第12話 展望

商談の展望


数日後、ヘインはマリオン領の領都へと足を運んでいた。マリオン領主ロランドからの誘いを受け、展示会に参加するためだ。会場はロランドの屋敷内にある美しい庭園に設けられており、貴族や商人が集い、様々な商談や交流が行われていた。


展示会に到着したヘインは、まずはロランドと挨拶を交わした。彼は快活で気さくな人物で、ヘインが来たことを喜んで迎えてくれた。


「ようこそ、ヘイン殿。また会えましたね。」


「こちらこそ、展示会にお招きいただきありがとうございます。今日はとても楽しみです。」


「ぜひ、存分に楽しんでください。オルネ商会の製品を広めるお手伝いができれば嬉しいですからね。」


展示会での商談が進む中、ヘインは以前、晩餐会で顔を合わせたヴェルデン領主エリックとも再会した。彼は冷静で知的な雰囲気を漂わせており、いつもヘインに的確な助言をくれる。今回も、彼の商会の展開について興味を持ってくれているようだった。


「ヘイン度の、お久しぶりです。マリオン領でも展示会に参加されるなんて、ますます精力的に活動されていますね。」


「エリック様、こちらこそお会いできて嬉しいです。オルネ商会の製品をもっと多くの人に知ってもらうためには、こうした機会が大切だと考えています。」


「確かに。貴方の商会が提供する製品は、どこか特別な魅力があります。品質も去ることながら、作り手の想いが伝わってくるようですから。それが市場で評価されるのも納得です。」


エリックの言葉に、ヘインは思わず感謝の意を示した。「ありがとうございます。そう言っていただけると、職人たちも喜ぶと思います。」


「ところで、もしよければ私の領地でも、オルネ商会の製品を更に取り扱いたいと思っているのですが、お考えはどうですか?」


ヘインにとって、これは思いがけない提案だった。彼の領地でもより商品の販路を広げることができれば、商会の影響力はさらに大きくなる。しかし、それ以上にエリックとの距離が縮まることに、彼は心の中で微かな喜びを感じていた。


リゼットとの偶然の再会と新たな提案


展示会が進む中、ヘインはリゼットの姿を見つけた。彼女もまた、この展示会に招かれていたようだ。目が合うと、リゼットは微笑みながら駆け寄ってきた。


「ヘインさん、またお会いできるなんて嬉しいです。展示会、楽しんでいらっしゃいますか?」


「リゼット様もこちらにいらしてたんですね。はい、とても有意義な時間を過ごしています。」


リゼットは周囲を見回しながら、小さな声でささやいた。「実は、私の父もヘインさんの商会にかなり興味を持っていて。もし可能なら、セラディア領でも単独展示会を開いてみてはどうかと考えています。私も父に話をして、ぜひ協力したいと思っています。」


「本当ですか?それはありがたい提案です。リゼット様が協力してくださるなら、セラディアでも成功させられるかもしれません。」


「それに…私も、オルネ村で感じたあの温かさを、もっと多くの人に伝えたいんです。だから、お力になれれば嬉しいです。」


リゼットの真剣な眼差しに、ヘインは心の中で彼女への好意が増していくのを感じた。セラディア、マリオン、ヴェルデン、それぞれの領地の領主との繋がりが深まり、彼の商会にとって新たなチャンスが次々と訪れていた。


展示会の後、夜が更けた庭園で、ヘインは一人で月を見上げながら考えていた。新たなビジネスの可能性、広がりつつある仲間の輪、そしてリゼット、エリック、そしてロランドとの出会い。これまで想像もしなかった形で、自分の世界が広がっていくのを実感していた。


だが、その一方で、特にリゼットに対しての彼の心は微妙に揺れ動いていた。魅力的な女性であり、魅力を持っている。リゼットの純粋で熱意ある姿勢と知的で頼れる存在感。彼女との関係がこれからどうなっていくのか、ヘイン自身もまだわからなかった。


「俺が選んだこの道は、決して楽じゃないけど…でも、後悔はしてない。」


ふと、後ろから足音が聞こえた。振り返ると、そこにはリゼットが立っていた。彼女もまた、夜の庭園の中で月を見上げていたのだ。


「こんなところにいるなんて、奇遇ですね。私も少し散歩しようと思って…」


「そうですね。でも、夜の静けさが心を落ち着けてくれるので、時々こうして考え事をするんです。」


「わかります。私も、ここで見る月が大好きです。何もかも忘れて、ただ美しさを感じられるから…」


リゼットと並んで夜空を見上げるひと時に、ヘインは微かな幸福を感じていた。彼女の横顔が月明かりに照らされ、その瞳が優しく輝いている。


「これから、もっと色々なことに挑戦していけそうです。リゼット様、そしてみんなのおかげで。」


「ええ、ヘインさんならきっと大丈夫です。私も、もっとお手伝いさせてください。」


こうして、リゼット、エリック、そして新たにマリオン領との繋がりを得たヘインは、さらなる広がりを見せるビジネスと、人々との絆の中で、新たな一歩を踏み出していくことになる。そして、彼の周りに集まる女性との関係も、徐々に新たな展開を迎えることになるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る