06 パパかもしれない(組石市立楓池小学校三年二組作田 温視点)

 あたたかい。

 その漢字かんじひと字、おん

 それで、「ほっと」。

 漢字の温にはそんな意味いみいのに。

 温を英語えいごえると、HOTホット。そのHOTのみの「ほっと」から「ほっとする」って意味も勝手かってにつけくわえられている。

 おれ名前なまえは、作田さくた ほっと

 そして、俺は女子じょしにモテる。

 でも、俺はこのかおとか性格せいかくきらいだ。

 保育ほいくえん時代じだい、女子が俺をうばって、「戦国せんごく時代」したときなんか。シングルマザーのママは「あっちの遺伝いでんコピペ」っていきをついた。



 サイレンはっていないけれど、赤色せきしょくとうがチカチカえた。

 三階さんかいまどから見た、テント小児しょうに病院びょういん立体りったい駐車ちゅうしゃじょうに。パトカ―が二台にだいも駐車した。

 駐しないってことは、対応たいおうちょうかんかかるから。そして、パトカーの車ないだれのこらないからじゃないかな。

 なんかあの病院で、トラブルがあったのかな……。


 ちなみに。木目もくめ王国おうこくのトラブルは、鈴木すずききっかけで、一件いっけん落着らくちゃく

 年輪小ねんりんしょうねん女子と錠前じょうまえのトラブルを仲裁ちゅうさいしたのは、しんりの鈴木だったこともあって。

 低学ていがく年・こう学年のだん子に風呂ふろ順番じゅんばんゆずったどう学年の男子たちから。「鈴木っておっかないなー」とか、「俺の母親ははおやそっくり」とか、色々いろいろ意見いけんを風呂のあいだもずーっと、はなしかけられていた。

 でも。

 あの可愛かわいい錠前のゲロがまれば、普通ふつうに錠前に話しかけたい男子ばっかりだ。

 鈴木は意がいにも、男子の好感こうかんが、ある意味たかい。


 風呂あがり、る前のみがきをして、テレビをゴロゴロながめていた。

 ふっと、男子宿泊しゅくはく部屋べや雰囲気ふんいきしずかになる。

 ベッドで寝るのにれている子どもがほとんどなのに。一面いちめんめられたしき布団ぶとんで、まとまって雑魚ざこ寝。


 てい学年の子はよる就寝しゅうしんだから、もうそろそろテレビをさなくちゃいけない。

 でも、みんながテレビを一斉いっせいた。


 <スッキリのどしのなつ!>は、先月せんげつまで。

 がつに入って。

 <あきなが~いよるにっよりそう~>

 ナレーションが季節きせつうつろいで、変更へんこうされていた。


 そう。

 旅行りょこう宣伝せんでんとか、ポテチのCMシーエムなんかじゃない。

 テレビのCMがビールのCMだった。

 子どもはこのすうびょう間のCMがどうしようも無く、いたたまれない気ちになる。

 自分じぶんたち子どもはめない。だから、おさけのCMの世界せかいに、子どもはうつらない。映すと、「未成みせい年の飲酒いんしゅ推奨すいしょう」と勘違かんちがいされちゃうからかな。

 余計よけい誤解ごかいは無し。そういう方向性ほうこうせい


 いまは、九月だから、紅葉こうようなんてはじまっていないのに。

 さびしい夕暮ゆうぐれ。

 いえかえひとたちのうし姿すがた

 ライトアップされたけい

 そこへドカーンとかんビール三缶がぶつかりって。そのいきおいで、くちひらいた缶ビールがあわき上げる。

 そのしゅん間、全体ぜんたいかりがひろがる。

「秋っぽい」に、「秋っぽい服装ふくそうの人たち」、「しゅん秋刀魚さんま」、「旬の松茸まつたけ」が映る。


 そして、バラバラだったけれど。

 ほぼ一斉、ためいきをついた。

 まあ、俺たちだって、大人おとなになれば、お酒は飲むだろうけれど。

「『勉強べんきょうともだち』ってガリ勉でも無いし。

 かと言って、パパママも学校がっこうはなしいてくれない。仕事しごとから帰ってると、お酒。

 まず、お酒。

 木目の王国くらい、お酒のCMだって、見たくないよ」

「でも、アニメはもうやってないじゃん。バラエティか、ドラマ。

 ママはどう配信はいしんサイトをサブスクしてるけど」

 低学年男子はパパママびがけない。

 三年になると、「ママ」って口にしただけで、「マザコン」ってわらわれるぞ。

 俺も親のこと、「ママ」って言いそうになって、あせる。


 三年と四年の年子としご木下きのした兄弟きょうだい漫才まんざいのようなけ合いを始める

一日いちにちじゅうビールのCMばっかりだもんなー」

「兄ちゃん、そんなこと無いよー?

 発泡はっぽうしゅ日本にほん酒、うめ酒もやってるよ。ただし、チューハイはCMやらなくてもれるからし!」

いぬあるけばぼうたる」

廊下ろうかを歩けば、焼酎しょうちゅうボトルに当たる」

 男子全員のあたまには、「木下家の廊下に、ねこけペットボトルみにならんだ、焼酎ボトル」が浮かぶ。

父親ちちおやは、つまみも無しにグビグビお酒か、動画かゲームかな。

 まあ、どこの家も冷蔵れいぞうにギンギンの酒はらさないでしょ。

 ジュースよりも、お酒がえてて。

 お子さまなんか、ジュースも最近さいきんってもらえない。

 自分の肝臓かんぞう健康けんこうだからって。子どもになまぬるいじょう温のペットボトルのおちゃばっか飲ませるんだもんなー」

「ママは、今ごろ、インフルエンサーのSNエスエヌSチェックしながら。料理りょうりデリバリーち」

「仕事じゃないの?

 御前おまえ、これから帰れば?」

在宅ざいたくでやるってー」


 皆の話を聞いて、ひがし木目もくめ小三年のばたっちがため息をらす。

 井端っちのおかあさんには会ったことあるけど。

 滅茶苦めちゃく茶仕事が出来るおねえさんみたいにキレイな人。

 美人びじん

 俺の母親なんかとおお違い。

 木目の王国の玄関げんかんったことある。良いにおいだったし、ビールなんか絶対ぜったい飲んでないはず!

「ウチなんか、一番呂に入らせろっていうわりに。お風呂入る時間けずって、ゴロゴロしてる。

 結局けっきょく、ジジが入って、ババはキレて、風呂キャンセル。

 毎日まいにち毎日風呂をあらわすれたことなんて、無いのにさ。結局、入らないんだよ。

 放課ほうか、木目の王国へっすぐ行きたいのに。『風呂掃除そうじ忘れてるから、風呂掃除しに一回いっかい帰って来い』ってババが言うんだよー。

 だから、最近さいきんは忘れないように、あさとう校前にゴシゴシしてるー」

洗濯せんたくゆか掃除はやってくれるんだろ?」

「ババはジジに家事かじロボの設定せっていさせて、あとはロボにおまかせ~」


「木目の王国だと、学校のこと話せるし。

 ほかの学校のことも聞けるし……女子は何で、あんな笑ってるんだ?」

 よん階では、あんなに「一触いっしょく即発そくはつ」の雰囲気だった女子ぜいからは想像そうぞうもつかない。笑いごえが聞こえている。

 まあ、男子は女子部屋のある四階の階だんちかくをウロウロしちゃいけないことになっている。

 なぞだ。

 明日になったら、鈴木に聞いてみるか。

魔術まじゅつ無くても、たのしいよ。

 えボトルタイプの魔すいセットは入学時にわされた。

 でも、三年間持つってうそだよー」

「放課後まで使つかってたら、魔水の消耗しょうもうはげしい。一年も持たなかった!」

「でも、明日あした習熟度しゅうじゅくどべつ講習会こうしゅうかいだから、本当ほんとう徹夜てつやで仕上げなくちゃ」

「夜九時からお布団ふとんかぶってれん習する子もおおいよ」


 そこへぞろぞろ、じゅくかばん背負せおったおぼっちゃんたちが風呂からやって来る。

「……あのおくれて来た子たち、えき前の塾にかよってる子?」

「そうそう。

 あー、御前は今日きょうからなんだっけ?

 俺、楓池小三年の作田。

 御前は塾、行ってないの?」

「行ってない。

 年輪小三年三組のなみ あと

「アイツは、ほとんど、ひがし木目小の受験じゅけんぐみ。東木目小は中学ちゅうがく受験組がおおいからさ。

 放課後、木目の王国にディナーボックスりに来て。

 駅前の塾に行って自習室にこもる。

 塾の講座こうざわったら、とまりにもどって来るんだよ」

 平岡ひらおか先生せんせいいした痕跡こんせきに気づいて、「お弁当べんとうのごはんりょうやすから、ちゃんと買い食いをやめなさい」って注意ちゅういしていた。

 注意された小よん丸越まるこしくんは、「塾仲間なかまでも、わるいと大変たいへんだから」って、飲みかけのジュースをそので、いっ気に飲みった。


「楓池小は、中学受験でげたい子は多くても。合格ごうかくするくらいあたまい子はすくないかな。

 つねあたらしい魔術まじゅつおぼえて、きざし対策たいさく

 ……ん?」

 ふと。

 東木目小のお坊ちゃんたちが布団もかぶらず、防壁ぼうへきのような結界けっかいを自分の布団のまわりにだけって、魔術の練習をし始めた。

 そういえば。年輪小は木目の王国で、全然魔術を練習しないことに気づく。

「並木。

 いやかたになるけど、ごめん。

 年輪小学校は魔術がきじゃない子が多い?」

「さあ。僕、学校へ行ってないから。わかんない。

 おなじ学校の丸越君だよね?

 何かってる?」

「まあ、ぼくのほうが学年一個いっこうえだけど。

 うーん、作田君が言ったような『魔術ぎらい』はちょっとちがう。

 魔術はみんな好きだけど、とく意な子がかなり多い。こころが不安定あんていな子が多くもなく、すくなくも無いから」

「でも、年輪小は転入てんにゅうせいのフォローとケアがすごいじゃん!

 ほら、イケ小からそっちにうつった錠前も。そのフォローを期待きたいしてさ」

「それは特別とくべつな転入生だけ。

 入学式がくしきから年輪にかよっている古参こさん児童じどうには、見きもしない。

 教育きょういく放棄ほうきされてるんだ。

 だから、東木目小の受験組と一緒いっしょに、塾に通わないと、ヤバイよ。

 学級がっきゅう崩壊ほうかいはしていないけれど、転入生のフォローで担任たんにん一杯いっぱいだから。

 だから、そうだね。

 不登校の並木君が学校がわにケアしてもらえないのは、学校に来ない子は学校で手のかからない子だから」

 並木は「そうだねー」とうなづいた。いやな顔もせず、へい気そうな顔。

 きもしないし、定もしない。

 全部ぜんぶあきらめちゃっているような……。

 何だか、んでいる錠前より、こわいかも。


「年輪小は『不登校児童の優先ゆうせん転入受け入れ』と、『さい登校プログラム』がある。

 先生なんか、『不登校児童指導しどうあて』とか、『不登校児童家庭かてい訪問ほうもん手当』とか、『不登校児童の自死相談そうだん手当』とか。

 いっげつで、基本きほんきゅう同額どうがくかそれ以上の手当をもらってるよ」

「でも、どの学年も三組しか無いよね。毎年まいとし月にクラスの増減ぞうげんが無いのに、大丈夫だいじょうぶなの?」

受入うけいれすうが多いのは、四・五・六年生。

 しん三年クラスはなかなか無い。

 五人ごにん以下いか少人数しょうにんずう教室でらしをしないで、三十さんじゅう人教室でふく担任、補助ほじょを増いんして、対応たいおうするほうがさ。

社会しゃかい荒波あらなみの中でかビートばん使つかってのこ訓練くんれんになる』ってはなしだよ」


 そこへ話をぬすきしていた小三男子メンバーがくびかしげ始める。

「あれ?

 担任の先生が錠前さんの家に連日れんじつ家庭訪問してるんじゃないの?」

「でも、錠前さん、木目の王国に来てるよ?

 不登校の並木君も」

「じゃあ、学校の先生は。おやわりに。木目の王国の先生たちと、めん談してるのかな?」

「ピンポンは夕食後のおむかえの親だけでしょ?」

 一階や二階からは、「保護ほごしゃじゃないっぽいこえ」は聞こえない。

 職員のだれも、小包こづつみの配達はいたつ定していないから、ぎょう者も来ていない。


「ううん。錠前さんは、担任の岸谷きしたに先生と一緒に来てたはずだよ。

 僕、駅前広場ひろばですれちがったもん。

 木目の王国に宿泊する同伴どうはん。木目の王国に宿泊した翌朝よくあさは、木目の王国から登校同伴。

 それが家庭訪問手当の条件じょうけんになるんだ」

 丸越君は塾の宿だいをやりつつ、今日の放課後の様子ようすおしえてくれた。

「まあ。

 錠前が元気になるってことはさ、楓池小にまた転校して戻るってことだから。

 手当がらされないような努力どりょくはしてるはずだよ。

 だから、もし僕等受験組が塾に行っているあいだ。新入りの鈴木さんって子が錠前さんと王寺おうじさんたちのあらそいを解決かいけつしたのなら。登下校同伴の必要ひつようが無くなって、手当は減らされるね」


 不登校の子向けのフリースクールじゃ、じゅ進度しんどいつけない。不登校問題を解決する気も無い。

 保護者のかゆいところに手がとどかないんだ

 教科書かしょ通りに勉強をおしえる、不登校児童対応たいおう校の設置せっちすい進されているからね。

 でも、先生たちはなるべくらくがしたい。

 ここでも、保護者のかゆところに手が届かないまま。

 錠前一人ひとりだけがもん行動こうどうをしているわけじゃ無い。トラブルをおおきく、そして継続けいぞくさせていたのは……じつは担任の先生だったなんて……いやなもののかんがえ方だ。


「年輪小はひとつ一つの教室がひろめにつくられていて、閉塞感へいそくかんが無いんだ。

 よく、たいかんやグラウンドで発表はっぴょうさせるしね。

 いろいろなけい験をさせてあげて、上手くストレスコントロール出来るように成長せいちゅ見守みまもる。

 並木君。

 でも、君は人間にんげんしんで不登校なんじゃ無いんだろ?

 勉強もしないで、いえなにしてるの?

 ゲーム依存いぞん?」

 丸越君は並木に、「だらしのない家庭環境かんきょうそだっている」と見くだしたい方をきゅうにした。


「ううん。

 僕のおとうと、気管支かんしわるくて、小児しょうに喘息ぜんそく持ちでさ。

 僕がいると、弟の病状びょうじょうが悪くなるんだ。

 家ぞくりょ行なんて、宿泊さき寝具しんぐ発作ほっさきちゃうから、けない。

 転治療ちりょうかんがえててさ。

 毎しゅう金曜きんようの夕がたから、弟れて、ショートステイのたびに行ってるんだ」

すの?」

「弟の小がっ校入学先をめるために、ふゆ前には決着けっちゃくがつく」


くう気のキレイなところへげるんだ」


「あんまり、木目の王国にはなが居座いすわらないから。

 引っ越すまでの間、よろしく」



 とは、言っていたけれど。

 よる十時ころ

 通信つうしん端末たんまつを持って、並木君が男子トイレにやって来た。

「だから、引っ越したくない」

 <誰がくる君の面倒めんどうを見るの?

 おかあさんは日中にっちゅうはたらくから、アンタが学校をやすんで、来未君のかん病をやるのよ。

 当然とうぜんでしょ。

 組石くみいしみたいに、病児保育しょも無いんだから>

「学校へ行きたい」


 ガチャッ。

 男子トイレの個室には、制服せいふく警察官けいさつかん二人ふたり居て。なかからた。

「並木 羽後君、ちょっと良いかな?」

「……」

「弟さん、あじさい病児保育園のあずかり希望きぼうしたこと無いんだよね。

 福門ふくかぞ院長いんちょうが聞きたいことがあるって」


 そして。

 木目の王国の男子トイレに。三にんおなじ顔がやって来た。

!?」

 並木よりも、俺の方がおどろいた。

「いやいや、分身ぶんしん魔術が得意なんだ。十二人分まで医師いし免許めんきょ持ってるよ」


「何ですか?」

「お者さんの僕はねー。

 未成年のあにに看病をするよう強せいしていないし。

 お母さんがお仕事を休めないなら、病児保育をすすめる。

 羽後君。

 いじめられていないのに、不登校なのはほん当かい?」

 電話の内容ないようを聞かれているけれど。

 並木は否定もこう定もしない。

「弟さんは保育園にも、幼稚ようち園にも入っていない。

 お母さんはごはんを作ってくれる?」

「……」

ものは?」

「夕方、買いに行ってます」

きみが買いに行ってるよね。

 学校へ行く時間から帰る時間まで、外出がいしゅつひかえているんだね。

 そして、お母さんが病気の来未君にベタベタしている間、家の掃除をしている?」

「……」

「おとうさんは休みの日、手つだってくれる?」

「パパ、パチンコに行っちゃうから。

 でも、パチンコに行ってくれてた方がママに怒鳴どなられないから」

「ねえ、羽後君。

 たたかれなくても、られなくても。

 無理むりなことはしなくて良いんだよ。

 羽後君は小学校に通って、勉強して、給食を食べて、皆とあそぶことが出来るんだ。小学校に通うことをじゃ魔する大人は駄目だめなんだ」


「……」

「……」

「……」


「来未君は病児福施設しせつへ入しょすべきだね。

 そして、羽後君は児童福祉施設か、グループホームか、さと親さんの家のどれかに入って、最寄もよりの学校に通うか。

 お父さんとお母さんをかばうなら、来未君への不適切てきせつな家庭ない看護の共謀罪きょうぼうざいになる。君は、大人とは別に、悪いことをした子どものための『社会学校』に入らなくちゃいけなくなる」

 電話の向こうで、並木君のお母さんがギャーギャーわめいている。

 それでも、分身してる医者三人が声をそろえて警こくする。

「「「羽後君と来未君のお母さんは、羽後君が魔術教育を受ける権利けんり侵害しんがいして、羽後君の魔術発達のおくれを放しました。

 たとえ君にはどうしようも無くても、日本魔術社会において、自分を大切にしない魔術師見ならいはゆるされない」」」



 <無料ただで利用出来るってそういうカラクリだったの!

 卑怯ひきょうでしょうが!!!>

 並木君のお母さんは、転地療養りょうよう候補こうほ地で、来未君の面前めんぜん逮捕たいほされた。

 来未君も同時に、きちんと保護された。

 六時間も利用しないまま、退たい館するのはめずらしい。でも、ここに預けることにした親が警察につかまった時てんで、並木君は「保護者所在しょざいめい音信おんしんつう」で家庭相談局預かりになる。

 ランドセルだけ背負って、並木が警察官にわれて、トボトボそとへ向かって、あるいている。


 さわぎに気づいた男子宿泊組の連中れんちゅう廊下ろうかに出て来るも。

 皆は制服警官の紺色こんいろうし姿すがたしか見おくれなかった。

 米里先生が「ちゃんと説明するから、宿泊部屋に戻って、戻ってー」とおえかけ。


 部屋に戻ると。

 爆睡している子たちをおこさないように、米里先生が今までの並木君事情を説明してくれた。

 そして、代表して、丸越君が小声で質問した。

米里よねざと先生。並木のお父さんも逮捕されたの?」

「ううん。羽後君のお父さん、お父さんじゃ無かったんだって。

 羽後君はときどき面会してたらしいけれど。

 お母さんが『お父さんは単身たんしん赴任ふにん中』ってうそついてたんだって。」

「ええ?」

「どういうこと?」

「羽後君の家、母子ぼし家庭でね。

 羽後君のお父さんは小船こふねさんって違う家名かめいだったんだって。

 去年きょねん、その小船さんって人、このちかくにんでいたんだって。

 不りん発覚はっかくして。

 羽後君のお母さん、慰謝いしゃりょうはらわなくちゃいけなくて、大変なんだって」

 おいおい。

 米里先生、そこまで、子どもたちに話しちゃって良いのか?

 まあ、保護者にせつ明するのが面どうだから、「訳有わけあもと利用者とはもうかかわらないように」ってねんしたいんだろう。

 ……小船。

 今、小船って、言った?


「その小船さん、今どこにいるの?」

「家を引っ越ししたって話だよ。

 さあ、おやすみの時間だからね」

「羽後君と来未君、同じ施設は無理なの?」

「警察から聞いたけれど、来未君のパパは来未君をき取る話が並行へいこうしてすすんでいるんだ。

 だから、来未君の入所間はみじかくてむはず。

 羽後君パパは……不明なんだって」

「誰の子かわからないの?

 小船さんって、人じゃ?」

「ほらほら。子どもは寝なくちゃ駄目だよ」と米里先生にはぐらかされて、男子宿泊室に押しこめられた。



 でも。

 俺は不安になった。

 だって、俺だって、ちち親がいないし、ママは未婚みこんのまま。

 一度いちどけっ婚したことが無いのに、俺を一生いっしょう懸命けんめい育ててくれている。

「ママ」

 <何?

 また、トイレから、コソコソ電話?

 寝る時間に電話して来て、どうしたの?>

「……僕のさ、パパ」

 <その話はしない約束。

 ママ、さい婚が近いの。

 温の本当のパパとは、無理>


「小船って人?」


 <……誰から聞いたの?

 ねえ、木目の王国で、何か言われた?>

「小船って人。僕がまれたとき、結婚してた?

 だから、ママ、小船と結婚出来無かったの?

 僕におねえちゃんがいるの?それとも、おにいちゃん?おとうと

 いないの?」

 <いきなり聞かれても……>

「小船 せい

 楓池小の放課後の学童のとき、OGオージーの中にその人いたんだ。

 ときどき遊んでもらってた!」


 もし、もし。

 小船 青良と、異母いぼ姉弟きょうだいなら。

 ほねれば、良い。

 自分の骨をかてに、俺は未来みらいえられる。

 日本でも、未来改変かいへんとか、にん意の未来を引きせる魔術はタブーされている。でも、俺は出来る。

 かええてやる。

 全部、変えてやる。

 変な感情がフツフツいて来る。


 <ホットちゃんのパパは……顔が良いだけじゃなくて、きちんとした人。

 パパとママね、結婚をはん対されたの。

 パパのパパに反対されて、わかれるしか無かった>

「パパのこと嫌いになった?」

 <うん。

 ママを守ってくれないし、パパはグランパの言いなりだった。

 だから、結婚してしいって言われてもことわった。

 ホットちゃん、いたい?>

「どんな人かは知りたい」

 <ママはね。ホットちゃんのことを……気づかえないパパとは、関わらせたくない。

 ……ホットちゃんを殺そうとした人たちだから>


しゅ術で俺をませないようにしたがったってこと?

 ……三年だから、知ってるよ」


 <ホットちゃん。

 でも、ホットちゃんのパパは小船さんじゃない>

かった。俺の初恋はつこいの人がおねえさんなのかとおもっちゃった。

 ……って良くないよ。

 小船さん、引っ越しちゃって、校にいないんだ。

 今日はもうおそいし、すぐには情報が入って来ないけど。

 ママもさ。

 小船さんの話、ママ友から聞いたら、っ先に教えてね」

 ママは何かを言いかけて、やめたようだった。

 そして、おたがいに「おやすみ」と声をかけ合って、電話を切った。


 良し。

 骨を無駄に折らずに済んだ。

 まあ、そもそも、無やみに折れない。

 俺が魔術を使っても、ありもしない未来「作田 温の父親は小船 青良の父」をわざわざ作って、それをさらにすことになる。だから、俺の未来改変魔術は無駄な骨折りにはストッパーが働く。

 でも、そのストッパーが結構けっこう、魔水を食う。つつの中の魔水も、体内魔水も、大量たいりょう消耗しょうもうするから。

 ママが教えてくれて、良かった。

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