07 転校した子はどこへ?(組石市立楓池小学校三年一組鈴木 縁視点)

 キキこと、ひがし木目もくめしょう三年さんねん水上みずかみ 利々ききなかふかくなった。

 まあ、王寺おうじさんたちや錠前じょうまえさんも一緒いっしょはなしはいってるから、ガヤガヤしゃべっているかんじ。

 学校がっこうちがうと、なにはなしていかわからなかったけれど。

 とくに、共通きょうつうする「魔術まじゅつ勉強べんきょう」のはなしがることもかった。


 キキは木目の王こく四階よんかいの東側窓がわまどからえる、「ブルーツリータワー」の二十にじゅうきゅう階にんでいる。

 錠前さんがこっそり、「組石くみいし市長しちょうが住んでいる中央ちゅうおうえきのマンションと同系列どうけいれつだよ」とおしえてくれた。

 中央のあっちも、警備けいび万全ばんぜんだけれど、「おくション」なのはあっちだけ。キキの住むマンションはすこげて販売はんざいされていたそうだ。

 でも、どこのタワマンでも、エレベーターが混雑こんざつする時間じかんたいがあるし、コンビニへくのも大変たいへん

 中がく受験じゅけん戦争せんそう徐々じょじょはじまる前のせいくらいには、両親りょうしん一戸いっこてに予定よていらしい。もちろん、小学校もてん校。じゅくも転塾する必要ひつようがあるが。

 キキはそもそも、中学からはりょうのある女子じょし校をねらっているので。おや勝手かってがっている「新天しんてん」に興味きょうみが無いらしい。

「どうせ、またらないからって、マンションに引っ越すだろうし」と、自分じぶんの親のことを「きのないどもみたい」とか「しょう」とひょうしていた。


「へー、えにしはイケ小の放課ほうかどうにいたんだ。

 だから、木目の王国初日しょにちでも、態度たいどがデカかったんだね」

「そうなの……って、ちょっと、って、王寺さん。

 わたしのこころアリのようにちいさくて、繊細せんさいだよ」

「いやいや。

 縁の心が蟻なわけ無い。ゾウくらい、あるよね?」と王寺さんがルナや阿口あぐちさんに同意どういもとめる。


「でも、まあ、学校でやってる放課後学童はいち・二年生しか利用りよう出来できないんだよね。

 でも、三年になったのに。引っ越しさきが子どものお留守るすばん禁止きんしのマンションで、こまってさー」

「あー。

 はいって後悔こうかいする『子そだてにやさしいヴァーミリオン』でしょ?

 きょ年は一年、木目の王国が混ん《こ》でたの。

 ヴァーミリオンが組石市ないに、何棟なんとう分譲ぶんじょうしてさ。そして、留守番出来ない子どもがはん強制きょうせいで、木目の王国にてられて。

 でも、ほとんどが間おむかえでしょ?

 親もいちいち、木目駅で下車げしゃして、木目の王国にお迎えくのが面倒めんどうになったんだよ」

「途中下車?

 しゅ要な最寄もより駅に夜間がた学童保育ほいく、無いの?」

認可にんかおおくて、料金りょうきんたかい。木目の王国なら、公社こうしゃ運営うんえいだから、認可学童料金で、割安わりやす

 わたしたち女子はほぼほぼ、木目駅最寄り小学校から来てるけど。だん子は、週末しゅうまつとか、三連休れんきゅうとか、夏休なつやすみとかの、組石市がいからのほーとステイ利用も多いよ」

 それぞれのいえによって、利用する事情じじょうはさまざま。


「ヴァーミリオンに住んでた子は引っ越し先を見つけて、すぐかよわなくなった子多かったなー。

 引っ越せない子もいるけれど。今年ことしはるからは、無認可にあずけられる子がえたみたい」

 キキは四階の窓から見えるランタンウェイ木目駅を指差ゆびさした。

「ランタンウェイの沿線えんせんつきあかり地区ちくも、ベッドタウン開発かいはつでさ。あたらしい小学校も出来たし。

 子ども食堂しょくどうとか、塾、送迎そうげおき放課後デイサービス施設しせつ開所かいしょしてるよね」

 夜間のライトアップとちがって、洗車せんしゃわったミニゴンドラ車りょうあさくう散歩さんぽによって、ひかかがやいている。


「縁が引っ越したのって、夏休みけ?」

「うん。夏休みのわりころ

 引っ越しって本当ほんとういやだよ。れないし、なん全部ぜんぶ上手うまくいかなくてさ。

 そうそう。

 三がつまで学童でときどき会ってた子も引っ越したから、小学校で見なくなったのかな?」

「それ、あるよー。

 ヴァーミリオンのマンションもそうだけれど。

 月明地区の新築しんちくがのきなみ完成かんせいして来て、子家庭かていがめちゃくちゃ移住いじゅうしやすくなってるんだって。

 みさきさんの通っていたバレエ教室きょうしつも、生徒数とすうっちゃって閉鎖しちゃうはずだったけど。ギリギリでおおきなバレエ教室のエコール・ドゥ・バレエ・ドゥ・クミイシに吸収きゅうしゅうされてた。

 岬さんは大手おおてのエコールがいやで、小規模きぼ教室にうつったのに。

 エコールは服装ふくそうとか、かみ型とか、礼儀れいぎ作法さほうとか、うるさいんだって。

 でも、月明地区は塾以外のならごとの教室がまだ無くて、もとの教室通っている子が多いはず」

 窓ながめながら喋っているあいだに。

 王寺さんたちは作田さくたくんへ「おはよう!」といに行きたいのか。わたしたちより先に、二階へりてしまった。

 東木目小の女子も、王寺さんたちをやかしに、一緒いっしょに下りてしまった。



「ちなみに、廊下ろうかからぬすきしている、小ろくかねさんは。

 迷声めいせいに通っている子、らないかな?」

「あー、そこの迷声のことなら。

 イタ君って男子がくわしいよ。

 きょ年、五年生になってからは、木目の王国をほぼ利用しなくなっちゃったけど。

 今も迷声と、塾がよいを両りつしてるはずだから」

「イタ君が?

 そうなの?」

 キキが目をキラキラさせる。

「今、中二なんだけど。市場いちば 秋葉あきはって、男子。かん内で魔術をいっぱい使つかって、トラブルメイカーがいたの。

 小学校六年になっても、親に預けられててさ。

 同学年の利用しゃが減っちゃって、てい学年を魔術でからかってたんだ。

 そんなとき、イタ君がちいさい子たちを、よくかばってくれた」

 キキはすこさびしそうなかおをして、通信つうしん端末たんまつのこった、写真しゃしんデータを見せてくれた。

 あっ、昨日きのうの放課後、駅前広場ひろばですれ違った、塾通いのおとこの子じゃん。

 金子さんとお喋りしてたよな……。

「ここではイタ君にはなしけないから……金子さんなら、連絡れんらく先知ってるよね?

 イタ君に聞いてみて」

OKオーケー~」


 金子さんが通信端末を操作そうさして、イタ君に電話でんわする。

「あー、もしもしイタ君?」

 <なに

 これから、朝食ちょうしょくなんだけど>

 金子さんの端末スピーカーから、昨日と同じこえが聞こえて来る。

「どうせ、朝食きで二度するつもりでしょ?

 迷声のかえりに、tsundeツンデのバーガーショップに居座いすわって、寝不足ぶそくなのはわかってるー」

 <あのなー>

「イケ小の五年生で。転校しちゃって。

 迷声もめるちゃったんだって。

 心たりの子、教えてよ」

 <……心当たりはある。

 それに、金子もよく知ってるだろ?

 ……アイツは、年のころに転校してるし。

 でも、あんま、かかわりたくないんだ。

 わるいけど、パス>

「木目の王国の子がさ。きゅうにいなくなっちゃった子に、いたいんだって」

 <だから?>

「アンタが迷声に通って、魔術のいしずえ矯正きょうせいしようとしているの、知ってるんだからね。

 アンタ、うらないが得意とくいでしょ」

 <国家こっか資格しかくが無いのに、占ったらつかまるの!

 おれほかの魔術をのばしていくってめたから!

 あと。

 俺には『大板おおいた じゅん』って名前なまえがちゃんとあんの!

 へんな名前で呼ぶなよ!>

 ブチッ。

 ノイズまじりで、電話がれた。

「ごめん、縁ー。

 やくてなかったー」

「いえ……あの、ありがとうございます」

「そんなー、他人たにん行儀ぎょうぎー。

 やー、めー、てー、よー」

 金子さんにギューッときしめられて、くるしかったけれど。

 何も、進展しんてんは無いけれど。

 でも、それを作田君につたえれば、良いよね?



 ……そんなわけ、無い。

 作田君は全然ぜんぜんあきらめてなかった。

 朝食後、そく退たい館。

 わたしも、作田君にひだりくびを引っぱられて、ついて行くしか無かった。


 あわ水色みずいろ外壁がいへきに、黄金おうごんの「めい」と「せい」。このおおきな漢字かんじブロックが正面しょうめん玄関げんかんうえりつけてある。

 公社の名前も、「迷」だけれど。

「迷」って漢字には、良い意味が無い。


 みちまよう。

 ほかひと迷惑めいわくをかける。

 迷信めいしん

 解決かいけつけん迷宮めいきゅうり。


 ランドセルを背負せおっているから、このままっすぐかえでいけ小へとう校しなくちゃいけない。

 でも……。

「あっ、おはようございます!!」

 積木つみきどおりの歩道ほどう掃除そうじをしているオレンジ色のジャンパーをた人に、いきなり作田君が話しかけて。派手はでなジャンパーの人がけ寄ってる。

「おはよう。にゅう希望きぼうかな?」

「いえ!」

「おっ、あっさりだなー」

鈴木すずきあとたのむ!」

 作田君は知らない大人おとなに話しかけて、緊張きんちょうしたみたい。あとは全部、わたしにおまかせするみたい。

「転校した子の行方ゆくえさがしています。

 個人こじん情報じょうほう問題もんだいで内しょなのはわかってるんです。

 今朝けさも、こちらに通っている大板君から話を聞こうとして、『かかわりたくない』って。

 五年のふねさんとおなじ、楓池小の三年の鈴木です」

 わたしがペコペコあたまげるので、作田君もペコペコお辞儀じぎをする。

 ジャンパーの人は、一瞬いっしゅんこわい顔をしたけれど。

 すぐ営業えいぎょうスマイルをつくって、わたしたちに笑顔えがお対応たいおうしてくれる。

「ん?

 楓池小だった小船さんは転校して、木目駅前の迷声に通いづらいから……おっと、駄目だめだよ。

 個人情報だからね。

 辞めた子でも、情報開示かいじは駄目なんだ。あっ、迷声を辞めたことも個人情報だから。

 ぼくかしちゃったことは内緒にしてね」

「ジャンパーのおじさん。やっぱり、楓池小から転校したんですね?」

「お、おじさん?

 僕、ま、まだだい学生アルバイト講師こうしなんだ。

 群青(ぐんせい)大学魔術学部に通っている、万堂(ばんどう)。

 君たち、イケ小でしょ?

 五年生の教室をかたぱしからたずねればわかるんじゃない?」

「校そくで、無理むりです。他の学年の教室、廊下は行っちゃいけないんです」

「おお。

 二人ふたりとも、学校方針ほうしんまもって、えらいね。

 でも。

 あんまり、小船さんに関わらないほうが良いよー」

 オレンジジャンパーのバイトさんは、わたしたちと線が合うように、こしをかがめて、地面じめんひざをついた。

「どうしてですか?」

 バイトさんはずっと、地面に両手・両ひざをついて、顔だけわたしたちに向けて、見上げるような姿勢しせい

「去年、小船さんが迷声を辞める辞めないでめているあいだ

 迷声の窓、バッキバキにられたんだ。投石とうせきとかじゃなくて、もうフルスイングな攻撃性こうげきせい魔術でね。

 窓わくしかのこって無くて、大変だったよ。

 まあ、窓を割ったのは、小船さんの身内みうちだろうねー。

 小船さんが辞めてから、一切いっさい被害ひがいが無いもん」


 ざわり。

 ぞわり。


 わたしも地面に手をつく。

 っていられない。

 こわいい。

 何、この感覚かんかく



 ブツブツ、誰かが不気ぶき味な呪文じゅもんとなえている。

「……どうした?」

「……何か、ものすごい魔術の気配けはいがする。

 ……のせいかな?」











「おい、今、登校時間だぞ!」











 きざし えぶりでい

だれだい?

 知ってる子?」

 兆部 毎日。

 何で、ここにいるの?

 まさか、あさから、ずっとせされていた?


 わたしがはしりだそうとすると。

 バイトさんは作田君のうでとわたしの腕をつかんで、あわてて、迷声のしょ面玄関のドアガラスをすりける。

 自どうドアはまだ、うえしたにそれぞれついている鍵穴かぎあな施錠せじょうされていて、うごいていない。

 咄嗟とっさの魔術によって、わたしたち三人は兆部の両手それぞれに宿やどった、禍々まがまがしいかたまりから少しははなれることが出来た。

「何で、べつのクラスの男子と一緒なんだよ!」

 ドアガラスしにさけんでいる。

まえ!」

 作田君はあまりのぼう大な待機たいき魔術にあてられて、気絶きぜつしている。


きみたちの同級どうきゅう生かもしれないけれど。

 その待機魔術は駄目だよ」

 迷声は魔術学しゅう塾。警報装置そうちがすぐに動して、警さつ消防しょうぼうに自動つう報になる。


 <ピロンピロンピロンピロン。

 玄関前で、異常いじょう戦闘せんとう魔術を感知かんちしました。

 ただちに、館内のセーフルームへ避難ひなんしてください。

 かえします……>


 自動で誘導ゆうどう案内あんないおん声がながつづける。

 でも、わたしたち子ども二人、大人一人ひとりたいして、ガラスドアのすり抜け魔術を使った。つつ内の魔すいれているし、たい内魔水も枯渇こかつ

 バイトさんも、目まいでたおれそう。

 でも、何かドアの内側で操作を続ける。


 ガシャーンッ。

しゅ動で玄関のシャッターを下ろして、ロックした。

 結界けっかい大丈夫だいじょうぶ

 ……もう、あの子は入って来れないよ。

 なるべく、かべから離れなさい!」

 バイトさんが作田君とわたしにおおいかぶさるように、たおれた。






 バンッ!!!!!


 キーーーーーーーーーーンッ。






 耳鳴みみなりとは別に。

 そとおとが、こえが何となく、聞こえて来る。

詠唱えいしょうがえし?」

「何あれ?

 ……たすける?」

「小学校に連絡してあげなくて良いの?」

「じゃあ、貴方あなたが連絡したら?」

 外の声にざって、サイレンが聞こえる。


 迷声の先生が作田君とわたしをいそいで、ビルのなかに引っ張ってくれたおかげで。

 わたしたちは、迷公社がる結界の中に入ることが出来た。

「結界をやぶれるのは、大人の魔術師だけなんだけどね。

 外壁げいへきこう事をしているぎょう者はあのときいなかった……」

 バイトさんはニッコリわらって、わたしたちの上から、離れた。

「すごいね、あの男の子。

 ……張りなおしたばかりの結界がもうボロボロだ。

 こんなに破れるのは市場 秋葉君、くらいじゃないかな……いや、市場君でも、無理か」


「あ」

「何か思い出した?

 小船のことか?」

 作田君はわたしの右肩みぎかたに手をく。

 グシャッ。

 つめたくて、鉄臭てつうくさい、みずっぽい感しょく

 作田君の左手はだった。

「ううん。

 市場 秋葉。

 あの怖い人のお父さん、わたしの担任たんにん先生せんせいだ。

 あっ、おなみょう字で他人たにんか。親戚しんせきかな」

「そんなこと、どうでも良いだろ!

 ……鈴木、ごめん。

 うごくな。

 御前も、すごい、だ」


 そうなのかな?

 でも。あたま、両手、おなか、両あし赤黒あかぐろいペンキのプールに入ったみたい。

救急きゅうきゅう車も来てくれるって。

 今日きょうは二人とも、学校をお休みしてね。

 僕も、駄目だ―」

「バイトさんも、血がドパドパ出てるよ!」

 作田君が悲鳴ひめいを上げたちょく後。

 わたしは急にねむくなってしまった。


 ◇◇◇


 <日本にっぽんみんみなさん、おはようございます。

 こちらは内閣府ないかくふこう報室です。

 本日ほんじつ、十月一日ついたちから『あきの魔術づつ一斉いっせいけんげっ間』が始まります。

 まずはお手もとあん全検定証ていしょう期限きげんかく認、異常自動診断しんだん履歴りれきの確認をおねがいします。

 安しん安全な魔術社かいを守りましょう。

 繰り返します。

 日本国民の皆さん……>

 メロディーエアシップが「内閣府広報室ソング」をながしながら、「秋の一斉点検月間」のお知らせを続けている。

 安せいが必要な患者かんじゃのいる医療いりょう施設や、魔術の基礎きそ指導しどうしている教育施設などの上空じょうくうけて、旋回せんかい。別の方向ほうこうんでいく。

 小さな飛行船を、ほんの少しの間目でうことは出来たけれど。

 やっぱり、貧血ひんけつによる意しきなみひどい。

 きゅう食のあとの急な眠気みたいに、いきなりからだのスイッチが切れる感じがする。

 ただのひる寝なら良いけれど。

 わたしの場合ばあい、半にち、一日、三日みっかは寝てしまう。


 おとうさんとおかあさんは、平日へいじつ毎日まいにち仕事しごとがえりに病院びょういんへ寄ってくれる。

 でも、お父さんは大学病院に慣れていなくて、小児しょうにICUアイシーユーもたどりけなかったし。小児とうに行きたいのに、消化器……だったかな?胃とか、腸の病気の人たちがいる病棟へ行っちゃった。

 お母さんいわく、お父さんは「迷いやすい人」なんだって。


 今朝は、とっても頭がスッキリしている。

「ごめんね。

 強制覚醒かくせいしたせいで、心臓しんぞうがバクバクしたり、頭がいたくなったりするかもしれないの」

 看護かんご師さんが注射ちゅうしゃばりはこの中に捨てながら、わたしに向かって、あやまっている。

 何か、注射をたれたみたい。


「……です。

 あり

 組石警察はん社会犯罪はんざい対策たいさくの有賀 ことです。

 毎日、同じ質問しつもんをして、ごめんなさいね。

 でも、貴方あなたはもう喋れるはずなの。

 おねがい、協力きょうりょくして。

 さい後まで、きていてね」

「……な、に、を?」

 気がつくと、有賀さんの他に五人ものふく警察官が警察手ちょう提示ていじしていて。わたしが寝ていたベッドをかこんでいた。

 わたしの手首に手錠は無いし、犯罪者というより、被害者・目撃もくげき者としての事情聴取だじょうちょうしゅろう。

 有賀さんが来てくれるのに、毎度、貧血で意識をうしなっていて、もうし訳無いことをしていた。


「貴方、せん月、しゅう撃されたの。

 何かおぼえている?」

「……ばかみたいな、デタラメなじゅもん」

内容ないようを教えてくれるかな?

 貴方は、風属かぜぞく性の魔術がとく意。

 風属性魔術が得意な子に多いの。

 詠唱呪文を聞きのがさないって特徴とくちょうがあるのよ」

ける?」


 でも、くるま椅子いすちかくにいた作田君が声をあらげた。

「待って、俺が書くよ。

 俺が無理矢むりや理、きこんだんだから!

 それに!

 俺の方が風属性魔術、すごいから!」

 作田君がわたしを庇うように、けい事さんからかみとペンをけ取って、スラスラ書き始める。


 てんごくからはずれたはしご

 じごくへのおおあな

 こどもがしぬおうだんほどう

 おとながしぬせんじょう

 くまのつめあと

 いぬのかみあと

 ねこめがぎらり

 ねずみのはががちり

 ふくれるかえる

 やせるにわとり

 てのなかにおさまらない

 めをあわせてはいけない

 まわれまわれ

 かぜもひかりもつらぬいて

 たいようがおちるとき

 せかいにひるとよるがやってくる


 あの日、アイツが呪文をブツブツ唱えていた。

 もちろん、作田君のほねは、たてけるようにれていない。

 作田君は風属性の魔術よりも、未来みらい改変かいへんが得意なのに。未来を変えなかった。

 だから、未来は何も変わっていない。

 わたしは死ななかったし、作田君も死ななかった。

 でも。

 あのデタラメな、学習発表はっぴょう会の台詞せりふわせた感じの呪文が。今も、わすれられない。

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