も居ると判断せざる得ないのよね」


 項垂れる様に言う涼子に正樹は尋ねる。


 「何処まで漏れてると見てる?」


 「全部と言うべきかしらね」


 涼子の答えに正樹は最悪と言わんばかりの表情で確認した。


 「マジか?」


 「指輪が手元に来た段階で跳ねっ返りの天使共が私に指輪寄越せって来たのよ。で、飼い主から許可貰った上で天使達を殺した。その上、翌日には悪魔の王ルシファーが私に会いにも来てさ……」


 語られた内容から正樹は涼子に関する情報が全てバレている。

 そう判断せざる獲なかった。


 「完全にヤベェ事態じゃねぇか。君の家族が人質に取られるのも時間の問題だぜ?」


 「オマケに"飼い主"と面倒押し付けたクソ兄弟ルシファーとミカエルは、コレを利用して裏切り者とクズ共を始末したがっても居るから私は完全に釣りの餌状態よ」


 ルシファーとミカエルは涼子と涼子が持つソロモン王縁の品たる赤いダイヤモンドを利用し、コレを期に裏切り者と言える獅子身中の虫を炙り出さんと画策していた。

 その為、涼子と涼子は釣りの餌と言っても過言ではなかった。


 「釣りの餌っていうのは大概は喰われちまうもんだ」


 正樹の言う通り、魚を釣る為の餌と言うのは成否に関わらず魚に喰われるのが世の常。

 だからこそ、涼子は自分がキッカケである事にウンザリしていた。


 「本当、最悪。でも、私が動かなかったら両親含めて100万の人間が死ぬ事態だったから余計にムカつく」


 「そりゃ、災難だな」


 正樹は他人事の様に言う。

 だが、自分にも飛び火する可能性は高かったが故に笑いはしなかった。


 「で?どうする?」


 「そうね……チマチマ片付けるか?纏めて殺るか?どっちが手軽かしら?」


 裏切り者とクズ共をどう狩るべきか?

 そう尋ねる涼子に正樹は正直に意見する。


 「何とも言えねぇな。チマチマ片付けると勘付かれて潜られちまう潜伏される。で、纏めて片付けるに関しては逃げられた奴が居たりと不測の事態が起きる可能性が高い」


 「デスヨネー」


 「それに纏めて片付けるにしても、どうやって誘うんだよ?誘い方があるにしても、罠って見破られたら寄り付かねぇよ」


 「折角、エクソシスト側との交渉は上手く行ったのに……まーた、面倒背負う羽目になるなんて最悪」


 2人のエクソシストを殺害した件は、タケさんの手下である"ロクデナシ"の尽力で不問となった。

 だが、エクソシストの上に立つ大天使の弟ミカエルが完全に不問とさせる条件として、兄であるルシファーと自分にとって面倒な問題を解決する事が提示されてしまった。

 勿論、公式の要請と言う形でタケさんとタケさんの姉上にも話は通されている。

 それ故、面倒な仕事を請け負う羽目になったのであった。


 「さて……プロの悪党な貴方なら、私に対してどう動く?」


 目の前で煙草に火を点し、紫煙を吐き出す正樹と言うプロならどうするか?

 そう問えば、正樹は穏便な動き方を述べた。


 「そうだな……俺なら家族を人質にしてるって振る舞う。あ、誘拐する必要は無いぞ。ただ、君の両親の様子のライブ映像を観せれば良い」


 「ライブ映像の中でサプサプレッサー付きの拳銃を添えた上でな」そう締め括って、相手への説得方法の一端を提示した正樹は最悪の事態も提示する。


 「だが、コレはブツ確保だけを目的とするだけの穏便な方法だ。君は連中の頭目と幹部達を殺害しちまった。連中は敵討ちの為にも動くだろうから、深夜辺りの寝静まった頃に君の家に押し込む可能性の方がデカい」


 例え、世界が異なれど裏社会の人間がする事は"ほぼ"変わらない。

 特に、頭目を殺した者への復讐は絶対と言えた。


 「君を殺るだけじゃない。あの手の連中は家族も殺って周囲への見せしめも兼ねて報復する。そうしなければ、裏社会に於いて嘗められる。嘗められたら、組織運営が成り立たなくなる」


 「その上、悪魔達を使役出来る力もセットで手に入れられる。頭目を殺られた名誉の回復と強大な力も手に入るんなら、やらない理由が見当たらないわね」


 報復も含めてリターンが大きい。

 物心両面に利が揃った時、人間は大きく動く。

 それ故、涼子は仕事を抜きにしてもクズな連中を相手にしなければならなかった。


 「どっちにしろ、縁が繋がったんなら後腐れ無く縁を切らないと駄目な訳か……嫌だなぁ。殺し合いなんて不毛だし」


 辟易としながら言う涼子に正樹は煙草を燻らせながら指摘する。


 「すぅぅ……ふぅぅ……言葉に反して嗤ってるぜ」


 正樹の言う通り、涼子は嗤って居た。

 そんな涼子は嗤ったまま肯定する。


 「殺し合いは不毛って言葉に嘘は無いわ。でも、悪魔とかのオカルトやファンタジー絡みって言うなら私にとって都合が良いのも事実なのよね」


 邪悪な笑顔と共に答える涼子に正樹は問う。


 「何を企んでる?」


 「この世界に於ける魔導の知識の入手と魔導に関する脅威度の確認。そんな所かしら?」


 正樹の問いに対し、涼子は正直に己の思惑を答えた。

 だが、正樹は首を傾げてしまう。


 「君は伝説とも言える魔女だ。そんな誰もが認めるだろう魔導の専門家の君が、この世界の魔導を測りたい……その理由を聞いても?」


 「私はこの世界に於ける魔導の知識を持っていない。無知な時より、知っている方が大概の場合は都合が良いし、転用とか含めて利用出来るならしたい」


 「つまり、君はこの世界の魔導に関しては無知だから"実地"で学びたいと?」


 「まぁ、仮にも未熟とは言え、魔導を修めた魔女としての好奇心も大きいけどね」


 「寧ろ、そっちが本音だろ?」


 アッサリと本心を見破る正樹に「流石は裏の世界を闊歩したヴェテランね」と称賛すると共に肯定すれば、涼子は更に続ける。


 「魔導に限らず物事や学問は様々な視点からアプローチする方が良い。思わぬ形で新たな発見が有るし、無かったとしてもそれはそれで確認も兼ねた発見にもなる」


 「なるほどな。つまり、君は学者としても地球の魔導を識りたいと言う訳か……」


 「運が良ければ、貴方の復讐の一助になるかもしれないしね」


 サラッと正樹に彼の悲願の足しになる……かもしれないと、利を提示すれば正樹は納得する。

 だが……


 「仕事が優先だからな?それに、下手したら君の御家族の身に危険が及ぶ可能性だって高いのも忘れるなよ」


 キチンと諫言にも似た苦言を呈し、釘を刺した。

 そんな正樹にありがたみを感じながら、涼子は尋ねる。


 「さて……プロの貴方は報復の為に来日するにして、どう動く?」


 「どう動くと言われてもな……手札に何が有るのか?解らなきゃ、どう動いて良いか?解らねぇよ」


 「でも、貴方なら仮説としても予想は立てられるでしょ?」


 「そうだな……現地に取引先や顎で使える勢力があるんなら、ソイツ等を利用する。で、ソイツ等を介して現地内にセーフハウスを確保させたり、武器弾薬の調達をする。無いなら、現地に顔が利くビジネスマンに金を積んで、セーフハウスと武器弾薬とかの必要物資を用意させる」


 プロの工作員でもあった正樹の答えに涼子は「まるで燃える男のクリーシィね」と他人事の様に言う。


 「AJ・クィネルのクリーシィって言うんなら、実際その通りだ。後はフォーサイスのジャッカルでも良いな」


 「私は古い方の映画が好きよ」


 「俺はどっちも好きだ。話が逸れたな……この国で裏社会と言えば、半グレやら不法滞在者達のマフィア。それにヤクザだ。そんな連中が群雄割拠してるのが日本の裏社会……合ってるか?」


 「まぁ、概ねそんな感じなんでしょうね。で?」


 「キマイラとやらが日本国内でも商売してたんなら、日本国内の裏社会の連中を介してる可能性が高い」


 キマイラの敵討ちをしたい連中が日本国内で商売しているならば、日本国内の裏社会の組織を利用している。

 そう告げる正樹に涼子は疑問を呈する。


 「彼等自身がしてるとは思わないの?」


 「その可能性も否定出来ない。だが、連中は日本人じゃないし、日本の組織じゃないんなら日本の裏社会から見れば余所者と言っても良い。そんな連中が余所で商売する場合、大まかに分けて3つある」


 「3つ?」


 「1つは地元連中へのリスペクト無しにシマを荒らし、稼げるだけ稼いだら逃げる。2つ目はシマ荒らしからのシマと組織の乗っ取りだ。そして、3つ目は……」


 2つを説明した正樹は3つ目と言った所で言葉を留めると、煙草を燻らせる。

 そして、紫煙と共に3つ目を語った。


 「すぅぅ……ふぅぅ……3つ目は地元の連中をリスペクトすると共に仁義を通し、毎月の"アガリ収益"から何%かを上納してシノギ商売をする赦しを得る。または、地元連中と取引をして地元連中にブツを捌かせ、面倒なリスクを押し付けるだな」


 「貴方ならどれを選ぶの?」


 「決まってる。3つ目の後者だ」


 正樹の意外な答えに涼子は理由を尋ねた。


 「理由を聞いても?」


 「この手の商売は意外と思われるが、シマを荒らして戦争してシマや組織を奪うよりは長期的に安定した取引を継続する方がコスパやリスクを差し引いても利益が大きいし、面倒も少ない」


 「成る程ね」


 「まぁ、短期で一気に稼ぎたいんならリスク度外視でシマ荒らしの方が稼げる事もあるけどな。後、リスクがリスクにならない程の力を有してれば、組織を奪う事だって出来るな」


 そう補足した正樹に涼子は確認する様に問う。


 「つまり、最悪、私を狙う連中にヤクザ連中も来る訳ね?」


 「可能性は高いな。取引してる間柄だって言うなら、取引先の組織が手を貸して君を攫うなりしてデカい恩を押し売りする事だって出来るのは大きなメリットだしな」


 「本当、最悪ね」


 ボヤく様に嘆く涼子に正樹は正直に告げる。


 「コレは割とガチでクソ面倒な仕事だぞ」


 「どうすれば解決するかしら?」


 涼子の問いに正樹は答える。


 「解決か……ヤクザ組織に関しては、連中にメリットとデメリットが釣り合わないと理解させると共に嫌でも納得せざる得なくすれば、ワンチャン二度と来なくなる……筈だ」


 「具体的に解らせる方法は?」


 「大損害を与え続ける。後、可能なら警察官僚に顔が利く御偉い大物に釘を刺して貰う……ヤクザだって所詮は民間企業でしかない。国家には逆立ちしても勝てねぇよ」


 「メキシコのカルテルみたいな強大な反政府勢力でもない限りな」そう最後に付け加えた正樹に、涼子は「流石に其処までの力は無いと思いたいわ」とボヤいてしまう。

 そんなボヤきに答えるように正樹は要点を纏めた。


 「さて、要点を纏めるなら……先ずは人間の敵に関しては最悪、ヤクザ連中もやって来る可能性が濃厚。次に君に関する情報が敵に漏れてる可能性が大で、家族を大事にしてる君は大きく動く事がとても困難。その次は敵は天使と悪魔、この双方が来る可能性も高い……こんな所か?」


 「そうなるわね」


 「そうなると……俺が単独で動き回る方が良いな。ほら、君は家族って言う大きな後顧の憂いがあるし、幸いな事に俺の存在は未だ露見してもいない」


 アッケラカンに単独で殺し回る。

 そう告げる正樹に涼子は問う。


 「良いの?」


 その問いに対し、正樹は嗤って答えた。


 「制式な仕事でカネがキチンと入る。その上、君という伝説の魔女にデカい借しを作れるし、殺しても誰も心が痛まない連中を殺れるってんなら断る理由が見当たらない」


 「ありがとう」


 心から感謝する涼子に正樹は告げる。


 「この件が片付くまでプリズンブレイクは御預けだ。後、当面は"犬小屋"にも近付ないで、銃の携帯も辞めとけ」


 「近付かないのは兎も角、銃はどうして?」


 「寝込みを叩かれた時、銃で連中を撃ち殺したら流石に言い訳が聴かねぇし、ヤクザ側に買収されたサツとかに持ち物検査された時に銃が出たら、現行犯で引っ張られちまう」


 結論から答えた正樹は結論に至る説明を始めた。


 「君や君の家族が純粋な被害者って言う形で正当防衛を成立させ、犯人達をその場では殺さずにブッ飛ばせば、サツを味方にする形で介入出来る口実を作れる。で、サツが介入した時点でヤクザ連中を抑える事が出来る」


 「成る程。でも、意外ね……貴方が警察を頼ろうとするなんて」


 意外そうにする涼子に正樹は煙草を燻らせながら嗤って返す。


 「俺達だって基本的人権のある日本国民だし、未来の有権者でもあるんだ。だったら、日本国民の権利として警察を頼ったり、国民の義務として警察に通報するべきだろ?」


 そんな正樹に涼子は少しだけ退いてしまった。


 「うわぁ……笑顔がこれほどまでに胡散臭く感じるの初めて見るわぁ」


 「酷くね?俺、正論言っただけよ?」


 実際、正樹の言葉は正論だ。

 被害者として振る舞い、周囲から同情を買う方が都合が良い。

 特に犯罪組織相手には尚更だ。

 だが、野蛮な時代を生きた魔女は不服な様であった。


 「その顔から察するに、君は納得がいかない。その上、君自身の手で殺りたいんだろうな……」


 「言ってる事も企みも解る。だけど、殺るなら私の手で殺りたいのは強いわね。まぁ、時にはそうなる様に仕向ける時もあるけどさ……それでも、殺しに来た連中に情けを掛けなきゃならないのは正直、不愉快極まりない」


 大事な日常生活をブチ壊さんとする者を殺しては駄目だ。

 そう言われた涼子は内心、腸が煮えくり返る想いであった。

 そんな涼子に正樹は告げる。


 「気持ちは解る。だが、堪えて欲しい。その代わり、俺が君に代わって怒りを叩き付けてやるから」


 「…………なら、私だけなら兎も角、私の両親にも仕掛けられた時は相手の家族も皆殺しにして」


 其処だけは譲らない。

 そう言わんばかりに正樹を睨みつけて来る涼子に対し、正樹はアッサリと承諾した。


 「良いぜ。相手の家族にも手を出したんだから、自分も手を出されなきゃフェアじゃないし……あーでも、レイプはしないぞ。ただ、目の前で殺してやるだけだからな?スキンコンドーム無しでヤッたらDNA残っちまうし、時間の無駄だから」


 「なら、苦しめた上で殺して」


 「喜んで」


 涼子の要求に対し、正樹は嗤って快諾した。




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