第10話 晩餐会

セラディア領主の晩餐会への招待


カルデア商会との提携を勝ち取った翌日、アルノーが再びヘインのもとを訪れた。


「ヘイン君、今日の夜、セラディア領主主催の晩餐会が開かれるんだ。君も一緒に来てほしい。」


「晩餐会ですか?」


突然の誘いに少し驚きながらも、ヘインはアルノーの意図を察した。おそらく、カルデア商会としての新たなパートナーであるヘインを、領主や他の有力者に紹介するための機会を設けてくれたのだろう。


「セラディアの領主だけでなく、近隣のマリオン領やヴェルデン領の領主も招待されている。彼らと面識を持っておくのは、これからのビジネスにも役立つはずだ。」


アルノーの言葉を聞き、ヘインは即座に頷いた。「ありがとうございます。ぜひ参加させていただきます。」


華やかな晩餐会の幕開け


その夜、セラディア領主の館で開かれた晩餐会は、豪華なシャンデリアが輝く大広間に、色とりどりのドレスや華麗な装いをまとった貴族たちが集まり、華やかな雰囲気に包まれていた。ヘインは初めて体験する貴族の社交場に少し緊張しながらも、自分の姿勢を崩さないように努めていた。


「さあ、こちらだ。」


アルノーに案内され、広間の奥に進むと、マリオン領とヴェルデン領の領主が立ち話をしていた。二人とも堂々とした風格を持ち、会場でもひときわ目立っている。


「おや、君が噂のオルネ商会のヘイン君か。」


最初に声をかけてきたのは、マリオン領の領主であるロランド。中年の貫禄ある男性で、鋭い眼光が印象的だった。隣には、ヴェルデン領の領主である若きエリックが立っていた。彼は少し柔らかい表情をしており、ロランドとは対照的な穏やかさを持っている。


「初めまして。オルネ商会のヘインです。この度はお会いできて光栄です。」


ヘインは丁寧に挨拶し、二人に軽く頭を下げた。


「話には聞いていたが、展示会での活躍は素晴らしかったそうだな。セラディア市場でもっとも売上を伸ばしたとは、並大抵のことではない。」ロランドが感心したように言った。


「それに、カルデア商会のアルノーが推薦するとは、よほどの才能があるということだろう。」エリックも微笑みながら言葉を添えた。


そんな話をしているとしばらくして、セラディアの領主であるリヴィエールも会話に加わった。彼は四十代後半と思われる落ち着いた男性で、その目には穏やかな知性が宿っていた。リヴィエールはヘインの顔を見て、にっこりと微笑んだ。


「君がオルネ商会のヘイン君だね。カルデア商会との提携を勝ち取り、このセラディアで新たな風を吹かせるとは、大したものだ。」


「ありがとうございます、領主様。まだまだこれからですが、精一杯努力してまいります。」


「その意気だ。実は、君の商会の商品について、私の娘がとても興味を持っていてね。今日の晩餐会にも連れてきているから、ぜひ紹介させてくれないか。」


リヴィエールに促され、ヘインは少し奥まった場所に設けられたテーブルへと向かった。そこには、一人の美しい女性が座っており、ヘインが近づくと、ゆっくりと立ち上がった。


「初めまして。父からお話を伺っておりました。私はリヴィエールの娘、リゼットと申します。」


リゼットは長い金髪を優雅にまとめた美しい女性で、その姿は周囲の誰よりも華やかだった。少し恥ずかしそうに微笑む表情が、どこか無邪気さも感じさせる。


「初めまして。オルネ商会のヘインです。領主様からお話を伺って、リゼット様にお会いできることを楽しみにしておりました。」


ヘインがそう言うと、リゼットは少し目を丸くして微笑んだ。「わざわざありがとうございます。実は、展示会でオルネ商会の商品を見て、すぐに気に入ってしまったんです。手触りも良くて、デザインも素敵で…ずっと欲しいと思っていました。」


「気に入っていただけて光栄です。これからも、より多くの方に喜んでいただけるよう、努力していきます。」


リゼットと話している間、ヘインは彼女の純粋な興味と、優しさを感じ取っていた。貴族の女性として育った彼女が、オルネ商会のような地方の小さな商会にここまで興味を持つのは珍しいことだった。


親しみを深める時間


晩餐会の時間が進むにつれ、ヘインとリゼットの距離も自然と縮まっていった。リゼットは、父親であるリヴィエールの仕事を手伝いながらも、芸術や手工芸品に興味を持つ女性で、自分の部屋には各地の手作り品が並んでいるという。


「私、オルネ村の職人さんたちが作るものがもっと見たいです。特に刺繍や彫刻がとても細かくて…」


リゼットの目が輝くのを見て、ヘインは心が温かくなるのを感じた。「それなら、今度ぜひオルネ村にいらしてください。村の職人たちが一生懸命作る姿を、実際に見ていただけると思います。」


「本当ですか?ぜひ行きたいです!」


その時、晩餐会のメインホールから音楽が流れ始め、ダンスが始まった。リゼットがヘインに少しはにかんだ表情で手を差し出す。


「もしよかったら、一曲踊っていただけますか?」


突然の誘いにヘインは一瞬驚いたが、すぐに微笑んで手を取った。「喜んで、お相手させていただきます。」


新たな縁と広がる未来


その夜、リヴィエールの館で踊る二人の姿は、会場の多くの注目を集めた。ヘインとリゼットの親しい様子を見て、周囲の貴族たちも新しいビジネスの可能性を感じ取っていた。セラディア領主の令嬢と親しくなったことで、ヘインはオルネ商会をさらに発展させるための新たな縁を手に入れたのだ。


ヘインの挑戦は、単に商会を広げるだけではなく、彼自身の人生に新たな出会いと絆をもたらしつつあった。

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