第16話 次のステージへ

セラディア領を離れる決断


展示会が終わり、オルネ商会が広く認知されたことで、ヘインは新たな目標を抱いていた。セラディア領での成功は、商会にとって大きな一歩だったが、次の段階へと進むためには、新しい市場への展開が必要だと感じていた。


展示会から数日後、リゼットとリヴィエールに再び会う機会が訪れた。ヘインは二人に、自分の次の計画を伝えるためにこの場を設けたのだった。


「リゼット様、リヴィエール様。お時間をいただき、ありがとうございます。実は、次の展開についてご相談したいことがあります。」と、ヘインは真剣な表情で切り出した。


リヴィエールは興味深そうに頷いた。「うむ、話を聞こう。君の考えを聞くのはいつも楽しみだ。」


「今回の展示会を通じて、オルネ商会の製品がセラディア領で多くの方に受け入れられたことは、本当に嬉しく思っています。しかし、これに満足することなく、さらに大きな市場、たとえば他の領地や国々への進出を考えています。」と、ヘインは言葉を続けた。


「他の領地…確かに、それは商会の成長にとって必要なことですね。」リゼットは穏やかに頷いたが、その瞳には一抹の不安が見え隠れしていた。


「はい。マリオン領、ヴェルデン領、セラディア領と経験を積みました。他の領や隣国への進出も視野に入れています。」ヘインはリヴィエールとリゼットを見つめながら続けた。「もちろん、セラディア領での活動は続けていくつもりです。しかし、自分自身が次の場所に向かって動き始めないと、これ以上の成長は難しいと考えました。」


リヴィエールはしばし沈黙した後、深く頷いた。「なるほど。君の決意は理解した。君のような若者が挑戦することは、この国にとっても素晴らしいことだと思う。だが、リゼットはどう思うかね?」


リゼットの心の内


ヘインの言葉を聞いたリゼットは、一瞬戸惑ったように見えた。しかし、すぐに微笑みを浮かべて答えた。「ヘインさんの挑戦を応援します。オルネ商会がもっと大きく成長するためには、やはり新たな市場を開拓することが必要ですものね。」


その言葉には確かな応援の意思が込められていたが、ヘインはリゼットの目に一瞬の寂しさを感じた。それでも、彼女は強く振る舞っているようだった。彼女の気持ちを思うと、ヘインの胸は少し痛んだが、決断を揺るがせるわけにはいかなかった。


「ありがとうございます、リゼット様。」と、ヘインは感謝の言葉を述べた。「これからもセラディア領での活動は続けていきますし、リゼット様のご支援があってこそのオルネ商会です。今後もお力添えいただければ幸いです。」


リゼットは少しだけ口元を引き締めたが、笑顔を保ちながら頷いた。「もちろんです。セラディア領のことは私に任せてください。」


次なる目的地


その夜、ヘインは商会の仲間たちに自らの計画を伝えた。仲間たちは驚きながらも、彼の挑戦を応援する姿勢を見せた。


「次のステージに挑むんだな、ヘイン。俺たちも全力で支えるぜ!」と、職人の一人が力強く声をかけてくれた。


「ありがとうございます。皆さんの力があれば、きっと新しい市場でも成功できると信じています。」と、ヘインは微笑んだ。


そして、彼の次なる目的地は再びヴェルデン領に挑むことに決まった。エリックが以前に提案してくれた通り、彼の紹介で現地の商人たちと接点を持つことができるからだ。また、ヴェルデン領はセラディアとは異なる文化があり、新たなアイデアが生まれる場所でもある。新たな挑戦を前に、ヘインの胸には期待と緊張が入り混じっていた。


リゼットとの別れ


旅立ちの前日、ヘインはリゼットに会いに行った。展示会が終わってから少し忙しくしていたが、彼女にしっかりと別れを告げたかったのだ。


「リゼット様、明日から旅立ちます。」と、ヘインは静かに言った。


リゼットは微笑みを浮かべながらも、少しだけ視線を逸らした。「そうですね…きっと成功しますよ、ヘインさんなら。」


「リゼット様…」と、ヘインは言いかけたが、その先の言葉が見つからなかった。


「何も心配しないでください。ここで待ってますから。」と、リゼットは言った。その笑顔は変わらず優しかったが、やはりどこか寂しそうだった。


「ありがとうございます。絶対に成功して戻ってきます。」と、ヘインは力強く応じた。


その瞬間、二人の間には言葉にはできない思いが溢れていた。お互いに支え合い、信頼し合っているが、それ以上の関係に進むべきかどうか、まだはっきりと答えが見つかっていなかった。しかし、リゼットが見せたあの笑顔が、ヘインにとっては何よりの励みとなった。


こうして、ヘインは次なる冒険へと旅立っていった。ヴェルデン領で待ち受ける新たな挑戦、そしてリゼットとの関係がどのように変わっていくのか、まだ誰も知らない。しかし、彼の心には確かな決意と希望があった。

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