05 火中の栗を拾って(組石市立楓池小学校三年一組鈴木 縁視点)

 四階よんかい女子じょし浴場よくじょうでのにゅう

 階の第一だいいち談話室だんわしつされた。


 厨房ちゅうぼうからは<ピーピーピーッ>というおと

 厨房の「返却へんきゃくぐち」まで、ども一人ひとり一人がはこんだ食器しょっきを。厨房スタッフにってもらって。あらいのあと食洗しょくせん器のなかはいっていた。

 おそらく、すべての食器を洗いわったんだろう。


 平岡ひらおか先生せんせい米里よねざと先生、くま先生にうながされて。年輪ねんりんしょう三年さんねん女子四人よにんがわたしにちかづいてる。

鈴木すずきさん。

 四階でまえに、いかな?」

 あっ、階だんのときの子で、一ばん最後尾さいこうびにいた子。ほかの三人をまとめているグループのリーダー。


「……ゆう食前。階段で、ごめん。

 べつに、鈴木さんをわらったわけじゃないから」

えにしいよ」

「わたしは年輪小三年のおう ひかる

 あれ?

 王寺さんのうしろにいる子は、あのにいなかったよね?

「この子は、親友しんゆう鴨川かもがわ なないろ毎週まいしゅう水曜日すいようび習字しゅうじ教室きょうしつで、夕方ゆうがた五時ごじはんごろ合流ごうりゅうするの」

 テキパキしている王寺さんにくらべて、「王寺さんにおまかせ」スタイルというか。ひと見知みしりか、はなすのが苦手にがてなのか。

 とにかく、姿勢しせいいポニーテイルの王寺さんの背中せなかかくれてちぢこまっているのがショートヘアの鴨川さん。あっ、チラッとかおが見えたとおもったら、したまである、前髪まえがみ隙間すきまからウルウルしたひだりが見えた。

「ルナはみさき 

 二年までバレエ教室にかよってたけど。親が仕事しごと関係かんけいで、毎にちの習い事の送迎そうげいむずかしくなって。三月さんがつから、オーと一緒いっしょのここにお世話せわになってるよ」

 岬さんも、一発いっぱつで、どういう性格せいかくか、わかりやすい。「わたし」とか、「ウチ」とかわない子。

 自分じぶんのことを自分の名前なまえんじゃう子か……。

 親があたえる洋服ようふくかざってニコニコしているお人形にんぎょうっぽい錠前じょうまえさんとはちがう、元気げんきいっぱいで仕草しぐさ可愛かわいい子。

 クラシックバレエをやっていたから、王寺さんのように、この子も姿勢が良い。

 かみみにしていたけれど、お風呂ふろで、三つ編みをほどいちゃった。

 いまは、髪をかわかした後で。あるたびに、ウェーブがかかったながい髪がフワフワれる。


「……ぐち ゆう

 てかさ。

 錠前さん、こっちにないでよ!

 なんで、わたししゃべってると、ってるの!

 ゲロバエ

 たかってくんな!!!」

 嗚呼ああ、阿口さんはなんつねにイライラがおさえられない子かな。でも、王寺さんと一緒にるってことは馬鹿ばかではない、くう気はめる子。ただ、おうちの中では、親も他人たにん悪口わるくちを子どもの前でワーワー言ってるんだろうな。

 悪口が口ぐせでも、親から注意ちゅういされない子。

 この子と直接ちょくせつ話すのはムカムカしているから無理むり

「おねがい」をするかたちで、こちらがした下手にないと、いらぬうらみをいそう。

 ほら。

 ほら。

 わたしと話していたのに。錠前さんがちかづいて来ただけで、かの女にかって「ゲロ縄」って大声おおごえす。

 そして、わたしに「ごめんね」の一言ひとことも無く、もう錠前さんしか眼中がんちゅうにない。


「チグチグ、やめて」

「でも、オー!」

「今、鈴木さんが顔色かおいろえた。

 チグチグ、錠前にイチイチっかからないで。かかわらないってめたでしょ」

「悪いのはゲロ蝿だよ!」

「今は、鈴木さんにあやまる時かん

 チグチグが錠前に反応はんのうするのが悪いのよ。

 この時間は、みんなで鈴木さんと話すって熊手先生とめた」

「……ごめん」

 嗚呼。

 阿口さんはやっと、「シュン」ってなった。


「とにかく、入って来たばかりの縁じゃなくて、問題もんだいは錠前さんだから。

 月にいきなり年輪小に転校てんこうして来て、ともだちづらされたのがウザかったの。

 きこんじゃって、ごめん。

 でも。

 わたしたちは、錠前がかりじゃないし、つきまとわれて迷惑めいわくしているから、錠前のいたものなんて片付かたづけない。

 錠前。

 友だちじゃないんだから、ちかづいてこないで。はなしかけないで」

 錠前さんが口をひらいたしゅん間、平岡先生も熊手先生も「アチャー」という声は出さなかったけれど。

 どうやら、木目もくめの王こく職員しょくいんからも錠前さんにたいして、「友だちじゃない子に、しつこくつきまとわないように」と忠告ちゅうこくしていたのだろう。

 おそらく、もっと具体ぐたいてき説明せつめいけたはずだ。

 たとえ、自分がなんされても。自分で反論はんろんするのではなく、「職員にすぐほう告する」ように言われているだろうに。


「ゲー」

 錠前さんが大きなゲップをした。

 それはそれは、いた後に、あんだけ夕食をおかわりすればね。

 わたしは、まるで貯蔵ちょぞうタンクからの発酵はっこうおんかと思った。

 そう。

 錠前さんは二かい目の嘔吐おうと可能かのう状態じょうたい

 わたしはもう嘔吐ぶつ掃除そうじ面倒めんどうなので、大きな声を出した。


「錠前さん、その場でストップ!

 錠前さんは三うしろにがって!」


「わたしは悪くない!悪口ばかり、言われて!」

「おたがい、誤解ごかいしているところ、かっ手に思いんで妄想もうそうしているところがある。

 とりあえず、お互いにいをけて!

 はい!

 そこのテーブルをはさんで話をしましょう!」



「ごめんんさい。

 皆の邪魔じゃまにならないようにするから」と、テーブルを出すのを手つだってくれた小学五年生の女子たちにペコペコあたまを下げわると。

 第一談話室のすみにあったちいさなテーブルを挟んで、「年輪小三年女子四人ぐみたい「錠前さん」のかたちになるよう、すわってもらう。

 わたしはこの五人がカーペットのゆか着席ちゃくせきするのをって、両者りょうしゃあいだになるようテーブルに手をつきながら、座った。


 テーブルには、落書らくがきも、シールをがしたあとい。

 職員がよくき掃除をしている。

 ピカピカ。


「錠前さんが無闇むやみに年輪小女子に近づくから、年輪小女子がいやな思いをしているよ。

 錠前さんも何か思いつめちゃってる。

 もちろん、王寺さんも、岬さんも、阿口さんも。よわ立場たちばの錠前さんをささえろって大人おとなから言われても、無理ってことわ言葉ことばしかない。

 くわしく、こまかく、話をかせてね。

 何故なぜならば、わたしは錠前さんの友だちでも無いし、王寺さんたちのグループに勧誘かんゆうもされていない。

 たまたま、一度いちどだけ、錠前さんがいたものを掃除しただけ。

 錠前さん。

 わたし、貴方あなたのお掃除係じゃないの。

 ここにとまるのをたのしみにしていたの。

 しょ日から、こんなさわぎにきこまれて、迷惑している。本来ほんらいなら、昨日きのうまでの段階で、こういう利用りよう者間のトラブルは解けつしておくべきでしょう。先生がた

「「「「「……」」」」」


「まず、錠前さん。

 王寺さんから『友だちじゃないから、話しかけないで』って言われて。何か言いたいことある?」

びょう気だから、めないでしい」

「じゃあ、四人の中から代表だいひょうして……。

 王寺さんに聞きます。

 病気の錠前さんを責めてますか?」

「……ほらね、話がかみ合わない。

『友だちになったおぼえは無いから』って理由りゆうも言って、『話しかけないで』ってつよくお願いしても。

『わかったよ。もう、話しかけない』って約束やくそくしてくれないの。

『責めてる』って、きょげんじゃん」

「え?

 友だちになってくれてたよ。

 ひどいよ……うそつきはそっちだよ!」

「はい、錠前さんはわたしからしつ問されていないから、一方いっぽう的に話しかけるのをやめて、王寺さんたちが言いたい言葉ことばとうね」


「王寺さん。

 錠前さんが虚言なのはいつから?」

「転にゅう初日から。

 こっちから自紹介しょうかいもしていないのに、わたしたちのところに来て。

 友だちでも無いのに、『ずっと、友だちでいたい』とかニコニコ言われるし。

 話がつうじなくて、関わりたくない。な子だから。でも、『仲間なかまはずれ』って担任たんにんの先生に、チクるの。

 そもそも、仲間でも友だちでも無いのに。

 先生はさ、『転入せいやさしくしなさい』って適当てきとうなことしか言わない。でも、わたしたちの個人こじんろくに、『いじめをする問題児だいじ』ってきこんでるよ。

 あの先生も、しん用出来ない」


「もう、転入して五かげつ以上いじょうっているのにさ。

 問題があっても、病気理由で、クラスやがっじゅう味方みかたにつけるのが虚言なんだって。

 今みたいに、そうやってきながらさ、『病気だから責めないで』って、話をづらすの。

 だから、いつも、ゲロ病人びょうにんとはまともに話せないの。

 今日きょうは縁が話を聞いてくれて。

 本当にうれしい。

 木目の王国では、平岡先生も弱い子だけの味方。熊手先生まで、錠前さんの味方するんだもん」

 平岡先生もふくめて、ほかの職員が小学生と一緒に、この話し合いをすこはなれたところから見ている。


「では、岬 月南さん。

 王寺さんが今一方的にしゅ張ちょう》している『錠前さんによる、虚言とつきまといこう』について、おな意見いけんですか?」

「もちろん!同じ意見!」

「ルナさんは、王寺さんが話してくれたこと以がいに、錠前さんのことで気づいたてんはありますか?」


「これ、わたしを一方的に責める裁判さいばんなの?」

だまれ、ゲロ病!

 御前おまえのゲロ病なんか、ルナたちはどうでも良いの。

 御前のゲロなんか、もうせっ対に掃除しないし、自分で拭きなよ。

 予ちょうがあってもなくても、雑巾ぞうきんみず魔術まじゅつ使つかって、自分で自分をお世話せわしな!」

「『もう』?

 ルナさんはどこで錠前さんの嘔吐物を片付かたづけましたか?」

「年輪小で、『ゲロ係』ってルナ、皆にクスクス笑われてる。

 木目の王国でも、先生たちはゲロをまないようにジャンプして放置ほうちして。ルナたちに片づけをしつける。ゲロ病は一番呂でスッキリしてさ。

 一度だって、自分で片付けたのを見たこと無い!」


「いやいや、今のはそちらが一方的に言いぶんを押しつけているだけだよ。

 錠前さんは、自分がきらわれる理由がりたいんじゃ無くて」

「平岡先生は話し合いに招待しょうたいしていません。

 後ろへ下がってください」

「でも、裁判だって、弁護べんごにんはん人をまもるでしょう」

じつ認定にんていの場ではありません。

 お互いはらって話して、お互いのしん実をさらけ出して、『としどころ』をさぐっていくだけです」


「先生たち、そこだよー。

 全然ぜんぜん、わかってなーい」

鈍感どんかんー」

 この話し合いをやかしもせずに、見まもっていた女子小学生たちがせいしてくれて。先生たちは錠前さんからも、王寺さんグループからも距離きょりってくれた。


つぎに、阿口さん。

 とてもいやな聞き方になるけれど。出来るだけ、落ちいてこたえてほししい。

 錠前さんの虚言について何かありますか?」

「……四月から、ゲロ蝿の嘘ばかりにまわされて、ごくだった。

 オーとルナ、モカがいなかったら。自分までんで、病んで……えき前ビルからりてた。

 ハエたたつぶせるけど、ゲロ蝿は人間にんげんだから、我慢がまんするしかかった。

 ずっと、つらかった」

「辛かっただけ?

 あさ、学校へ行くとき、具合ぐあいが悪くならなかった?」

「それ言って、大変たいへんだったんだ……」

 イライラはわざと?

 きゅうに、声がふるえだす。

 そうじゃないと、いてしまいそう、かな。

 一生いっしょう懸命けんめいしたくちびるみしめている阿口さん。弱い人にきずつけられたことをみとめることになる。

「見いに、ゲロ蝿がいえまで押しかけて来て、夕食まで居座って。

 家族かぞくも、『転校生だから、優しくしなさい』とか言ったけど。

 夕食終わっても、かえらないのを不審ふしんがって。でも、親が『帰る時間だよ』って促しても、ゲロ縄、帰らなくて。

まりたい』とか我儘わがまま言い出して。

 警察けいさつに保護してもらわなくちゃいけなかった。

 警察も『常識じょうしき』って注意したけれど、ゲロ蝿はずっと『友だち友だち』しか言わない。

 組石くみいし警察の人たちがゲロ縄がおかしいって。大人で、はじめて気づいてくれて。

 木目の王国にも、年輪小学校にも。『他人に生する消極しょうきょく有害ゆうがい児童じどう』だって、警告したのに。

 木目の王国の利用制限せいげんしてくれないし。

 年輪小学校は出席しゅっせき停止ていし処分しょぶんしてくれない」

「いつから、阿口さんは『ゲロ蝿』って言うようになった?」

「四月なかごろから、トイレの室も一緒に入りたいってつきまとって来て。小学校でトイレが出来なくなって、膀胱炎ぼうこうえんになってから」


「病気のこと、話してくれてありがとう。

 言いづらかったら、話さなくて良いけれど。

 ちなみに。王寺さん、岬さん、鴨川さんの中で、錠前さんのせいで具合が悪くなったり、ケガをしたりしている人はいる?」

 三人全員が手をあげる。

「三人全員、チグチグと同じ膀胱炎になった?」

 三人とも、たてにうなづく。

「だから、わたしはきゅう食の汁物しるもの牛乳ぎゅうにゅうは口にしないことにしたし。

 夏休なつやすけから。

 グループで、女せい職員用トイレを使つかわせてもらってる。利用するときは錠前さんがトイレの中に入れないように、見ってもらっている」

「夏休みまで、膀胱炎、改善かいぜんしなかったんだね。

 大変たいへんだったね」




「錠前さん。

 わたしは錠前さんが何きっかけで友だちだと勘違かんちがいしたのか」

「勘違いじゃない!……ングッ!」

「吐きげするなら、ここでおしまいにするよ。

 まだ、王寺さんたちと話し合いをつづける?」

「わたしは友だちの振りして虐めて来ていた四人がゆるせない。

 四人にはちゃんと反省はんせいして欲しい。

 虐めの害をうったえて、四人を滅茶苦めちゃく茶にしてやる。

 教いく制裁をけさせてやる!」

「錠前さんがゲロ病にかかったのは、前の学校ででしょ?

 四人は発症はっしょう原因げんいんとは無関係」

「でも、吐き気が酷くなったのだから、嘔吐がおさまるよう、転校したのにそんしている。

 木目の王国でも辛い思いをしている。

 平岡先生、たすけてよ!」

「大人が出てくると、子どもは本を隠して、先生に気にられようとする。

 弱い子ほど、先生に守ってもらわなくちゃならない。

 無い虐めをでっちあげるのも簡単かんたん

 平岡先生は下がってください」


「鴨川さんは話したいことある?」

「モカ、ゲロ蝿に放課ほうかい回されて、ランドセルのこういうところあるじゃん。

 そこをつかまれて、中から転とうしたの。

 それから、口の中って、がいっぱい出て」

「あれは事故じこ!」

「錠前さんって、結構けっこう暴力ぼうりょく的な行動とか居座りとか。

 やることがこわいの。

 それで、モカ、組石外の病いんにわざわざ入院して。

 木目でも一緒だから、転校もかんがえてるって。

 わたしたちだけではモカを見守る限界げんかいあるから」

「錠前さん。

 本当?」

「……なん度も、謝った」



「じゃあ、こん度は錠前さんに詳しく話を聞いてくよ。

 その前に、三つ約束して欲しい」

「何?」

「『他の人に自分から近づかない』『他の人のからださわらない』『他の人の物を触らない』」

「声かけても逃げるし、どうしたら良いの?ランドセルをつかむのはたり前でしょ?」

「全然、当たり前じゃ無いよ。

 今言った三つを守れないなら、喧嘩けんんか衝突しょうとつ、事けん、事故がきるよ」

「……でも!わたしは悪くない!」










「年輪小のきざしだよ、錠前さん」









「……違う、わたし……違うもん……」

「そうかな?

 兆部だって、自分のこと、暴力的だと思って無いし、他人の物を自分の物のように使つかうし、ぬすむ」

「わたしはだれも虐めてない!」

あい手のことを思いやってあげられないでしょ?

 病気だから、方無いんでしょ?

 病気なのに優しくしてくれなかったら、おこって良いの?

 病気の人に何もしてくれないのは、虐めと同じ?」

「……」

「あのねー、錠前さん。

 親もね、先生もね。

 錠前さんのことをね。兆部から逃げるために転校した大変な子だと思ってあげてる。

 でもね。

 もう、潮時しおどきじゃない?

 だって、年輪小にも、木目の王国にも、兆部がいないんだから」



「錠前さんはさっきの階段のことがショックなんだよね。

 さきにさ。

 だん子関係のことで、笑われたこと。

 女子と仲良くしたいのに、女子から『ゲロ関係』のことできついこと言われてたね。

 そして、今日も階段のおどり場で吐いたこと。

 四月から、一方的な仲間外れのこと。

 その中で。吐いたことが今、気になってる。

 だって、ゲロのおかげで、『かわいそうな子』のポジションが維持いじ出来るもん。

『ゲロのことをからかわないで欲しい』ことを優先ゆうせんしちゃってるんじゃない。

 錠前さんはね、『ゲロ』っていう小学生のレアアイテムを目たせたいんじゃない?

 お互い、相手と話したいことがズレるのはさ、まあ。

 王寺さん、ルナさん、阿口さん、鴨川さんの主張にすぐ反論しちゃうので、わかったよ」

「『わかったよ』?

 何がよ?

 注意してよ!

『ゲロ』って言わせないようにしてよ!

 この四人を指導しどうしてよ!」


「注意は出来るけど。

 一番良いのは、錠前さんがいっぱい吐きぎないこと」

「病気なのよ!」

「病人がね。先生にやんわりめられても、シチューをおかわりしているの、皆が目撃もくげきしているよ。

 ゆびに吐きだこは無いけれど。自分でオエオエえずけば、吐けるんじゃない?

 ほら、食事でゲロぶん給出来たじゃん?」


「いっぱい食べていっぱい吐く。

 そう、吐くために、食べる。

 吐くとスッキリするよね?

 お風呂でスッキリするのと同じ、気持ち良さがあるよね?

 まあ、わたし、者じゃないから。適当でごめんね」



かえでいけ小三年女子はさ、毎日親に酷い話をしていると思う?

 木目の王国にかよってなくても、共働ともばたら世帯せたいおおい」

つよい女子ばっかりだからでしょ」

「そうだね。

 強くなるしか無かったね」

「わたしはあの子たちと違う!」

「親が木目の王国でもゲロを吐いてますって報告を受けているはずなのに、錠前さんを放置でしょ。

『転校させてあげたんだから、あとは自分勝手にやんなさい』かな?

 錠前さんのかかえている問題って、親の育児放じゃない?

 親に見離されたの?」

「そんなんじゃない。親がいそがしいだけ!」











「病院のくすりわすれてるよ?

 平岡先生、錠前さんのランドセルから飲みぐすりさがしてください」











「錠前さん、ランドセルに薬が無いよ。

 お薬、あるいてる?」

「錠前はいつも、駅の女子トイレで薬をててるってー」

金子かねこさん!

 見ていたなら、止めてよ!」

「目撃した年輪こう校生が話してただけ―」


「平岡先生。

 これから、木目の王国利用時は、錠前さんの薬の飲み忘れが無いように監視かんししてください。

 そして、木目の王国は、年輪小学校に『薬の飲み忘れ・薬の紛失ふんしつがものすごいから、保健ほけん室でふくかん理・見守り』をお願いしてください」



「錠前さん。

 薬、飲んでいないの?

 今日、持って来てるよね?

 よく忘れちゃうけど、三年生だから、大丈夫だいじょうぶだよね?」

「……」


にらまないでよ。

 薬が気にらないなら、医者に薬を変こうしてもらいなよ。

 わたしは医者じゃないから、薬の変更は出来ないよ、

 睨んでも無駄むだ、無駄」



「錠前さんは発げんするの休憩きゅうけいしようか?

 続ける?」

「……」

「じゃあ、わたしを睨む時間みたいなので、睨みを続けてください。

 鴨川さん、言いたいことがある?」


「モカ?

 大丈夫?」

「……『仲良い女子グループ』が学校でも、木目の王国でも一緒なんだよ。

 木目の王国でたまたま一緒に利用しているだけで、錠前さんと友だちになった覚えは無い。

 四人で楽しく遊びたいから、勝手につきまとわないで欲しい。

 でも、錠前さんだけが悪くない」


「……錠前さんの親が家に電話でんわしてきた。

『錠前さんが悪くない』って。

 そもそも、担任の岸谷きしたに先生が『四人のことを転入前に事前におしえてくれた』って。

 でも、わたしもわたしの親も寝耳ねみみみずだった」


「つきまといをやめたほうが怖い。

 後々あとあと、親に『今度は女子に虐められた』とか嘘の被害をでっちげないで欲しい。

 わたしたちだけでたのしくあそびたい。

 虐めが原因で転校してきた人に、仲良くしてあげる理は無い」


「王寺さん、くわえたい具体的なこと?

 同じことを言う気なら、もう言わなくて大丈夫だよ」

「わたしたち、女の子女の子した錠前さんと合わない。

 錠前さん、自分のヘアアクセサリーの自慢とか。ジュニアモデルの子がていた服と同じ服だって自慢するの。

 自分が一番でね。他の子の服装や持ち物が貧乏びんぼうって見くだしながら。

 もう、わたしたち、他の女子じゅう人に、無視されてるの。

 わたしたちも、いつのにか、錠前さんグループにくくられちゃったせい。

 たのしい話が何も出来ない」

「……へえ、そうだったんだ。

 趣味しゅみも違う、お家のふところじょうも違う。

 そうだよね。

 女子月刊げっかんファッション雑誌ざっし『ふわぷち』なんて、回し読み?」

「そうそう。モカが『ふわぷち』で。

 ルナは漫画の月刊『プリンシー』。

 オーも、漫画の月刊『おとめ』。

 チグチチグの家は曜日とか、遊びに行くとね。おにいちゃんの漫画とかも読ませてくれるの!」

「ルナ!

 そんなこと言ったら、ゲロが家に押しかけてくるじゃん!」

「ごめんー」


「錠前さん。

 貴方あなたの自己PピーRアールを聞くのが、皆、もう苦痛くつうなんだって。

 もう、自己PRしないでも良いよね?」

「……じゃあ、何を話しかければ良いの?」

「だーかーらー。

 話しかけないで!

 イケ小にもどって!

 もう、作田さくた結婚けっこんして!

 バイバイ!」

 阿口さんがキレたとき、自分の名前を出された作田くんあきれたかおで、廊下ろうかからやって来た。


「……おれ、関係無くね?」

「錠前さんは作田が好きなの!

 木目の王国は作田がいるから、来るの!やすまないの!」


「まあ、女子がさ、男子にも協力きょうりょくして欲しいときはさ」

「いや!

 作田は何もわかってない!

 錠前さんには関わりたくないの!

 迷惑してるんだよ!

 ママからも、錠前さんの家から電話が来たり、学校を通してわたしの悪口聞いたりするのが苦痛だって言ってた!

 まず、作田からたのんでよ。錠前さんのおかあさんの、『わたしたちの悪口』をやめさせてよ!!!」

「ルナもチグチグの意見に賛成さんせい。木目の王国まで来て、接待せったいするの、キツイ。

 放課後くらい、らくさせてよ」

「俺だって、迷惑だよ。

 錠前、いっつも、にわのぞいて来るんだぜ。

 キモイよ」


さいかく認。

 皆の趣味や共通きょうつう点は全然、無いの?」


「『作田君のことが好き』だよ」


東木目小ヒ・ガ・シは黙ってて!!!!」

「いやいや、阿口さん。木目の王国では、東木目小の子とも一緒にいるんだから。

 そちらは何かご意見、ございますか?」


「年輪小の子って、自分たちが言うほど、ただしくないよ。

 何か、三人の根暗ねくらな子たちとー、陰湿いんしつな子一人がー、『作田LOVEラブ』でどう嫌悪けんおしてるかんじ。

 雰囲ふんい気、悪いよ。

 ほら、錠前さんって。楓池小一・二年の頃、作田と同級生で。登下とうげ校も一緒だったんでしょ?

 幼馴染おさななじみ以上に強いつながりがあるよね。

 年輪小のヲタクどもはきもちやいてて、それを必死ひっしに隠すために。『錠前さんには迷惑してます』って被害をでっち上げてるって言うか、被害をってるよねー」

「ヲタクじゃない!」

「そうじゃないって。性格が最悪ってこと。

 べつに、良いじゃん。

 皆が作田を好きなんでしょ?

 しが一緒を認められない同たん拒否きょひって、メンヘラじゃん」

 東木目小の子がニヤニヤしながら、本質を突いた。先生たちも止めなかったってことは、先生たちもそう思っていたところがあるってこと。

 まあ、こういう施設しせつでは、利用者同の好ききらいのトラブルはよくあることだもんな。


「自分が思っている自分。

 相手が思っている自分。

 違うよね。

 ほら、外野がいや……って言ったら、失礼しつれいだ。東木目小の冷静れいせいなご意見」

つめたい意見だね」と一言多い、阿口さん。

「ご意見をいただいて、どう思う?」



「……もう、どうでも良い。

 わたし、違う間学童にうつる。ママにたのむ」

「えー、モカ、けちゃうの?

 ルナもそうしようかなー」

「だって、楽しく無いもん!

 親に『楽しいでしょ?』って。

『錠前さんと仲良くしてあげなきゃかわいそうでしょ』って。

 放課後の自由が無いんだよ。

 木目の王国じゃ無くて、家でゴロゴロしたいのに!」


「そうだね。

 虐めじゃなくて、喧嘩をして良かったのは、こっち側の気持ちを伝えることが出来た。

 そのほうがまだマシだった。

 お互い、言い合っても。どうにもならないことはあるけれど。

 これからは、言い合う以外は近寄らない。

 なるべく接触せっしょくしない」


「何で、王寺さんが話し合いのまとめに入ってるの?

 わたしが悪者なの?」

「錠前さんはそもそも、何で、王寺さんたちに話しかけたの?」

「担任の先生に、王寺さんたちが木目の王国を利用してるって、聞いて。

 だから、そこが共通点だなって……」

「でもさ。

 王寺さんたち、錠前さんのこと、嫌いなんだって。

 生理的に無理。

 趣味も合わない。

 親友四人だけで、キャッキャしてたいんだって」



「……」




「おーい、鈴木 縁―。

 作田が呼んでるー」

 廊下から、男子たちに呼ばれる。

「何さー?」

「御前さー、錠前には優しくしてやれよ。

 具合が悪いんだから。

 こんな公開こうかい裁判なんて、仕かけてさ。

 誰も楽しく無いって。

 どうやって、収拾しゅうしゅうをつけるんだ?」

 わたしと話し合いをしたいのに。作田君の視線だけは、ずーっと、か弱い錠前さんの動きを追っている。

「作田も錠前さんをウザがっているけど。

 実際じっさい、あんな可愛い子に見つめられると、ドキドキしてんじゃないの?」


 そう。

 何も解決出来なかったわたしがすべきこと。それは作田君にも。そして、談話室とそのまわりに居る子たちに警告すること。

「外野は楽しかった?

 でも、話し合った子たちは真けんだった。

 うわさながしたら、今日の利用者の連帯れんたい責任せきにんだから。

 全員、木目の王国が利用を一時凍結とうけつしてもらうから」

「「「「「……」」」」」

「錠前さんは一人でトイレに行ってください。

 わたし、誰かの悪口を聞いているのが苦痛なの。

 女子トイレで誰かの悪口とか聞こえてきたら、平岡先生に注意してもらうから」


「悪口を言いたきゃ、本人ほんにんの前で直接ちょくせつ話しかけて」


「あと」

「まだ、あるの?」

 錠前さんが「ゲーゲー」ゲップを吐きながら、首をかしげる。

「誰かを好きとか嫌いとか、自分で言えないのはダサくない。

 誰かの好きな人や嫌いな人を暴露ばくろした気でいる馬鹿が一番ダサイ」

 東木目小で、たった一人はっきりものを言える子。名前は知らない。

 名乗りもしない。

 そして、誰も、彼女の名前を伝えて来ない。

 皆、この子を恐れている。

 錠前さんのような道化がいてくれて、からかわれる対象がいてくれて、ホッとしていた。それなのに、わたしが余計なことをして、王寺さんたちと錠前さんを和解させようとした。だから、皆、口出しはしてこないけれど、この話し合いを盗み聞きしていた。


 本当に、ヤバイのは。

 東木目小のヤバイ女。

 ほら、すぐくちびるが動いた。

「それ、わたしのこと?

 東木目小に喧嘩る気?

 イケ小女子って性格悪いね」

「錠前さんは可愛い。

 んでなければ、全男子のひょう的。

 病んでた方が楽っちゃ楽だもん。

 東木目小がみょうに病んだ錠前さんをフォローするのは、そこだね」

 そう。錠前さんには悪いけれど、憶測おくそくもうわけ無いけれど。

 東木目小の子をだまらすには、この方向ほうこう性しか無い。

「良い?

 これ以上ごとを無駄に続ければ、木目の王国の評判ひょうばんが下がって、利用者がる。

 そうなれば、迷公社こうしゃはここの王国をじる。

 好き勝手やり放題の馬鹿はもうちょっとかんがえな。

 今日入って来た新人しんじんに、こんなこと言わせるなよ。先輩せんぱいがた



 いつの間にかいなくなっていた米里先生が細川先生をれて戻って来た。

 どうやら、二人ふたりとも、一階の事室から二階へやって来たようだ。

「……えー、年輪小三年女子は明日あした朝一あさいちで。迷公社と、家てい相談そうだんきょくと、組石市教育かい調査ちょうさがあります。

 担任岸谷先生が児童の個人情報をべつの児童に公ひょうした可能かのう性があります」

 細川先生。真面目な話をシルバーアクセサリーに指をかけながら、話さないで欲しい。まあ、結局、大人が動いてくれないとね。

 きっと、進展は見込める。


 米里先生が子どもたち皆に向かって、頭を下げる。

「本当に、ごめんなさい。

 木目の王国は迷公社にぞくしているし。

 学校は組石市教育委員会。

 土曜講習こうしゅう会で、講派遣はけん相互そうご連携れんけいしているけれど。

 貴方たちに言われるまでは、うごけなかったの」


「違うんでしょ。

 あの子。鈴木 縁が言ったから、でしょ?」と、東木目小のれいの子がビシッと余計よけいなことを指摘してきする。

「……年輪小だけの問題じゃ無かったの。

 楓池小の子は錠前さんが病んでいなかったころを知っているし、病みはじめた頃を知ってるけど。

 むずかしい問題がいくつもあって、見守るしか出来なかった」



 さあ、もう夜九時をぎた。

 四階に集合しゅうごうした女子宿泊組も、大部屋おおべや雑魚ざこ

「縁、縁。

 錠前さんに何で、やさしいの?」

「そうそう。

 錠前さんって、そもそも、東木目小に転校しなかったのが不思議しぎだったけれど。縁も大変でしょ。

 兆部って男子の噂は東木目小にもとどいてるよ」

「そうだねー。

 どうせ年輪中学校で同じ校になるのに。

 年輪中は、年輪小、楓池小、みきはら小の児童が自動で入学。

 四月に中半端はんおあに逃げて、タイムリミットはあの時点で三・四・五・六年の四年間。

 王国でも、友だちづくり、頑張ったけど。

 相手の気持ちを無視して、せっ極的過ぎたね。

 逃げたのに、幸せになれなくて、かわいそうだもん」とわたしはヘラヘラしながら、答えた。


「鈴木さんも。

 東のわたしたちと同じ、っからのぜん人じゃないよね?」

「当たり前、当たり前。

 木目の王国じゃ、寝ころがって、ポテチ食べれないじゃん。

 夜更よふかしも駄目。

 まあ、地獄の小学校生活よりは苦ろうが無いのかなって思ったけれど……」


「わたしは、水上みずかみ 利々キキ

 東のやり方を、邪魔じゃまするんだったら。

 容赦ようしゃはしない」


「ご忠告、ありがとう。

 協力きょうりょくするところは協力するし。

 一歩いっぽ二歩にほかせてもらうことが多いから」

結構けっこう感謝かんしゃしてるよ。

 錠前さんが薬も飲まずに、問題行動ばっかりだったのに。

 布団ふとんかぶって、こんなにはやくから寝てくれるなんて、なかなか無い」

 つかみどころの無い子。

 長髪ちょうはつでも、短髪たんぱつでもない。くせでもない。

 ヘアバンドも、髪かざりも、夕方からしていなかった。

 ホクロも無し。

 メタリックな眼鏡めがねをしていて、頭が良さそうな感じ。今いじっている筆箱ふでばこ中身なかみに、「献進けんしん会」と刻印こくいんされた鉛筆えんぴつがあった。おそらく、そこのじゅく生だろう。


 あれ?

「縁、どうしたの?

 お腹、いたいの?」と王寺さんが心配してくれる。

「あああああああ」

「何?何?」

 他の女子もわたしのところへやって来る。

「あの新しい担任の先生、土曜授業じゅぎょう連絡れんらく事項じこう言わないから、わすれてた!

 明日、二学期一発目でやるはずだった魔術診断しんだんだあああああ!!!!」

「え?

 ……嗚呼、イケ小三年は先生がのろわれて、それどころじゃ無かったもんね」

「三年二学期の魔術診断の目だまは、簡単過ぎる『石運いしはこび』。

 石を浮遊ふゆうくう動・降下こうか

 これを十回一セットで、三セット。

 ミス三回目で、失格しっかく

 さすがあたまかい転がはやい水上さん。スラスラと説明せつめいしてくれる。

 水上さんに言わせれば、「二回もミス出来るのよ」だろう。


 錠前さんが寝がえりをったので、すかさず、彼女の布団を引っぱる。

「錠前さん、錠前さん。

 面識めんしきが無い子が多いここでは、貴方がたよりです」

「……何?」

「どうしよう!『石運び』、わすれてた!!!」

「……はあ?

 あんなの小豆あずきはし運びと同じでしょ?」

「どうしよう!練習して無かった!」

「……頑張がんばれば?」

「頑張ったって、今からじゃおそいよ!」

「練習すれば良いじゃない。

 AエーかAAクラスでしょ?」

「……Cシー

「「「「「C!?」」」」」

「C2


「「「「「……魔術、嫌いなの?」」」」」


 嗚呼、嗚呼。すっごい視線。かわいそう、かわいそうってヒソヒソ言われてる。

自然しぜん属性はAAなんだけど。

 非自然属性が駄目で……」

「自然属性がとく意な中学生は、火炎かえん業高校を受験じゅけんするよね?」

「やだやだ!男子しかいないもん!女子すくない!!!」

「だから、練習すれば良いじゃない。おやすみ」

 嗚呼、皆、全然、しん刻な顔じゃない。


「石ころよ、浮け」

 <ウケケケケケケ>


 試しに、披露ひろうしてみせた。

 ランドセルの中にあった、練習用の小石をその場で浮かせるはずだったけれど。

 コイツ、笑いやがった。

「何で、浮遊をめいじたのに!

『ウケケケケ』って何よ!

 石ころを笑うようにして、どうすんの!!」

 錠前さんがガバッと起き上がった。ううん、水上さんも大きな口を開けたまま、ショック状態。

「魔術のいしずえレベルの問題じゃない?

 ……岬さんは魔術の基礎きそくわしいわよ。教えてもらったら?」

「そうそう。ルナもそう思う!

 錠前と同じ意見なのは嫌だけど、根本こんぽん的に非自然属性魔術が出来てないんだ」

「自然属性がずば抜けて良いなら、ギリギリCクラスなのは仕方無いかな。

 でも、小学校高学年になったら、もうCも難しいはず。

 Cの子も、わたくしりつ受験を考えてる子、いるからね」

 ……水上さんの容赦ようしゃない言葉の先は、つまり、Dディー以下に降格するってこと。


「は~い、縁。

 石ころのテストで、一番重要じゅうようなのは?」

 阿口さんも欠伸をしながら、付き合ってくれるようだ。真面目に答えよう!

「そりゃあ、タイムでしょ!」

「そういう馬鹿な男子みたいな考えだから、一セット目でミス三連ぱつして、失格になるの。

 一学期一発目の石ころテスト、失格だったでしょ?

 夏休みまで、練習したでしょ?」

「……しーたーけーどー」

「とにかく、鈴木さんの目標は、あせらず・集中・タイムを気にしない」

 王寺さんが笑っていた小石を黙らせるのに、成功せいこう

 もう一度、挑戦ちょうせんすることに。


「……石ころよ、浮け」

 <……ウケケケ?>

「石ころが錠前さんに助けをもとめてるよ!アハハハハ」

「かわいそうに。

 石ころだって、笑いたくないよね?」

「縁。

 フワフワ浮くのをイメージ出来ていないんじゃない?」


 夜十時過ぎまで、年輪小と東木目小三年女子たちのきめこまやかな指導のおかげで。

 何とか、石ころが<ウケ>とも言わなくなった。

 笑わなくなった石ころがちょうど浮き上がって、錠前さんのお布団の上をクルクル旋回せんかいしたところで。

「はい、もう寝なさいねー」と平岡先生に言われた瞬間も。

 <ウケ>と笑わなかった。

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