復讐者は暗殺者の如く
涼子が馴染みの魔王に害獣駆除の外注をして居る頃。
魔法を持たぬ正樹は地道に1匹ずつ確実に縊り殺して居た。
「やっぱ人間大サイズの相手の方が殺し易いわ」
「ぐが……」
そうボヤくと共に自分の目と鼻の先にある自分の左腕で羽交い締めされ、喉を掻き斬られて呻き声を漏らして項垂れる大きな鬼の首と肩の間にコンバットナイフを突き立てる。
それから、間髪入れずに心臓を貫くと、刃を捻って完全に心臓を破壊する形でトドメを刺した正樹は静かに寝かせる。
その後。
物言わぬ死体と化した鬼を引き摺り、物陰へと隠した。
すると、仲間が居なくなった事に気付いたのだろう。
数メートル先を歩いていた2匹の鬼が今は屍と化した鬼を捜そうと振り返り、キョロキョロと周りを眺め始めた。
物陰に街灯や月の明かりが届かぬ闇の中にしゃがんで身を潜める正樹は聴き耳を立て、ジッと静かに2匹の鬼を見詰めて観察する。
「おい、何処行ったんや?」
「どうせ
そんな遣り取りと共に背を向けた2匹の鬼は薄暗い住宅地へと歩みを進めていく。
すると、正樹は足音を立てる事無く気配を消し、静かに気付かれない様に歩みを進めた。
そうして、2匹の鬼の背へと忍び寄れば、手慣れた手付きで鬼の口を左手で塞ぐ。
同時に右手に握り締めたコンバットナイフで喉笛を掻き切った。
「うぐっ!!?」
呻き声と共に喉笛が掻き切られて悲鳴が上げられず、呻き声しか上げられぬ鬼は仲間の鬼の背へ助けを求めんと必死に手を伸ばそうとする。
だが、先を進む鬼は一向に気付く事は無かった。
喉笛を掻き切られた鬼は必死の形相で呻き声を上げ続ける。
しかし、仲間が気付く前に正樹は1匹目と同じ様に首の付け根と肩の間にコンバットナイフを深々と突き刺し、心臓を貫いた。
心臓を貫かれた鬼はぐたりと項垂れ、完全に動かなくなった。
正樹がコンバットナイフを鬼の身体から抜いたと同時。
3匹目の鬼が此方を振り向いて来た。
「な!?どしたんや!?」
様子のおかしい仲間の鬼に気付いた鬼が声を荒げると、正樹は死体を前に押し出して放る。
「なんやテ……」
鬼が漸く仲間の死に気付いて怒鳴ろうとした矢先。
正樹は右手に握る血の滴るコンバットナイフを鬼の喉へと投げ、貫いた。
「かはっ……」
喉に突き刺さるコンバットナイフで声が出せず、刺された拍子に膝を地面に着けた鬼へ正樹は駆け寄るとそのまま押し倒す。
そして、その勢いのままに銃剣を抜いていた正樹は鬼の胸。
否、心臓に刃を一気に突き刺した。
「がっ……」
血のあぶくを吐く鬼に対し、正樹は逆手に握り締めた銃剣で何度も何度も胸を突き刺していく。
そうして、容赦無く滅多刺しにすれば鬼は事切れて完全に動かなくなった。
そんな2つの死体を正樹はゴミ捨て場に引き摺って棄てると、血で濡れるコンバットナイフと銃剣の刃を鬼の死体で拭いてから鞘に収めた。
そして、次の獲物の元へと駆け出していく。
数分後。
正樹は人家に押し入ろうとして居た次の獲物達とも言える小さな小鬼達。
もとい餓鬼達を発見した。
クソ!
家に踏み込もうとしてやがる!
仕方ねぇ!!
心の中で悪態を漏らした正樹は腰に手を伸ばして1丁のサプレッサーが取り付けられた拳銃を引き抜くと、静かに安全装置を解除すると共に構えて狙いを定める。
そうして、家に押し入ろうとする1匹目の側頭部に狙いを定めた正樹は静かに引金を引いた。
静かな銃声と共にP90の5.7ミリのライフル弾にも似た6.2ミリの弾丸が放たれ、即座に1匹目の餓鬼の側頭部が貫かれる。
「なんや!?」
突如として地面に倒れた仲間の餓鬼に驚く他の餓鬼が何が起きたのか?
首が千切れん程に勢い良く辺りを見廻す。
正樹は間髪入れる事無く、他の2匹の頭部にも6.2ミリ弾を撃ち込んだ。
極めて静かな銃声と共に眉間を射抜かれて2匹の餓鬼がアスファルトの地面に崩れ落ちる。
正樹は拳銃を僅かに下げて視界を確保すると、周囲を見廻して警戒。
そうして、別の敵の姿も含めた脅威が無い事を残心の如く確認していく。
安全と確認した正樹は未だ動かぬ3体の餓鬼の元へ静かに警戒しながら歩み寄った。
地面に崩れ落ちた3体の餓鬼はピクリとも動かない。
だが、頭部をよく見てみると
やっぱ、
だけど、思考を司る脳を破壊すれば、こうして動きを止める事が出来るのは良い。
餓鬼や鬼等といった大概の妖怪達は頭を破壊しても死なない。
だが、思考を司る脳を破壊する事で身体をコントロールする機能が一時的に停止し、再生するまでは動かなくなる。
そんな妖怪達を殺すには核。
またはコアとも言っても良い心臓を貫く必要があった。
正樹はそれを知るが故に先ほどの3匹の鬼の心臓に刃を突き立ててトドメを刺し、押し入ろうとする餓鬼達には頭を狙ったヘッドショットで動きを止めた。
そして、トドメを確実に刺す為に地面に転がる3匹の餓鬼の心臓を撃ち抜いた。
トドメを刺し終えた正樹は辺りを見廻して目撃者が居ない事を確認。
目撃者が居ない事を確認すれば、足下に転がる空薬莢を拾い集めていく。
餓鬼の死体をそのままに来た道を戻ってヘッドショットした所に落ちている空薬莢も回収すれば、訓練された猟犬の如く次の獲物へと駆け出すのであった。
その後。
時間を掛けて地道に1匹ずつ妖怪を刺、射殺した正樹は、今夜の狩りが終わった事を異世界で脳内に埋め込んだナノマシンを介したネットワーク機構で操る小型の蜂型ドローンで確認していた。
この一帯に残敵は無い。
そろそろ帰るべ。
敵が居ないと確認が済めば、何事も無かったかの様に歩みを進めていく。
俺の居た異世界では魔法が無いと思ってた。
だけど、実際にはオカルトもファンタジーも存在していた。
存在を知った俺は、まるで士郎正宗先生の描く世界だって暢気に思ってた。
そんな異世界でテロリスト辞めた後。
顔と名前を変えて傭兵や殺し屋していた俺が、オカルトやファンタジーが絡んだトラブルに巻き込まれるのも時間の問題だった。
そんなトラブルの中、俺は俺をあの世界へ誘ったと宣う
夜道を歩むと共に自分に起きた出来事を振り返る正樹は魔女の事に触れる。
その魔女に初めて会った時。
魔女から俺をあの異世界に誘ったと言われた。
俺はその時に「何抜かしてんだ?ヤクが切れたんなら、良い売人教えてやっから其処でヤク買ってキメてろ」と相手にしなかった。
だけど、ソイツが俺の本名を口にした時にマジだって気付くべきだった。
その後は事ある毎に俺に嫌がらせして来やがった。
そんな中でも俺は過去を隠して民間軍事会社に就職する事が出来た。
合法なPMCとして真っ当に働く中、俺はある女性に出会った。
俺が言うのも何だが、相思相愛だった。
その証拠に付き合い始めてから1年で結婚もした。
仕事も順調なのも相まって結婚生活は満ち溢れて居た。
その上、子供も設けることが出来た。
最高に幸せだった。
だけど、その幸せは直ぐに喪った。
アイツが奪った。
俺の愛した彼女と、彼女と俺に産まれた娘を魔女が
愛する家族を奪われた事と奪った張本人である魔女を思い出す正樹の顔は憤怒の形相をしていた。
その上、握り締める両の拳からは正樹の血が滴り落ちていく。
それ程までに正樹は怒りと憎しみに満ちていた。
だからこそ俺は絶対に赦さない。
奴を殺して復讐する事が今の俺の最上の目的。
その後の事なんて知ったこっちゃない。
だが、それでも俺を愛してくれる両親が俺の復讐が原因で死ぬのは流石に辛い。
だからこそ俺は敢えて狗になった。
神の狗として生きれば、奴の手掛かりが得られる可能性と両親の保護。
この2つの目的を叶える為に。
冴木 正樹を突き動かすのは涼子が察した通り、憎悪と憤怒に満ちた復讐心であった。
だが、そんな復讐者である彼は幸いにもと言うべきか?
愛してくれる両親を巻き込みたくないだけの分別が未だ残っていた。
そんな彼は復讐相手である魔女が現れるまでの間。
狗として生きる。
そして、静かに己の牙を研ぎ澄まし続けるのであった。
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