04 クリスマスプレゼント(組石市立楓池小学校三年一組鈴木 縁視点)

 作田さくたくんとわたしは別々べつべつ退院日たいいんびで、作田君のほういっげつはやく退院した。

 わたしのほうは一か月おくれで、十二じゅうにがつはいって、ようやく退院した。

 それでも、十いち初旬しょじゅん。おとうさんとおかあさんに大学だいがくびょう院からされて、一時いちじ外出がいしゅつ出来できた。

 楓池かえでいけ小学校しょうがっこう学習がくしゅう発表会はっぴょうかい三年生さんねんせいげき不思議ふしぎなじゃがいも」を体育館たいいくかんうしろのほうで、くるま椅子いすって、た。


 台本だいほんっていたから、内容ないようっている。

 台本の表紙ひょうしには、「小学校けの劇」とかれてあったのがずっとになっていた。

 それなのに、三年生にやらせるのはどうなんだろう……。



 ◇◇◇劇「不思議なじゃがいも」◇◇◇

 劇のはじまりは、小学校の体育の授業じゅぎょう

 サッカーの試合しあいで、ミスして、「オウンゴール」してしまった男子だんしがいた。

 その運動うんどう苦手にがて


 体育でも、はしるのが得意とくいな子もいれば、球技きゅうぎだけが得意な子もいる。

 まあ、そのどちらも不得意な子は、馬鹿ばかにされがち。


 サッカーが男子だんしよりもうまいじょ子たちにめられて、かわいそうだった。

 主人公しゅじんこうて見ぬふり。

 咄嗟とっさかばったら、「オウンゴールを計画けいかくした」なんて因縁いんねんをつけられてしまう。

 その男子は、交通こうつう事故じこきこまれてにゅう院してしまう。

 みんなで、お見舞みまいの作文さくぶんくけれど、だれ一人ひとり間内かんないけなかった。


 主人公がおつかいで、スーパーマーケットにじゃがいもをいにったのに、れていた。

 どうしようかなやんでいて。そうしたら、クラスメイトも「じゃがいもが買えなかった」とれ始める。

 そこへ、あやしい「移動いどう販売はんばいしゃ」がやってる。

 怪しいひとからやす値段ねだんで「不思議なじゃがいも」を買った子どもたちと、その家族かぞく

 また、学校給食きゅうしょくでも。不思議なじゃがいもが配膳はいぜんされて、気づかずにべてしまう。

 街中まちなかの人が「ペラペラ人間にんげん」になってしまった。

 街中の人が怪しい人をさがして、「もともど方法ほうほう」をめる。


 怪しいひとが子どもだけにかす。

 大人おとなつくれば、はやいのに。

 大人は見まもることしか出来ない。


 子どもたちが明かした「元通もとどおりのポタージュ」をレシピ通りに作るも。

 一人ひとりのミスで、台無だいなしに。

 皆がミスした子を責める。

 でも、主人公がゆう気を出して、「もう一度作りなおそう」とったしゅん間。

 怪しい人は舌打したうちする。

 そして、怪しい人は、なんと、事故ではこばれた男子だった。


「どうして、ぼくがオウンゴールをしたとき、かばってくれなかったの?」と言って、えてしまった。


 不思議なじゃがいもはサッカーボールへとわって。

 ペラペラになった街の人たちはユニフォームをせられて、パタパタうごき出す。

 自分じぶんも、ペラペラのだんボール人間になっていく。


 気がつくと、自分のいえの子ども部屋へやのベッドのうえだった。

 いままでのは、ゆめだった。

 もう、つぎあさで。

 まだ、作文さくぶんを書きえられなくて。

宿題しゅくだいやるの、わすれたの?」とおかあさんにおこられた。

 いそいで、作文を書く。

 オウンゴールのこと、クラスの皆で責めたこと。

 そして、へんゆめを見たこと。

 夢のなかで、自分はやりなおそうとしたけど、またわなかったこと。

「ごめん」の気ちをいっぱい、書いて、作文を終わらせた。

 でも、あやまっても、自分が満足まんぞくするだけなんじゃないか。

 だから、学校へって、先生せんせい相談そうだんしよう。

 学校へ行くと。何人なんにんか、おなじように職員室しょくいんしつかっていた。

 コンコン。

 自分も、ドアをノックして、職員室にはいる。


 ◇◇◇◇◇◇


 劇を終わると、三年生全員ぜんいん一斉いっせいに、ステージまえのひなだんがって来る。

 そして、ピアノの上手じょうずな子が合唱曲がっしょうきょくき始めた。

 作田君は、台詞せりふ群集ぐんしゅう一人ひとり「街の人」やく出演しゅつえんしていて。「ペラペラ人間」っぽくみえる段ボールの道具どうぐからかおいて。ひな壇のならんで。いま一生いっしょう懸命けんめいうたっている。


 皆がステージで、合唱曲「いちょうのみち」を歌う。

 一年・二年のときは。劇の終わりの合唱では、アイツが最後さいこうて。だれか一人をばして、ひな壇で「群集転倒てんとう事故」をおこした。

 先生たちも劇本番ほんばんではさすがにしないだろうと、アイツの「良心りょうしん」を期待きたいしていたけれど。

 二年連続れんぞく、わたしたちの学年は、「劇の終わりに救急きゅうきゅうしゃが来る学年」だった。

 今年ことしは、アイツがいないから、皆普通ふつうの小学生の顔をしている。

 アイツがいたら、人形にんぎょうよりも表情ひょうじょうが無くなっていただろうな。


 合唱曲の歌詞かし途中とちゅう


 ああ いちょうのたおれてゆく

 くるしみに気づかないわたしたち

 黄色きいろい道だけを見つめてる


 ドキッとするような歌詞があった。

 わたしは、劇が終わって体育館から出ていく皆とすれちがわないように。三年団の皆が体育館を出たあと、ゆっくり学校を後にして、病院へもどった。



 退院

 十二月いっぱいは、保健ほけんしつとう校をするよう、小児しょうにの先生から言われている。

 まあ、楓池小学校では、作田君とわたしが「英雄えいゆう」……はおお袈裟げさだけれど。

 児童じどう保護ほごしゃからは感謝かんしゃげきあめあられ

 アイツにいじめられなくなって、さらにアイツの家族かぞくかかわらなくてくなったのがかなりの「評価ひょうか」をあつめた。

 てきには、保健室にコソコソッとやって来て。

鈴木すずきさんや作田君におれいを言うのも、へんはなしなんだけど。

 きざしろうにぶちこんでくれて、本とうにありがとう」だってさ。

 兆部は、国立こくりつ献原けんげんしゃ会学校へれられただけなんだけど。

 先生たちからも、「作田君と鈴木さんはとうと犠牲ぎせい」とか、ヒソヒソ話をされている。

 いやいや、まるでその言いかただと。作田君とわたしが死んだみたいじゃん。そうおもった。


 そういえば、十二月から、市場いちば先生がいなくなった。

 家ていの事じょうで、組石くみいし市外しがいとおくの小学校へ転任てんにんになったんだって。

 先生たちはヒソヒソ話していたけれど。

「本当は家庭の事情じゃ無くて、個人こじんの事情なのに」だってさ。



 冬休ふゆやすみが始まる前日ぜんじつ

 ぜんしゅう会の終業式しゅうぎょうしき後。

 作田君とわたしは、校ちょう室にび出された。

 校長室には、「公社立白梅しらうめこえ社会学校職員 松平まつだいら 安志やすし」さんって、おとこの人が来客らいきゃく用のふるいソファーにこしかけていた。その人のよこに校長先生がすわって。

 わたしたちは、校長先生たちと対面たいめんするようにすわるよううながされた。


軽度けいど矯正きょうせい施設しせつであるわたくし立社会学校には、冬休みがありますが。

 国公こっこう立はじゅう度の矯正施設だから、冬休みがありません。

 中度矯正施設の公社立社会学校の冬休み中は、自たく帰省きせい可能かのうになる生もいます。

 国立献原社会学校に入校した児童Xエックスは、帰省がゆるされませんが。

 少女しょうじょPピーことなります。明日、冬休み帰省審査しんさ結果けっか開示かいじします。

 その前に、少女Pと面しきがあるお二人と、面だんをおねがいしました」


 パシパシパシパシ。

 いきなり、松平さんは拍手はくしゅをしだした。

「『メリークリスマス』。

 そういえば、わかりやすいかな?」

「……認められないんですね?」

確定かくていではありませんが、その見みです」

「じゃあ、なんで!」と作田君は声をあらげて、ソファーから立ち上がった。

 退校も出来ないし、冬休み帰省も無し。

 その、どこがおめでたいんだろう……。

 わたしも、松平さんの「他人たにんを馬鹿にするような下手へた芝居しばい」にイライラする。


「迷公社の支援しえんで、君たちとPの面会が許されたんだよ。

 白梅ノ声は組石市外で、遠い。

 こっちをあさ早く出発しゅっぱつしても、かえりは夜遅よるおそくになる。

 それでも、白梅ノ声へ行くかい?」


「はい!」


 作田君は松平さんのさそいに、即答そくとうした。

「鈴木さんはどうする?

 君も、いたい?」

「そうですね。

 楓池小放課ほうか後学童で、可愛かわいがってもらいましたから。

 ……作田君が一人で会いたいなら、良いけれど。

 松平さんはわたしも呼びだした。

 それはつまり、わたしが付きうことで、何らかのメリットがあるってこと。そうですよね?」

 松平さんのもったいぶったやり取りが面どうで、わたしからっこんで質問をしてみた。


「迷公社による、社会ふっ帰のためのこう生と訓練プログラム付き中度矯正施設『社会学校』。

 短期施設で、最長で二年間。

 男女性別・多様たよう性のみっつの施設で。

 千家ちか市は男子施設『黒曜こくようノ声社会学校』。

 ほし市は女子施設『白梅ノ声社会学校』。

 今あげた二つ以外にもね、多様性の施設を希望きぼうすることも出来る。

 もちろん、男女別施設入所中でも申請しんせいすれば、書類しょるい審査と医師いし診察しんさつで、転校が可能になる。

 ただし、転校した場合、ざい校期げんがリセットされて、転校初日しょにちから最長二年間となるデメリットもある。

 全施設恋愛れんあい禁止きんし。イチャイチャも禁止。

 だから、作田君。

 一応いちおう、Pは誰とも付き合えない状態じょうたいだよ」

 あっ、松平さんの余計な話に、作田君がつくえ一発いっぱつドンッとにぎこぶしたたいた。

 それでも、松平さんはざつ談をやめない。


「面会は大人の職員が複数ふくすう、立ち会う。

 透明とうめい板越いたごしの面会。

 接触は禁止。

 し入れも無理だから。

 もちろん、魔術まじゅつ駄目だめ

「面会時間は?」

「保護者や弁護べんごは、一時間。

 他人である君たちは……」


 松平さんはしん刻なかおをして。

 みぎ手とひだり手の親指おやゆびを、指を、げてみせた。


「三す三は?」

「「……」」

「はい、いくつでしょう?

 作田君はわからないみたいだから、鈴木さん」

「……えっと、『ろく』です」

正解せいかい!正解!正解!

 作田君と鈴木さんの持ち時間それぞれ三十分じゅっぷんだから、一時間の面会で、どうかな?」

 作田君は校長室の中を無言むごんで、ピョンピョン飛びねている。

 松平さんがいる手前、声に出してよろこべないのか。それとも、喜びをみしめているんだろうな……。

「……特別あつかい、ですか?」


「鈴木さん。特別扱いするのは、当たり前だよ。

 かの女は、月に病院に保護され、よう態が安定した月に白梅ノ声に入校した。

 だから、ほう的な余めいは、一・二・三・四月。あとよんか月。

 四か月以内に人間性を取り戻せないと、人権jいんけん失効しっこうするんだ。

 すでに、かん定魔術では、人間である部位ぶいかぎりなくすくなくなっている。

 鑑定魔術で人間の部位を判別はんべつ出来なくなれば、彼女を人間として扱えなくなる」


「そんなに、悪いんですか?」

身体からだの一部がぎゃく転してしまった玉浜たまはま先生と違ってね。

 彼女は、人間性を完全かんぜん喪失そうしつした、のろいのおしゃべり人形に近いそん在なんだ。

 家族の介護を期待したいけれど。

 不りんでしくじった父親ちちおや離婚りこんで家族をうしなうのをおそれて、いきなり教育きょういくパパに変貌《へんぼう

 》。

 はは親は、父親との同きょ嫌悪けんお

 別のマンションでらしている」

「離婚はせい立しそうなんですか?」

「彼女の人間性回復かいふくきざしがあってね。

 ただ、家族との面会はむずかしい。

 あの地獄じごくに戻りたくない気持ちが、人形維持いじするのには良いことなんだ」

 作田君は一言ひとこともしゃべらなかった。

 せい気の無い目で、松平さんを見つめている。


わたしは、聖夜せいやせきしんじているよ」


 ふくせられるわけでは無いけれど。

 わたしたちは、「奇跡」を起すよう、大人に命じられた。

 クリスマスプレゼントを期待していた子どもじみた自分のほほちたくなる。

 もう、わたしはほどこされる側《がわ

 》の人間じゃない。

 わたしは、施す側の人間になったんだ。


 下足げそくばこ近くの玄関げんかんホール。

 冬休み明けにはかく学級がっきゅうからえらばれた「冬休みの自由じゆう研究展けんきゅうてん」の作ひんが展される。

 だから、冬休み前は「がらん」としている。

 お店とかには、玄関近くやホールに、クリスマスツリーがかざられているのに。

 楓池小も、そうだけれど。

 公立小学校には、クリスマスツリーが無い。

 新興しんこう宗教しゅうきょうの子や敬虔けいけんぶっ教徒・神道しんとうの子に、配慮していていない。

 でも。

 子どもの、「今日で学校が終わる!明日から冬休み!クリスマス!お正月しょうがつ!」の足り。

 これだけは、誰にもじゃ魔されることも、配慮も無し。


 今度のクリスマスイブには作田君とお出かけする。

 デートでは無い。

 そして、皆にも内緒ないしょ

 十二月二十四日よっかの朝五時三十分じゅっぷん、それぞれのいえにタクシーのげい車が来ることになっている。

 作田家と鈴木家の家の前。

 作田君は未来みらい改変かいへんそなえて。

 そして、わたしは自分の出来ることを準備じゅんびする。

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