第15話 リヴィエール

展示会の開幕


セラディア領での展示会の当日がついにやって来た。広大な会場には、オルネ村の職人たちの手による美しい製品がずらりと並び、訪れた人々の目を引いていた。会場の中央には、大きな展示スペースが設けられ、そこでは実際に製品を手に取って見られるだけでなく、職人たちがその場で制作する様子も見学できるようになっていた。


ヘインは会場を歩きながら、展示物の配置や職人たちの様子を確認していた。セラディアの貴族や商人たちが次々と訪れ、彼らの反応は上々のようだった。リゼットが計画してくれた特別イベントも、大いに盛り上がっていた。彼女は会場のあちこちを駆け回り、訪れた客人たちに丁寧に説明しながら、オルネ村の魅力を伝えていた。


「ヘインさん、この展示品、とても素敵ですね。手に取ると、職人の情熱が伝わってくるようです。」と、展示会に訪れた貴族の一人が声をかけてきた。


「ありがとうございます。職人たちが心を込めて作ったものばかりですので、ぜひたくさんの方に手に取っていただきたいと思っています。」と、ヘインは微笑みながら応じた。


貴族や商人たちは、展示されている製品の品質の高さに感銘を受け、いくつもの商談がその場で成立していた。展示会が始まる前は、どれほどの成果が得られるのか不安もあったが、その心配は次第に消え去っていった。


予想外の訪問者


展示会が盛り上がる中、会場に予想外の訪問者が現れた。彼は豪奢な装いをまとった、威厳のある中年の男性だった。彼を見た瞬間、リゼットが驚いた表情を浮かべながら駆け寄ってきた。


「お父様…!まさかいらっしゃるとは思っていませんでした。」


彼はリゼットの父リヴィエール、セラディア領の領主だった。リゼットの説明によれば、彼は非常に多忙な人で、展示会に来るのは難しいと聞いていたのだが、どうやら時間を作って訪れてくれたようだった。


「リゼット、そしてヘイン君。これだけの準備をしてくれたのだから、実際に見ておかないと気が済まないと思ってね。」彼は穏やかに笑いながら答えた。


その言葉を聞き、ヘインは深々と頭を下げた。「お越しいただきありがとうございます。今回の展示会を成功させるために、リゼット様が多くのご支援をくださいました。」


リゼットの父リヴィエールは会場を見渡しながら頷いた。「確かに、これは素晴らしい展示会だ。オルネ村の技術や文化がしっかりと伝わってくる。そして、これを実現した君の努力に感謝するよ。セラディア領でこれほどの催しを開いてくれて、感謝している。」


リヴィエールの言葉に、ヘインの胸には安堵と共に、新たな緊張が走った。領主に直接認められることが、どれだけ大きな意味を持つかは、彼自身が一番理解していた。


思わぬ助力


その後、リヴィエールは会場を回り、丁寧に各ブースを見て回っていた。その姿を見ていたヘインに、一人の青年が近づいてきた。彼はエリックだった。ヴェルデン領の青年貴族で、ヘインの商会と協力関係にある人物だ。


「やあ、ヘイン。展示会の成功、おめでとう。そして、僕も少し手を貸そうと思ってね。」エリックはにっこりと微笑んだ。


「エリック様、お越しいただきありがとうございます。助力とは…?」と、ヘインは少し驚きながら尋ねた。


「この展示会を見に来ると、僕の領地に繋がる商人たちも少なくない。彼らを紹介しようと思ってね。ヘインの商会の魅力を、もっと多くの人に伝えたいと思っているんだ。」エリックは自信たっぷりに答えた。


エリックの提案は、ヘインにとって大きな驚きだった。セラディア領での成功が次の展開へと繋がるとは、思いも寄らなかったからだ。さらにエリックが自発的に手を差し伸べてくれることに、ヘインは心から感謝した。


「エリック様、本当にありがとうございます。お力添えがあれば、もっと多くの方々にオルネ商会の製品を知ってもらえると思います。」と、ヘインは感激しながら応じた。


展示会の終わりと新たな旅立ち


展示会は無事に成功を収め、多くの商談が成立し、オルネ商会の名はセラディア領中に知れ渡ることとなった。リゼットの父リヴィエールも、展示会の結果に非常に満足しており、ヘインにさらなる協力を約束してくれた。


「ヘイン君、君の商会には明るい未来があると確信している。これからもセラディア領だけでなく、もっと広い市場を目指していってほしい。私も微力ながら、君の商会を支援させてもらうよ。」


その言葉に、ヘインは深々と頭を下げた。「ありがとうございます。皆様のご支援に応えられるよう、これからも努力を続けてまいります。」


展示会が終わった夜、ヘインは会場の片隅でリゼットと二人きりになった。彼女は少し疲れた様子だったが、その表情には充実感が漂っていた。


「リゼット様、今回の展示会が成功したのは、あなたのおかげです。本当にありがとう。」と、ヘインは静かに言った。


リゼットは微笑みながら首を振った。「いいえ、私だけの力ではありません。ヘインさんや、オルネ村のみんなが力を合わせてくれたからこそ、ここまで来られたんです。そして、これからも一緒に歩んでいけたら嬉しいです。」


その言葉に、ヘインは心の中で彼女への感謝と共に、新たな決意を固めた。次なる挑戦に向けて、彼の心はすでに動き始めていたのだ。


こうして、セラディア領での展示会は幕を閉じ、新たな繋がりと希望を得たヘインは、次なる冒険へと一歩踏み出していった。その道の先には、さらなる試練と成長が待ち受けているに違いない。そして、リゼットとの関係がどのように進展していくのかも、まだ誰も知らない。

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