助手提供の誘い
母親と食後のティータイムを過ごした後。
自室に戻ると、タイミングを見計らったかの様に勉強机の上で充電器に繋がれていたスマートフォンから素っ気ない電子音が鳴り響き始めた。
勉強机の前に赴いてスマートフォンを手に取って見ると、画面にはタケさんからの着信と出ていた。
涼子はスマートフォンの画面をタップして電話に出る。
「はい」
「おう!こんな朝っぱらから電話して悪いな!」
タケさんの前置きに涼子は要件を尋ねる。
「どうかしましたか?」
その問いにタケさんは問うようにして要件を告げる。
「お前さん、助手欲しくないか?」
タケさんの要件とも言える問いに対し、涼子は訝しむと共に首を傾げながら尋ねる。
「助手ですか?」
「おう助手だ。ソイツはお前さん風に言うなら魔導の知識は一切無いんだがよ、それを用いない戦いでは俺から見ても良い腕を持ってる。オマケにミリタリーっていうのか?今の闘争に関する知識も豊富なんだが……どうだ?」
涼子へ提供予定の助手とやらの事に関して簡単に説明すれば、涼子は少し考えてから答える。
「それだけでは判別は出来ませんよ」
「因みにソイツは昨日、お前さんの地元と二駅先に仕掛けられていた例の穢れに満ちた呪物を解除した」
タケさんの言葉の意図が解らなかった。
それ故、涼子は訝しみながら返す。
「それはタケさんが解除の仕方を教えれば誰でも出来ますよ?」
「生憎と俺は解除の仕方を
呪物に仕掛けられたブービートラップの事を知らずに単純な仕掛けとは言え、ブービートラップを見破って呪物を解除して取り除いた。
件の助手となる人物の技量を窺えるタケさんの言葉に涼子は興味を示したのだろう。
さらなる説明をタケさんに求めた。
「他には?」
「そうだな……テッポーとか使う今の闘争の仕がその手に関してトーシローの俺から見ても、俺でも
そう告げたタケさんが電話を切って通話が終わった。
涼子はスマートフォンを勉強机に置くと、呆れたように呟く。
「何も知らない素人が自分でも簡単に出来そうに見える程度ですって?それが意味する事を理解してるのかしら?」
全ての分野に於いて各分野を専門とする者が専門とする分野をやって見せると、大概の場合はその行いが簡単に見えて自分でも出来る。
誰しもが、そんな錯覚する事が多々ある。
だが、実際に同じ様にやってみると、出来ない。
そんな矛盾にぶつかるのが現実だ。
だからこそ、タケさんの告げた「俺でも簡単に出来そうに見える」と言う内容が意味する事を理解している涼子は、タケさんの言う助手とやらが凄腕と察すると同時。
タケさんに対し、懐疑的なボヤきを漏らしてしまう。
「もしかして、タケさんはそれを理解した上で敢えてあんな風に言ったのかしら?だとしたら、嫌な性格してるわ」
そうボヤいた涼子は改めてタケさんの言葉を振り返る。
「上にピンの抜けた手榴弾を置いただけの単純な物とは言え、ブービートラップを見破って解除出来たって事は工兵としてのスキルも有していると見ても良さそうね」
地雷が多数仕掛けられた地雷原やゲリラやテロリスト等が仕掛けるIEDと呼ばれる簡易爆弾等の罠。
そうした殺意と共に爆発物を解除する役目を今の軍隊に於いて担うのは、陸上自衛隊では施設科部隊と呼ばれる工兵部隊である。
そんな工兵部隊のスキルをブービートラップ解除が出来た点から有する。
そう判断した涼子は次にテッポーを用いる戦いに関して触れる。
「銃器を上手に用いて戦える。しかも、素人の目から見て自分でも出来ると錯覚させる程に……そうなると、相当数の訓練と場数を踏んできたベテランと判断しても良さそうかしら?」
魔導はからっきしではあると言われていたが、魔導は己が専門とする分野。
それ故に問題は無いと判断した涼子は助手となる人物に対し、俄然興味を覚えた。
そうなると、日本人で年輩だった場合は
下手したら地元の
流石に警察のSATやSITに
ミリタリー趣味者としての知識を用いて助手となる人物をそう仮定した涼子は、更に思考を巡らせて展開していく。
この日本に於いて銃器を用いた戦闘技術を確実に習得したいなら、自衛隊が警察のSATとかみたいな専門の所に行くしか無いのが現状。
特に爆発物も含めるなら自衛隊しか無い。
確かにタクトレとかでも戦術は学べる。
だけど、それは単なる
それ以前にそういうタクトレは基本的な基礎を有する人間が収めなければ意味が無い。
タクトレ学んでイキる素人が居るけど、あーゆーのって何かムカつくのよね。
最後に私情が入りながらも、日本に於いて本物の実銃を用いる戦闘技術を収める方法を挙げた涼子は更に思考を展開させる。
自衛隊上がりなら良いけど、それ以外で実銃を用いる戦闘技術を習得しているとなったら流石に話が
確かに今の情報社会なら知識は学べる。
だけど、経験は得られない。
そんな世界で日本人が自衛隊に居た以外で実銃を用いて戦う技術を獲る。
控えめに見ても、
その時点でデストロの246や016にヤングガン・カルナバルに出てきそうな
そう判断せざる得ない。
其処まで仮定した涼子は自分の事を思い返すと、自嘲を込めてシニカルにボヤいた。
「真っ当な過去じゃないのは私も一緒か」
そんなボヤきを漏らすと窓の外から羽音がした。
見ると、其処にはメッセンジャーである八咫烏の姿があった。
窓辺に赴いてガラス戸を開けると、八咫烏は嘴で咥えていた分厚い封筒を涼子に差し出して来る。
涼子が分厚い封筒を取ると、八咫烏はさっさと飛び去って空に消えた。
「さて、中身は何かしら?」
そう呟きながら封筒の口を開けて中を覗くと中には札束が入っていた。
封筒の札束を取って表と裏を見ると、どちらも1万円札であった。
そんな札束を構成する紙幣を全て確認すると共に枚数を数えると、1万円札が100枚ピッタリ。
つまり、100万円が贈られたと言う事になる。
「多くない?」
契約時に確認した給与は毎月30万円。
それプラス仕事を1つ成功させる度に成功報酬として50万円。
つまり、贈られた現金は涼子が困惑と共に漏らした言葉通り多過ぎるのである。
そんな涼子を見透かしているかの様に札束とは別に1枚の手紙があった。
手紙に気付いた涼子は手紙を読み始める。
「えー……何々?この報酬の内訳は契約前に解決した
贈られた現金の内訳に納得した涼子はありがたく貰う事にすると、その次に書かれた内容に目を通していく。
其処には助手候補となる人物との待ち合わせ場所と時間等が記されていた。
「私のバイト先のモールにあるフードコートに午後1時半。助手候補さんは男……待ち合わせ場所と時間は解ったけど、会う相手に関する情報が男としか無いのは何でよ?」
そうボヤいて再び手紙を読むと、助手候補は見れば解るとだけあった。
「見れば解るって何よ?本当に仕事を成功して貰いたいのか?怪しく感じるわよ?」
呆れ混じりにボヤく涼子は更に続く文を読むと、益々呆れてしまう。
「この文は5秒後に自動的に消滅するってミッション・インポッシブルかっての」
そんなボヤきと共に涼子の手の上で手紙は青い炎と共に燃え、灰燼と化した。
助手となる予定の男に関する情報が無い事に不満を覚える涼子であった。
しかし、涼子は不満を他所にファーストコンタクトまで時間がタップリある事を確認すると、勉強机に座って宿題と授業の復習をしていくのであった。
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