第11話 訪問

リゼットの訪問とオルネ村の歓迎


晩餐会から数日後、ヘインはリゼットとの会話が忘れられずにいた。彼女の純粋な興味と、商品を本当に気に入ってくれた笑顔が頭に浮かび、少しでも良い印象を持ってもらえたことを嬉しく思っていた。


そんなある日、ヘインのもとに一通の手紙が届いた。リゼットからだった。


「先日は素敵な晩餐会をありがとうございました。お約束の通り、今度オルネ村を訪れたいと思っています。もしよろしければ、村の職人たちの工房を見学させていただけないでしょうか?」


リゼットからの丁寧な文面に、ヘインの胸が高鳴った。彼女が本当にオルネ村を訪れたいと願っていることがわかり、心から歓迎したいと思った。


「もちろん、喜んでお迎えします。ぜひ村の魅力を存分に楽しんでいただけたらと思います。」ヘインはすぐに返信し、リゼットの訪問の日程を決めた。


工房見学とリゼットの感動


数日後、リゼットがセラディアからオルネ村にやってきた。村の入り口にリゼットを迎えに行くと、彼女は上品な淡いブルーのドレスをまといながらも、どこか無邪気な表情で周囲を見渡していた。


「ヘインさん、お待たせしました。ここがオルネ村なんですね。思っていたよりも、ずっと穏やかで素敵なところです。」


「ようこそ、リゼットさん。今日はオルネ村をたっぷり案内させていただきます。まずは、職人たちの工房を見に行きましょう。」


リゼットの到着を村中が知っており、工房を訪れるたびに職人たちは笑顔で出迎えた。リゼットは職人たちの手仕事に見入って、感嘆の声を上げた。


「こんなに丁寧に、時間をかけて作られているなんて…これまで手にしていた製品が、どれだけの努力と情熱で作られているか、改めて理解できました。」


ある刺繍工房では、年配の女性職人が細かい模様を描く糸の動きにリゼットが興味津々で見つめていた。その様子に気づいた職人が「お嬢さん、やってみますか?」と声をかけた。


「私にもできますか?」


「最初は難しいかもしれないけれど、やってみると楽しいわよ。」


リゼットはその場で刺繍の針を手に取り、ぎこちなくも一生懸命に糸を通していった。その姿を見て、職人たちもヘインも温かい気持ちになった。リゼットの素直な姿勢と、ものづくりへの興味が、村の人々との距離を一気に縮めていた。


村での昼食とリゼットの夢


工房見学を終えた後、ヘインはリゼットを村の広場にある小さなカフェに案内した。そこでは地元の特産品を使った料理が提供されており、リゼットは興味津々でメニューを眺めていた。


「本当に美味しそうですね。普段食べているものとは全然違う…」


「ここは村の人たちが作る食材を使っていて、どれも新鮮で美味しいんです。ぜひ楽しんでください。」


リゼットが村の料理を口にすると、その笑顔がますます明るくなった。「こんなに美味しい料理が、村で作られているなんて知らなかったわ。オルネ村の皆さんが作るものには、特別な温かさを感じます。」


その後、リゼットは静かにヘインに向き直った。「ヘインさん、実は私、もっと多くの人にオルネ村の魅力を知ってもらいたいと思っているんです。手工芸品も、料理も、こんなに素敵なものがここにはあるのに、それを知らない人が多いのがもったいなくて。」


「それは…素晴らしい考えですね。」


「はい、だから私、いつかこの村と一緒に、何か大きなプロジェクトをやってみたいんです。もっと多くの人に、この村の良さを伝えたい。お父様には、少しずつその話をしているんです。」


新たなプロジェクトの芽生え


リゼットの言葉に、ヘインは思わず目を見開いた。彼女がオルネ村をただの興味で訪れたわけではなく、本気で村の未来を考えてくれていることがわかったからだ。


「それなら、ぜひ僕も協力させてください。今、オルネ商会も新しい取り組みを進めている最中で、村をもっと活気づけるために、何かできればと思っていました。」


リゼットは嬉しそうに頷いた。「本当ですか?ありがとうございます、ヘインさん。きっと、素敵なことができる気がします!」


こうして、リゼットとヘインの間には、新たな絆が生まれた。彼女の心の中にあるオルネ村への愛情と夢は、ヘインにとっても新しい目標となった。そして、それが二人をさらに近づけるきっかけとなったのだ。


村の噂と新たな訪問者


リゼットがオルネ村を訪問したことは、すぐに村中の話題となった。貴族の令嬢が村の商会に興味を持ち、実際に訪れるなど、これまで考えられなかったことであり、村人たちは皆、好意的に受け止めていた。


そんな中、次に訪れたのは、マリオン領の領主ロランドからの手紙だった。


「オルネ商会のヘイン殿、今度マリオン領でも商会の展示会を企画しているのだが、ぜひとも参加していただきたい。オルネ村は我が領地でもある。市場にも、君の商会の商品を更に広める機会を作りたいのだ。」


ヘインはその手紙を見て、期待に胸を膨らませた。カルデア商会やリゼットとの協力だけでなく、マリオン領主という新たな協力者を手にすることができるかもしれない。


広がる未来と複雑な心境


リゼットとの繋がり、マリオン領からの誘い、そして村の職人たちの支持。すべてがヘインにとって、大きな力となっていた。しかし、同時にこれまで以上に責任も増え、成功させなければならないというプレッシャーも感じていた。


「だけど、これが俺の選んだ道だ。どんなに困難でも、家族と村のために…そして、新しくできた仲間たちのために、絶対に成功させてみせる。」


リゼットとの約束、そしてマリオン領での挑戦が、ヘインにとって新たなモチベーションとなり、彼のビジネスと心の旅はますます広がっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る