銃の引き渡しと手解き


 魔女が古い付き合いの魔王に狩りを外注し、復讐者が独り静かに自らの手を汚した。

 そんな夜の狩りナイト・ハンティング翌日の夕方前。

 魔女と復讐者は、己等の飼い主が用意した"犬小屋"で偶然にも再会していた。


 「まさか、同じタイミングで到着するとはね」


 単なる偶然にしても都合が良過ぎるタイミングで高層マンションのエントランスで再会した事に呆れてしまう私服姿の正樹と、正樹と同じ様に私服姿の涼子。

 2人はお互いに気にした訳でもなく返した。


 「時間の節約になるから良いわね」


 「確かに。で、そん中に有るのか?」


 正樹が涼子の持つトランクに視線をやると共問えば、涼子は正樹と共にエントランスを後にして通路を歩きながら肯定する。


 「えぇ、入ってるわ」


 「なら、迷惑ついでに分解結合の仕方も教えてくれると助かる」


 涼子が提供する銃器と今後長い付き合いとなるのか?

 それとも短い付き合いで終わるのか?

 正樹には未だ解らない。

 だが、銃で戦う者が未知なる銃の分解結合と整備の方法を学ぼうとするのは、必然と言っても良い。

 そんな正樹と共にエレベーターに乗り込んだ涼子は内心で「やっぱり兵士や戦士に限らず優秀な人ほど積極的に未知を学ぼうとするわね」そんな感情を抱きながら告げる。


 「当然教えるわ」


 「ホントなら魔法も学びたいがね……生憎と俺にはその才が無いそうでな」


 涼子に本当は魔法も教わりたかった。

 だが、自分にはその才が無い。

 そうボヤく正樹を涼子は訝しむ様に言う。


 「え?才が無いって誰が言ったの?後、貴方の世界って魔法あるの???」


 最も気になるのは正樹の居た異世界にも魔法が有るのか?

 そんな疑問であった。

 疑問を抱く涼子に正樹はさも当たり前の様に肯定する。


 「あぁ、昨日は言わなかったな……この世界みたいに影の存在で裏社会関係の様な扱いだけどな。具体的に言うなら……FGO出してる型月の魔術師世界みたいなもんだな」


 エレベーターの静かな作動音をBGMに正樹がフィクションを例に出して説明してくれたお陰で、涼子は直ぐに理解する事が出来た。


 「つまり、科学と魔法その2つが混在してる。だけど、魔法は実在していても一般的な常識としてはお伽話やフィクション内だけの存在として認知されてる……そう言う認識で良いかしら?」


 「そんなもんで構わない」


 そう暢気に返した正樹に涼子は確認するかの様に尋ねる。


 「なるほどね。貴方の世界の魔法も興味深いけど、仕事が終わるまでは聞かないでおくわ」


 「聞かれても魔法使えんから教えを請われても教えようが無いけどな」


 ボヤく様に正樹が返すと"犬小屋"のある階にエレベーターが到着して扉が開いた。

 2人はエレベーターから出ると、歩みを進めて"犬小屋"まで向かう。

 正樹が鍵を開けて扉を開けると手で「レディーファーストだ」と言葉を交えずに告げれば、涼子は中に入った。

 リビングまで来れば早速と言わんばかりに涼子はダイニングテーブルの上に置く。

 それから、トランクを開けて中から2の金属の骨組みだけとも言えるストックが折り畳まれたカラシニコフAKMSを取り出し、1丁を正樹に差し出して告げる。


 「これが貴方に提供する銃の1つよ」


 「へぇ、これがAKって奴か……」


 涼子からカラシニコフAKMSを受け取った正樹は興味深そうに見廻すと、涼子は自分の手にあるカラシニコフを持ったまま正樹へ訓練教官の如く告げる。


 「先ずは分解結合から教えるわよ」


 そう告げると共にカラシニコフAKMSを手に涼子が広いリビングの床に座れば、正樹はカラシニコフAKMSを手に涼子の向かいに座った。


 「先ずはこの折り畳まれた金属製のストックを展開する所から始めるわよ。本体後端にストックと本体の繋ぎ目があるわね?」


 涼子が自分のカラシニコフAKMSを教材としながら位置を示して言えば、正樹は直ぐに涼子の言う位置を直ぐに理解する。

 そんな正樹へ涼子は説明を交えながら実際にやって見せていく。


 「本体の左側にストックを展開する為の押しボタンがある。其処を強く押し込んでロックを解除しながらストックを動かせばストックが展開される。そして、下から後ろへ展開させたストックの後端にある肩当てをこうして動かせばストックの展開は完了よ」


 実際にカラシニコフの折り畳まれた金属製のストックを展開した涼子は正樹に「貴方もやってみて」と告げれば、正樹は涼子の説明通りにストックを展開させた。


 「コレで良いか?」


 「えぇ、良いわ。次は分解前に弾が薬室に装填されていない事を確認よ。カラシニコフは右側にダストカバーも兼ねた大きなセレクターレバーがある。コレを一段階下にカチッと下げた後にチャージングハンドルを奥まで引きながら薬室を覗いて弾が装填されていない事を確認して引金を引けば整備前の準備は完了よ」


 目の前で実際に動作を交えた上で丁寧な説明を受けた正樹は涼子から「実際にやってみて」と指示を受けた。

 正樹は言われた通りに大きなセレクターレバーを一段階下げてチャージングハンドルを軽く引くと、薬室を覗いて弾が装填されていない事を確認した。

 すると、確認を終えた正樹へ涼子は正樹が気になっているだろう事を、正樹から質問される前に答える。


 「セレクターレバーは一番上がセイフティ。一段階下がフルオート。一番下がセミオート。チャージングハンドルを引きたい場合はセレクターレバーをフルかセミに合わせてからじゃないと引けないわ」


 カラシニコフのセレクターレバーの説明でフルオートとセミオートの位置。

 それにチャージングハンドルはセレクターレバーを下げなければ引けない。

 それ等の点を実際の動作を交えた上で丁寧な説明を教わった正樹は涼子へ歓心した事を述べる。


 「君の説明は本職の訓練教官とも遜色が無いし、丁寧で解りやすくて良いね」


 「御世辞を言っても良い事は無いわよ」


 「本心から君の解りやすい説明を賞賛してるんだけどね」


 「私的には専門家であろう貴方からバカにしてるのか?って怒られると内心ヒヤヒヤしてるけどね」


 涼子の目の前に生徒として座る正樹は銃器等を用いる戦闘のプロフェッショナルと言っても良い専門家。

 それ故、自分が素人と自覚する涼子にすれば釈迦に説法を説く様なもの。

 そう言っても過言じゃなかった。

 だが、正樹はそんな事を毛先程度も気にしないでアッケラカンとしていた。


 「確かに君から見れば俺は銃とか爆弾で戦うのが得意分野の専門家なんだろうけど、この世界の銃器の扱いとかに関してはトーシローのカカシと言っても良いからね。なら、自分より知識を持つ相手に敬意を示して教わるのが人として取るべきマナーで、それが出来ない奴は獣以下だ」


 アッケラカンとはしていても礼儀正しく振る舞う正樹に涼子は「そう言って貰えると助かるわ」と返し、カラシニコフAKMS分解の手解きを再開する。


 「弾が薬室に装填されていない事を確認した後は分解に入るわ。先ずはレシーバーカバーを外して、その後に見えるリコイルスプリングを外してから……」


 その後、部品名と取り外す際のコツも説明に交えながら実際に動作をやって見せた。

 そうして、分解の手解きが終われば、2人の目の前には分解されたカラシニコフAKMSと綺麗に並べられた各種部品が残る。


 「コレで分解の説明は終わり。次は結合の説明をするわよ」


 そう正樹へ訓練教官の様に告げた涼子は分解の時と逆に順序で1つずつ説明を交えながら実際にやって手解きをしていく。

 そうして組み立てが終われば、最後に正樹には釈迦に説法を説く様に動作点検の仕方を説明交えて実際にやって見せてカラシニコフAKMSの分解結合の手解きは終わった。

 カラシニコフAKMSの分解結合の手解きを受けた後。

 正樹は自分の訓練教官として振る舞う涼子へ学びを得たい生徒として許しを乞うた。


 「実際に構えたりしても良いか?」


 その許しに対し、涼子は寧ろ逆に正樹へ自分から教えを乞うた。


 「私にも貴方の撃ち方を教えて貰えると助かるわ」


 互いに互いを尊重した上で魔女と復讐者は7.62ミリの専用弾が30発詰まった重い金属製の弾倉をカラシニコフAKMSにセットする。

 それから、お互いの立場を逆転させて正樹を訓練教官として、構え方や撃ち方の動作の手解きが始まる。


 「確かにアサルトライフルと機関銃等の種類や同じアサルトライフルであっても銃ごとに取り扱いや撃ち方が異なる。だが、動作の根本は変わらない……って言うのが俺の経験から言える持論だ。だから、ブッチャケた話として極論になるだろうがどんな構え方でも撃って当たれば何でも良い」


 唐突に身も蓋もない事を正樹が述べれば、涼子は何も言う事無く、訓練教官として前に立つ正樹の言葉に耳を傾けていく。


 「俺としては小銃は可能な限り、伏せ撃ちとしゃがみ撃ちの方が良いと思ってる。確かに立ったまま撃つ立射が必要になる事もある。だが、伏せ撃ちとしゃがみ撃ちと比べたら命中率は少し低くなるし、遮蔽物や盾が無い状態では被断面積も増すのも事実だ」


 正樹の理論を静かに耳を傾け、最後まで異論を挟む事無く聴いた。

 そんな涼子は正樹の生徒として質問する。


 「でも、室内戦とかでは伏せたり、しゃがんだりってしないわよね?」


 「あの手のは拙速を尊ぶし、場合によっては動きながら射撃する事も多々ある。俺が言いたいのは可能な限りはなるべく伏せ撃ちやしゃがみ撃ちをして、必要に迫られたら立射をする……要するにケースバイケースで判断して敵を撃てって事さ」


 正樹の言葉に涼子は理解はする。

 だが、同時に正樹の持論に何処か納得いかずにモニョっても居た。


 「それはそうだけど……」


 「確かにジョン・ウィックみたいにスタイリッシュな見敵必殺は憧れるし、理想としたくなる。だが、兵士や戦士に最上なのは生き残る事に尽きる。だからこそ、カッコ悪くとも生き残れる方を選べるか?それが俺が大事とする点だ」


 そう述べた正樹は「それにな」と前置きした上で更に続ける。


 「先ずは基本基礎がキチンと当たり前の様に出来なければ単なる付け焼き刃で終わるし、この手の技術にはメッキなんて無いし、あっても直ぐに剥がれちまう。だからこそ、先ずは基本基礎から学ぶ必要がある。後、体力練成な?銃が重いとか装備が重くて動けないとか弱音抜かすのは体力練成が足りない奴の泣き言でしかないから」


 堅実に学ぶ事を尊び、銃や装備類が重いと言う者に対して弱音を漏らす者へ辛辣にする正樹。

 そんな正樹は涼子に基本的な構えの手解きを始めた。

 伏せ撃ちとしゃがみ撃ち。

 それから、立射の手解きが終われば、涼子と正樹は実際にカラシニコフAKMSを撃つ為。

 涼子の案内でシューティングレンジへと移動した。

 涼子が自分の工房と繋がる鍵で虚空に扉を顕現させると正樹は「扉が何処からともなく現れるのってドラえもんのどこでもドアみたいだな」と暢気にボヤく。

 そんな正樹に涼子は扉を開けながら返す。


 「どちらかと言うと昔のマトリックスって映画の方が近いわね」


 「あぁ、リローデッドのキーメイカーか……確かにそっちの方がシックリ来るな」


 互いに映画好きを示すような遣り取りをしながら涼子の工房に入れば、涼子に誘われて工房のある地下バンカーから地上に出た。

 其処には涼子が昨晩の間に構築した屋外のシューティングレンジがあっま。

 涼子が即席ながらも人の気配が無い錆びた荒野に構築したシューティングレンジの奥には放たれた弾が的を貫いた後に被害が出ない為の大きな土壁があった。

 そんな土壁の前には、幾つもの的が置かれ。い

 的は何れも人の形とサイズをした板切れであった。

 そんなシューティングレンジを見た正樹は涼子に尋ねる。


 「これ君が作ったのか?」


 「えぇ、昨日の夜作ったわ」


 昨晩。

 顔馴染みの魔王に狩りを外注した理由の1つが、これであった。

 魔王へ依頼して本屋から帰った後に涼子は急遽。

 自分の地下工房とも言えるバンカーのある荒野にこうしてシューティングレンジを作ったのだ。

 そんな涼子に正樹は呆れた様に言う。


 「狩りした後にシューティングレンジを作り上げるとか君は体力オバケか?」


 「あぁ、狩りは知り合いに外注したのよ」


 外注したと聴いた正樹は「はぁ!?」と声を荒げてしまった。


 「ずっりー!!何だよ、狩りを外注するってよぉ……羨ましいじゃねぇかコンニャロウ」


 心の底から羨ましがる正樹に涼子は言い訳がましく返す。


 「仕方ないじゃない。現地の偵察して情報収集もしなきゃならないんだから……貴方が変わってくれるなら、私は喜んで役目変わってあげるわよ?」


 涼子が自ら担っている役目の重要度とその大変さを理解しているのだろう。

 正樹は直ぐに拒否した。


 「いや、良いです。頑張って地道に自分で狩りします」


 「良かった。貴方が愚かなバカじゃなくて」


 涼子の言葉に正樹は少しだけ心外そうにボヤく。


 「確かに俺は救いようのないバカ野郎だけどよ、君が自ら担う役目の重要性と大変さが解らない訳じゃないぞ?そりゃ、外注出来るのは羨ましいとは思うけどよ……で、的との距離はどんくらい?ゴマ粒より小さく見えるから300メートルぐらいか?」


 ボヤいた後に的と自分達の距離を尋ねた正樹に涼子は肯定する。


 「えぇ、300メートルよ。よく分かるわね」


 「そりゃあ、俺は兵隊やテロリストしてましたからねぇ……目測で大まかに距離測るぐらいは出来ますわよ」


 そう返した正樹に涼子は告げる。


 「貴方の為に用意したから貴方の好きに撃って良いわよ」


 その言葉に正樹は笑みを浮かべると、カラシニコフAKMSに弾倉を叩き込んでセレクターレバーを一番下まで下げた。

 そうして、セミオートに合わせてからチャージングハンドルを引いてカラシニコフAKMSを撃てる様にすれば、早速試射するのであった。



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