08 作田君のお父さん(夜間型・宿泊型学童保育施設「木目の王国」職員米里 風将視点)

 ドーンッ。

 おおきな爆発音ばくはつおん


 そして。

 けたたましくひびいた緊急きんきゅう車両しゃりょうのサイレン。

 木目もくめ王国おうこくなかても。

 魔術まじゅつ事件じけんあるいは魔術事だというのは、大人おとななら、だれしもがわかった。


 すぐに、下足げそくばこにいたどもたちを木目の王国ない一時いちじ保護ほご

遅刻ちこくしちゃう!」と、学校がっこう規則きそくしかかんがえられなくなる、同調どうちょうバイアス。

危険きけん状況じょうきょう避難ひなんすべき状況」を認識にんしき出来なくなるのは、災害さいがい現場げんばや事故現場でもよくある。

 うごけなくなることがあるから、避難訓練くんれんはやっているけれど。

 施設しせつないではなく、施設最寄もよりでの異常いじょうな魔術が発生はっせいしたとなると。

 属性ぞくせい爆発ばくはつ性でも、延焼えんしょうおそれが場合ばあいは、おく内にとどまらなければならない。

 所長しょちょう警察けいさつに「子どもたちがとどまっている」ことをつたえると、「そのままかん待機たいきしてください」とわれる。


 かえでいけしょう年輪ねんりん小・ひがし木目小・幹原みきはら小などをまとめている組石くみいし教育きょういく委員いいんかいに、「木目の王国利用りようしゃ登校とうこうちゅう迷声めいせいきたさわぎにきこまれた可能かのう性がある」と一報いっぽい

 教育委員会からは、「警察の指示しじしたがって、館内待機」をおねがいされる。

「まだ玄関げんかんそと、施設ちかくにいる児童じどうは木目の王国で一時あずかるように」指示をける。

 また、保護ほご者に一斉いっせい緊急メッセージ「登校中、迷声で爆発音。利用者の安否あんぴ確認かくにん中」を送信そうしん

退たい館者人数にんずう判明はんめい。館内点呼てんこ確認も、わりました!」

 退館時の正規せいきID《アイディー》をかざした履歴りれきと、かりID入力にゅうりょく履歴のふたつを確認。

 楓池小三年さんねん作田さくたくんと、鈴木すずきさんのめいしか退館していなかった。


 しょうまで、迷声と迷声まえ積木つみきどおりの歩道ほどうは、規制線せいせんられていた。

 しかし、午一時になると、警察もてっ退。

 組石市みん往来おうらい出来るようになった。

 規制が解除かいじょされたことで、続々ぞくぞくと保護者が子どものおむかえにやってた。

 警察からも、りんきゅう館するようわれたが。

 保護者のなかには、「これから勤務きんむなので、もう一泊いっぱく預かりをおねがいします」と緊急預かりを依頼いらいする保護者もいたので。

 予定よてい通り、預かりをじっ施。

 一応いちおう、組石警察が巡回じゅんかいをしてくれることになったので、警備上びじょう問題もんだいくなった。



 ばんと、いま子どもたちにっているしょく員には、緊急しょく員会の内ようあとつたえることになっている。

 会議に参加さんか出来るぜん員があつまったのは、警察の事じょう聴取ちょうしゅ交代こうたいけてからだった。

 時こく夕方ゆうがた時。

 一階いっかいの職員更衣こういしつよこに職員室がある。

 そのおくに、職員用会議室がある。

 パイプ椅子いすながづくえ、モニター画面がめんしか無い部屋へや

 嗚呼ああまどもあるが。にわからまるえになるので、カーテンでつねに中をのぞけないようにしている。


 木目の王国所長は、代々だいだい、なりまっている。

 小がっ校校長試験しけん合格ごうかくしていてもすぐに校長職につけるわけでは無い。ふく校長や主幹しゅかん教諭きょうゆのポストで、きをつ。

 その間、「青少せいしょう○○まるまるいえ」やめい公社こうしゃ関連かんれん事業じぎょう所へ「出向しゅっこう」がめいじられる場合ばあいがある。

 武中たけなか所長は、もと組石市立あかし小学校主幹教諭。

 出向間は一、年。

 その間、いわゆる「おかざりさん」として、夕方四時からよくはち時まで仮眠かみんりながら、出勤しゅっきんしている。

 とくに所長が所長室からうごくことは無い。

 この職員会議の進行しんこうだって、朝倉あさくら先生にまかせている。


金沢かなざわ先生、低学ていがく年児童の保護者のお迎えはどうです?」

「はい、きゅうわりの一年せいがお迎えを完了かんりょうしています。二年生は割です。

 定にさわぎの後の『いそぎのお迎え』は、片親かたおや家庭かていや、どちらかのおや単身たんしん赴任ふにん中の家庭にはむずかしいですよ。

 今日きょうの夕方・よるまでの預かりを予定していなかった二年生十七じゅうしち名の延長も受けけて、大変たいへんですよ。

 ただ、意外いがいに子どもはショックを受けていません」

 三年からろく年生も、六割以上が残のこったまま。


「えー、今朝けさの魔術事件ですが。

 ネットニュース、テレビでほう道されているからご存知ぞんじですね?」

 朝倉先生がネットからひろって来たまとめ資料しりょう壁掛かべかけのおおきなモニター画面がめん投影とうえいする。


 木目えき空撮くうさつ写真しゃしん

 右横みぎよこながれているショートムービーは、爆発ちょく後の映像えいぞう

 粉塵ふんじんがあがって、そもそもくさりかけていた街路がいろじゅは中が空洞くうどうだったらしく、きながらのようにがっている。

 そして、れきしたきになった子どもには、すでに全しん紺色こんいろ一色いっしょくのモザイクがかけられている。

 おそらく、その子が犯人はんにん


 もう、みんなになって。勤務中も、つう端末たんまつでネット検索けんさくして、情ほう収集しゅうしゅうをしていたし。

 新聞しんぶんは、明日あす朝刊ちょうかんまで待たなくてはいけない。

 だから、あらためて、きた事件とうのは、なんとも言えない、興奮こうふんと、不安ふあんと、恐怖きょうふ自分じぶんの中でうずく。


 そこで、熊手くまで先生が挙手きょしゅをして、発言はつげんをしはじめる。

 平岡ひらおか先生が報こくするはずが、衝撃しょうげきてきどう画をて、言葉ことばまってしまったようだ。

「木目の王国の利用者二名。

 昨日きのうから今朝けさまで宿泊しゅくはく利用者の作田君と鈴木さん。この二名が巻きこまれました。

 ただ。

 たまたま、迷声めいせいまえあるいていて。迷声の講師こうしの……お……どう……あれ、お名前……ごめんなさい、名前が出てこない。

たしか、両姓りょうせいで。

……あっ、万堂ばんどう先生です。万堂先生にビル内へ避難するよううながされて、魔術爆げきをほとんどかい避出来ました」


 魔術爆撃。

 戦争せんそうニュースでしか見聞みききしない単語たんごだ。

 魔術事件でも、そんな物騒ぶっそうな、人道じんどう的な言葉は遭遇そうぐうしない。


「万堂先生?

 ……だれだろう?

 両姓子ってことは未成年だから、ぶとりなおばさん先生のほう、では無いよね?」

「そうです、蛍光けいこうオレンジ色の派手はでなジャンパーのひと

 あっ、いつも迷声で玄関げんかん清掃せいそうをしているわかいおにいさん講師、か。

 皆、ジャンパーの色で判断はんだんしていたらしく、納得なっとくしたようだ。

 あのやさしそうで、軽快けいかいひとに、あの二人がまもってもらえたのは、不幸ふこう中のさいわいだ。


「熊手先生、ほかの利用者の安否あんぴは?」

「二人以外、施設内に留まっていたことがわかっています」


「二人の入院にゅういん先はテント小児しょうにびょう院ですか?

 誰か、りませんか?」

 職員全員、館内に居る子の見守り、予定に無いちゅう食の準備じゅんび、お迎えチェックで、考えもしなかった。

 そこへ事務員の木村きむらさんがやって来た。

「作田君と鈴木さんは迷声の万堂さんとともに、だい大学だいがく附属ふぞく病院にはこばれました」


 一瞬いっしゅん、職員がざわついた。

 テント小児科病院長にかかれば、たとえ土曜どようでも、午前診ぜんしんをストップして、緊急しゅ術も可能なんじゃ無いか?

 そうおもえてならなかったからだ。

 受けれを拒否きょひしたのは、やはり、あの爆発おんのせいだろう。

 院内の病とうはもちろん、外来がいらいりょうもんでも、安全確認かくにんもしなければならなかった。

 新患しんかんを受けれる余裕よゆうは無かったはずだ。

 それでも、院長が救助きゅうじょかったのは、敷地しきち境界きょうかいせんの安全を確認していた細川ほそかわ先生が見かけたそうだ。


「でも、鈴木さんのクラス担任たんにん玉浜たまはま先生はそちらの病院に入院しているんじゃ?

 玉浜先生にウロウロされたら、鈴木さんの療のさまたげになりそうでしょう。

 大丈夫だいじょうぶでしょうか?」と平岡先生のせいで、魔術事件の話題わだいかられてしまった。

「平岡先生、その心配しんぱいはありませんよ。

 玉浜先生は、ダフネがた変身へんしん対応たいおうの療よう院『かんじゅ療養院』へてん院されました。

 ナルシス型、いわゆる自己じこ型変身とちがって。のろいや魔術事故におおいダフネ型変身は、療養がちょうします。

 でも、あの『冠ノ樹療養院』にさえいれば。たい内の異常いじょう現象げんしょう無効むこうされるので、発作ほっさきなければ治療に集中ちゅうちゅう出来ます」

「リハビリ継続けいぞくなんですね。

 しょうぎゃく転でしたっけ?」

 肛門こうもんくちはそのままで。

 口・食道・ちょう・肛門が「口・腸・胃・食道・肛門」になってしまった。

 さらに、呪いにより常時口から便べんが逆りゅうし続け、胃がからっぽになることは無いそうだ。

 どこかの下水げすい設備せつびとのリンクがれなくて、どうにもならない。


 平岡先生のしつ問に丁寧ていねいこたえていた木村さんのひょう情がどんどんくもっていって。

「……捜査そうさ関係かんけい者のはなしでは、玉浜先生に呪いをかけた児童じどうXエックスこん回の魔術爆撃をやって、魔術がえしで重傷じゅうしょうって、組石市立いちりつ病院へはん送されました」

 そして、最後に、こう付けくわえた。






「児童Xの、もと子分こぶん証言しょうげんから、今日きょうの午後、楓池を捜索。

 楓池のそこから、おもしのついたせき動物どうぶつの死がい発見はっけんされています。

 解剖かいぼうしたところ、玉浜先生と同じように消化器が逆転していました」






「……おぞましい、魔術の練習れんしゅうりょうですね」

 所長は呑気のんきともとれる、他人たにんごとのようなコメント。

 でも、仕方しかたいか。

 児童たちの間では、結構けっこううわさになっていた、楓池小の問題児だもの。

 たしか、きざしって暴力ぼうりょく的な男子だんし


「鈴木さんって、ものおじしないタイプじゃ無いですか。

 それと、児童Xとの関係かんけいは?」

 あっ、もう「兆部」って名前なまえでは、ばないのか。

 気をつけなくちゃな。

 刑事けいじばつにはえない年齢ねんれいだから、名前はもちろんせなくちゃいけない。


さく年度まで二年間楓池小に在籍ざいせきしていた錠前じょうまえさん曰く、『鈴木さんはほか女子じょしおなじように、きざ……児童Xがこわくて、大人おとなしく、気配けはいしていた』そうです。

 児童Xからげた錠前さんがしあわせせな学校生かつおくっているとうらやましがっていたら、そうでは無かったことがショックだったみたいで。

 それで、あんなに錠前さんをフォローしつつ、錠前さんを毛嫌けぎらいしていた子たちに堂々どうどう見を言っていたんだと……推論すいろんいきもうわけ無いです」

 なるほど、さすが錠前さんにベッタリフォローしていた平岡先生。

 三、年生女子児童につきっきりで、ほかの職員からも、「べつの学年を担とうすべき」としん言があったくらい。平岡先生はこの仕事しごとてん職のようにかんじているのだろう。

 いま、ものすごく、かおをキラキラさせて、き活きとしている。


 しかし、突然とつぜん、職員の誰かが会議中に大声おおごえした。

 会議中なのに、的な会

 いや、でん話のようだ。

 皆がとがめるような目で、一人ひとりの職員を見つめている。

 こう学年女子を担当している、滝本たきもと先生。

 うす化粧げしょうちゅう意を定期的に受けていたけれど、あのバンドマンな細川先生が加わってからは、あまりわるちしなくなったせいか。誰も注意しなくなった。


「……え?

 個人こじん的に?

『鈴木さんにつきまとっていた兆部って子が、作田君にやきもち』?

 ……社会学校き?

 社会学校はたん期入所でしょ?

 ただし?

 ただしってなに

 ……もう、組石市内の小学校への在籍が出来ないのね?」


「どうしたの、滝本先生?」と、あきれた口調くちょう一応いちおういかける朝倉先生。

 しかし、急にはなあなふくらまして、自信満々まんまんに、滝本先生が言いはなった。

「警察に知人ちじんがいるのですが!

 組石市内の小学校にもどってくる場合、木目の王国利用もかんがえられたので。市内小学校へのふく学について、い合わせていたんです。

 組石市と児童Xの問題として、こん後、組石市内の小学校に在籍出来ないですし。

 組石市内に居住きょじゅう出来ません」

「作田君と鈴木さんと同じ三年生で、市外追放ついほうか。

 十だい満の犯罪で、前代未聞みもんじゃないかな?」

「はい!」

 ……こういうところが「ちゃっかりしている」んだよな。

 化粧も服装ふくそうも派手で、高学年女子にあく影響えいきょうだと、保護者から情が入っているけれど。

 滝本先生も人脈じんみゃくひろさがさいわいして、利用前の事前しん査で「ふるい」にかけることが出来ている利用者が多数たすういる。

 この前は、報道関係。その前は、教育関係。

 親がまともじゃない、とか。

 育児放、とか。

 母親ははおや恋人こいびとに問題り、とか。

 実際じっさい半年はんとしまえ春先はるさき

 滝本先生の耳より情報「離婚りこんでモメてた」を無視むしして、ある新一年生児童の利用を認めたら。その新一年児童のり未すいあんと「間違まちが誘拐ゆうかい事案」が発生して。

 利用をひかえる保護者が相次あいついだこともあった。



「すみません。

 作田君のことで、重要じゅうようこうがあります」

 木村さんがまた挙手きょしゅをした。

「木村さん、おねがいします」

「今回の魔術事件以前から。

 不審な電話が相次いでいます。

 作田君のご親族しんぞく、ご家族を名乗なのる電話のい合わせが昨日きのうもありました。

 おかあさんが世帯せたいぬしで、単独たんどくけん・養育権者です。

 先週せんしゅう利用時の面談めんだんで、面会権を持つ保護者も、監護かんご権を持つ関係者もいないと、さい確認が取れています」


「あれ?

 作田君の木目の王国利用時の契約けいやく保証ほしょうにん署名しょめいらんは誰だったっけー?」なんて、所長がけたこえで、皆にたずねた。

 ……嗚呼ああ、自分の番か。

 挙手して、朝倉先生に当てられてから、声をる。

ちゅう学年男子担当の米里よねざとです。

 木目の王国利用契約時の保証人は、お母さんのおとうとさんになっていました。

 お母さんに昨夜さくやおそく問い合わせたところ、作田君も『父親ちちおや』のことを気にしているそうです。

 実父じつふおよび実父の関係者は、作田君を認はしていますが。接触せっしょくきんじられています。

 絶対ぜったいに、問い合わせがあっても、そく応答おうとう拒否でお願いします。

 また、調ちょう査会社が作田君の身辺しんぺんを調査しているうごきもありました」


 ここで、木村さんにバトンタッチ。

「楓池小にかぎらずおとこの子の利用者に、作田君の住所じゅうしょや学校での様子ようすを聞き回っていましたので。今朝しち時に、警察に通報みです」

「木村さんはどう思いました?

 やはり、連れもどしでしょうか?」

「そうですね。

 木目の王国に侵入しんにゅうして連れ戻し未遂事件を起こす元親もとおやは年に五回はいます。

 警備会社とも連携れんけいして、対応します。

 あっ、こんなだい事件のあとに、言いづらいんですけど。

 昨夕さくゆうまた不法ふほう侵入した市場いちば 秋葉あきはも!

 無事ぶじばん逮捕たいほされました!」

 木村さんがにぎりしめたりょうこぶしを天じょうかって、げる。

 ……これが唯一ゆいいつあかるいニュースだな。

 でも。


「保護者の市場 ゆうさんが現在げんざい、鈴木さんのクラス担任ですよ!

 学級がっきゅう崩壊ほうかいしたクラスのケアで、実力じつりょくのある先生が校から呼ばれていたはずです」と平岡先生が、鈴木さんに関するメモをみ上げる。


「平岡先生のおっしゃる通りです。

 そして、市場先生は息子むすこ小言こごとらしていたそうです。

『兆部だけじゃなく、三年一組児童全員、不良ふりょうひんだ。がゴミ収集でまとめてやしてくれないかな』って普通ふつうに、会話していたって。

 でも、夕貴さんは言った記憶きおくが無いそうです。

 どうやら、息子が魔術で、父親の『の感情』をかなり増幅ぞうふくして。『虚言きょげん』を強制的にかせていた。

 警察の見解けんかいです」


 さらに、木村さんが報告を続ける。

「市場 秋葉は社会学校へ短期で入ります。

 父親は『魔術による調教』の影響えいきょうにあるため。親子おやこ分離ぶんり事案として、子どもの権利を組石市が制げんすることになりました」

「……こうなると、組石市と未せい年者、市場 秋葉の問題か……」と、朝倉先生も残念ざんねんがっている。

 魔術さえ使つかわなければ、こころがざわついていなければ、職員もたよりにしていたくらいだ。

 小学校卒業ぞつぎょう前後で、木目の王国利用が出来なくなる不安に加えて。父親に新しいパートナーが出来たことで、魔術に暴力性をび始めた。

かれはずるがしこいけれど、もともとあたまが良い。

 善悪ぜんあく教育と、倫理りんり教育、道とく教育を継続的におこない、魔術感覚統合とうごう教室への長期通所がわっても、成人後じんご保護かん察を続けることになるでしょう」




取り換えチェンジリング心理しんり操作そうさ調ちょう教は愛着あいちゃく障害しょうがいの子の特有とくゆうの偏った魔術特性ですものねー」




 細川先生がいつの間にか会議室のドアをけて、入って来ていた。

 今まで、どこに居たんだろう?

 全然、気にしていなかった。

「『息子の作田 ほっとがこちらを利用していると、聞きました。

 今朝の事件に巻きこまれたんですよね。

 入院先を教えていただけないでしょうか?』って聞かれたんですけどー。

 作田君に父親なんて、いませんよねー?」


「さっき?

 その不審者、どこへ行った?

 まさか、館内に居れたのか?」と朝倉先生もあわてだす。

「いえー。

『当館のID登録とうろくが無いので、おりください』って、つうたえましたー」

「館内が安全かどうかわかりません。

 今朝の事件のこともありますので、警察に通報します」と所長が通信端末をにぎった瞬間、会議室内に十本じゅっぽん以上のらい撃がちた。


 ババババババババババババッ。


 ものすごい、ひかりおと、そしてしょう撃、くささ。

 でも、すぐに細川先生が「砂壁すなかべ!」と、全員をおおうようにつち属性の防壁ぼうへきを立ち上げてくれて、いのちびろいした。

「……はぁ。

 そんなIDで出入りをかん理しても、魔術師には無駄むだ、無駄」

 呑気に、所長のよこいているパイプ椅子いすに、深々ふかぶかこしかけた、なぞのスーツの男。

 来館者用のスリッパはいていない。

 土足どそくだ。

 ピカピカの革靴かわぐつを見せびらかすように、あしむ。


「不法侵入ですよ!今すぐ、退館しなさい!」

 朝倉先生が警告するが、所長は放心状たい

「それで、僕の息子はどこに入院しているのかな?

 おかしい話だけれどね。

 僕の息子なら、入院なんて最悪な結果けっかえらばず、たたかえたはずだけれど」



 フッ。

 職員の誰でもない、ランかおりがただよって来た。

 剪定せんていばさみを握った組石市長の霧生きりゅうさんのひだり手が男のかたに手をいた。

「ご沙汰さたしております」

「……霧生市長、か。

 市長選挙活動以らいだね。

 ここは、市えいじゃないはずだけれど」

「ええ、迷公社関連事業所です。

 ですから、迷公社のおさをお呼びします」


 謎の土足スーツ男と入れ違いで、迷公社社長が出現しゅつげんする。

「……ん?

 ここは?」

「組石市の市長を務めております、霧生 三郎さぶろうでございます。

 れい御曹司おんぞうしが不法侵入をしまして、げられました」

OKオーケー、OK。

 いまかれの全国手配てはいをしたよ。

 相談してくれていた、子どもの連れ去りの件だね。

 どうして、木目の王国や迷公社木目事業所から、相談が無かったのか。不思議ふしぎでね」

「昨晩、今朝から警察とのやり取りを優先ゆうせんしていました。

 申し訳ございません」

「作田 温君と温君のお母さんに伝えてくれるかな?

 もう、実父のことでなやむことは無くなるからね、って」

 迷公社関連事業の職員は全国各地kあくちにいるが、迷公社社長を生で見れるのは本社のごく一部の人間だけ。

 組石市で、これだけしつの良い迷公社関連事業所が維持いじ出来ているのも、この御方おかたのおかげ。

 名前も知らない御方だが、信用しんようあたいする存在すんざいだ。

 作田君にはわるいが、作田君の本当のおとうさんとは逆に位置いちするのは、間違いない。

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