第14話 リゼット
セラディア領での展示会への準備
その後、ヘインはセラディア領での展示会に向けて本格的な準備を始めた。リゼットからの手紙に書かれていた特別イベントの提案を基に、オルネ村の職人たちとも話し合いを重ねた。村の伝統的な技術や製品を前面に押し出しながら、セラディアの文化と融合させたユニークな展示会にすることが目標だ。
ある日、ヘインはリゼットとセラディア領で打ち合わせを行うため、久しぶりに領都へ向かっていた。到着すると、リゼットが既に待っており、彼を温かく迎えた。
「ヘインさん、お待ちしていました。今日は展示会について色々とお話しできることを楽しみにしていました。」
「リゼット様、こちらこそお招きいただきありがとうございます。あなたの提案にとても期待しています。」
打ち合わせの席では、セラディアの地元の食材を使ったオルネ商会の製品の紹介や、村の職人が実演を行うワークショップなど、多彩なイベントが計画された。リゼットの父リヴィエールも、商会の魅力を伝えるためにこの展示会が大切な役割を果たすと考えており、地元の有力な貴族や商人たちを招待する準備を進めていた。
「お父様も本当に楽しみにしているんですよ。父もまた、伝統的な工芸や職人の技術を大切にする人ですから、ヘインさんの商会の活動に共感してくれたんです。」
リゼットの言葉に、ヘインは心強さを感じた。「それなら、なおさら気を引き締めて準備を進めなければなりませんね。リゼット様のご協力があってこそ、この展示会は成功に繋がると思います。」
リゼットは微笑みながら、「私も全力でお手伝いさせていただきます。一緒に素敵な展示会にしましょう。」と応じた。
オルネ村の活気と未来
展示会の準備が進む中、オルネ村でも新たな動きが生まれていた。ヘインがセラディア領との取引拡大を進めていることが、村の職人たちに大きな影響を与えていたのだ。新しい市場の開拓に向けて、村全体が一丸となって製品の品質向上や新商品の開発に取り組んでいた。
ある日、ヘインは商会の工房を訪れ、職人たちと直接話をした。彼らは日々の作業に熱心に取り組みながらも、ヘインの計画に期待を寄せていた。
「ヘイン様、セラディア領での展示会って、本当に大きなチャンスなんですね。私たちの作るものがもっと多くの人に届くなんて、想像すると胸が高鳴ります。」と、年配の職人が目を輝かせて話しかけてきた。
「そうだね。でも、それはみんなが作り上げてくれた製品が素晴らしいからこそ実現できることだ。展示会が成功すれば、オルネ村の名前も広がって、もっと多くの人に村の魅力を知ってもらえる。」とヘインは応じた。
その言葉に、職人たちは力強く頷いた。彼らの誇りと技術を背に、ヘインはさらに前進する覚悟を決めた。
再び訪れる運命の夜
セラディア領での展示会が近づく中、リゼットはヘインに個人的な手紙を送ってきた。その内容には、展示会に向けた最終打ち合わせを兼ねて、リゼット自身の思いを伝えたいと書かれていた。指定された場所は、セラディア領の広大な庭園の一角にある、古くからある美しい噴水のそばだった。
ヘインが約束の場所に着くと、既にリゼットが待っていた。彼女は少し緊張した面持ちで、でもどこか期待に満ちた瞳でヘインを迎えた。
「ヘインさん、来てくれてありがとう。今日は展示会の話もしたいけれど、それ以上に…少しだけ、私の気持ちを聞いてほしいんです。」
リゼットの真剣な表情に、ヘインは自然と身を引き締めた。「もちろんです。リゼット様のお話なら、何でも聞かせてください。」
リゼットは一呼吸置き、ヘインを見つめたまま言葉を続けた。「これまで、いろんな場所でヘインさんとお会いして、そのたびにあなたの熱意や優しさに触れることができました。だからこそ、私ももっとあなたの力になりたいと心から思っています。そして…それ以上に、あなたともっと一緒にいたいと思っている自分に気づいたんです。」
リゼットの告白に、ヘインの心は一瞬止まったように感じた。彼女の言葉は、商談を超えた純粋な思いを伝えていた。
「リゼット様…」彼は一瞬言葉を選び、続けた。「あなたがこうして真剣に自分の思いを伝えてくれたことに感謝します。僕も、あなたとの時間がとても大切です。でも、僕にはまだたくさんのやるべきことがあって、その中であなたをどう思っているのか、まだ自分でもはっきり答えが出せていないんです。」
リゼットは微笑みながら頷いた。「大丈夫です、ヘインさん。あなたの気持ちを無理に決めつけるつもりはありません。ただ、今の私にできることは、あなたの夢を応援することだと思っています。だから、一緒にこれからも歩んでいけたら、それで十分なんです。」
その夜、二人は再び月明かりの下で話し、互いの思いを少しずつ理解し合う時間を過ごした。ヘインの心には、リゼットの優しさと決意が深く刻まれていった。これから始まるセラディア領での展示会が、どんな未来をもたらすのか、そして彼女との関係がどのように進展していくのか―新たな挑戦がまた一歩、彼を未来へと導いていた。
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