【閲覧注意】03 【夕闇遊び】(組石市立楓池小学校三年一組鈴木 縁視点)

 ※暴力描写があります。ご注意ください。






 学級がっきゅう崩壊ほうかいのせいで。

 一学期いちがっき始業式しぎょうしきのまま席順せきじゅんも、班員はんいんわっていない。

 班に兆部きざしべがいて、わたしはギリギリ三班さんぱんだったから、まだいほう。

 二班女子じょし二人ふたりは、ずっと保健室ほけんしつ登校とうこうだい若葉わかば教室きょうしついまつづけている。わたしたちと一緒いっしょにならないのは、「自分じぶんたちを生贄いけにえにしていたたちとは一緒の教室にたくない」ということ。


 今日きょう掃除そうじ当番とうばんい。

 明日あしたは、土曜どようじゅ業で、三班だから、教室掃除当番。

 今日じゃなくてかった。


 明日は、習熟度しゅうじゅくどべつ魔術まじゅつがく習登校。

 学級崩壊になって、いち番、クラスのみんながほっとするとき。

 クラス単位たんいでは無くて、SエスAAエーエー、A、Bビー1イチ、B2Cシー1、C2、C3サンDディーEイーFエフGジーHエイチ

 B1、B2はおなじレベルだけれど。B1の子のほうがAクラスへ昇格しょうかく出来る可能性かのうせいたかい。

 C1、C2、C3も人数にんずうおおいので、みっつに教室をけているけど。C3はDクラスにこう格する可能性がある子。

 兆部は、AAクラスだったけれど。学級崩壊を扇動せんどうしていたから、題児もんだいじのためのHに降格した。

 玉浜たまはま先生せんせいも、自分のクラスにAAクラスの子がいて、かなりはな高々たかだかだったけれど。

 兆部以外いがいのわたしたちにとって。「魔術が出来れば、何をしても良い」みたいにおもう兆部みたいな子の暴走ぼうそうめられない、ひどい先生でしかない。

 ちなみに。

 やつだわらさんは、三の一で唯一ゆいいつのSクラス。

 わたしは、C2。


 Gは保健室登校・登校の子。まあ、不登校の子はまったないし。保健室登校の子は保健室・第二若葉教室以外で習すらけるのをいやがっているから、Gは書類上しょるいじょうのクラス分けにぎない。

 だから、Gの子は、毎週まいしゅう土曜日は木目もくめ一丁いっちょう目の「雨後あめのち魔術感覚統合かんかくとうごう教室」へ半強制はんきょうせい通所つうしょしているはず。



 明日、通じょう国数こくすうしゃはやらない。音楽おんがく図画ずが工作こうさく体育たいいくも。そして、週に一回いっかいの魔すいも。

 朝の学活がっかつ無しで、一時間じかん目から時間目まで、ずーっと魔術をべん強する。

 毎週土曜日では無くて、第一・第三土曜日のみ。

 もし、第一・第三土曜日が三連休れんきゅうふくまれる場合ばあいは、第二・第よんに土曜授業がうつる。

 朝の学活時間と帰りの学活時間が無いのは、学校しゅ体では無いから。学校と迷公めいこう社、そして迷公社が業委託いたくしている「登ろくボランティア講師こうし」による混合こんごう講師によるじっ習・講習会。

 でも、学校給食きゅうしょくは出るので、講習会がわったら、自分じぶん所属しょぞく学級がっきゅうって。

 給食当番に給食をうつわによそってもらって、皆で給食をべる。

 そのあと、教室やそのほかの掃除をして解散かいさん



 第三若葉からとなりの二くみ教室を訪ねて、さくくんしてもらう。

 良いな……。

 隣のクラスってだけで、「男子だんしじょ子もなか良し」で、「あかるく元気げんきたのしい雰囲気ふんき」にえて来る。

 教室のうしろの掲示物けいじぶつを見れば、わかる。

 だれにもじゃ魔されないでききった、キレイな書写しょしゃ作品さくひん「かえでいけ」がずらりとならんでいる。


 わたしたちの教室に、図工の水彩画さいがの作品を掲示したときなんて。

 魔術でズタズタにかれるか。

 模倣コピー倍増ばいぞうの魔術で、大量たいりょう複製ふくせいされた画びょうで水彩画用紙ようしいっぱいに、められる。水彩のにじみなんて見えない、画鋲アートになってしまう。


 三角巾さんかくきん左腕ひだりうでっているおとこの子が右手みぎて黒板こくばんしをって、黒板をきれいにしているけれど。

 おもものが持てないから、つくえはこびは手つだっていない。

 そう、あの三角巾で、わかる。あの子が作田君。

 だって、あだが「ギプスマン」だもん。

 いつも、どっかこっかが包帯ほうたいやギプス、コルセットにおおわれている男子。

 服装ふくそうはいつもダボッとした余裕よゆうのあるサイズ。

 でも、おがりで毛玉けだまいているとか、袖口そでぐちあながあるとか。そういうのは見たらない。

 でも、注意ちゅうい散漫さんまんでは無いし、スポーツ万能ぼんのうで「試合しあい無理むりしたんです」ってかんじでもない。

 ちょっと、不思議ふしぎな子。




「おーい、ギプスマン!

 一組の鈴木すずきがギプスマンに告白こくはくしたいんだってー」




ちがう!違う!

 作田君にみち案内あんないたのみに来たの!」

 兆部以外があい手だと、普通ふつうおおきなこえかえすことが出来る。

 不思議だよな……。


「はあ?

 なんで、ほかクラスのやつ

 ……おれ御前おまえと話したこと、あったっけ?」


 けたかお

 ふとってもいないし、ガリガリでもない。

 パッチリお目目なのは、女子のわたしでも、うらやましい。

 パパなんて、寝起ねおきのわたしを見て、「ぐう」って馬鹿ばかにするんだもん。

 作田君は、絹井きぬい君タイプとも、不登校の男子とも、違う。

 スポーツが出来る安城あんじょう君たちとも違う。

 でも。

 作田君がわらうと、掃除当番では無いであろう「作田君をお手伝いする女の子たち」が目をかがやかせる。

 いわゆる、「モテる男子」なんだ。

 そして、教室掃除当番の女の子たちも一緒になって、一斉いっせいにわたしをにらむ。


「作田君。

 もく目の王国おうこくの道案内のことなの。

 一組担任だった玉浜先生か、第三若葉教室の市場いちば先生か、二組担任のさわ先生からいていない?」

「……そういえば!

『今日の放課後ほうかごから、王国にく子を案内してくれ』ってたのまれてた。

 女子だったの?

 あのなー、三の一が大騒おおさわぎになったんだから。

 三沢先生、三年以外の学年の保護ほごしゃい合わせ対応たいおうきっりでさ。

 ほかの学年なんて関係かんけいないと思ったらさ。兆部、登ちゅうや放課後に、級生だろうが上級生だろうが手当たり第にいじめてたんだ。

 今朝けさなんて、いけ見中学校から『中学三年男子二十名じゅうめいが小三の兆部に一万円まんえんから三万円ずつ、おどられた』って電話でんわが来たんだ。

 兆部、ひるやすみにパトカ―で警察けいさつしょれていかれたんだ」

「それは、らない。

 きっと、市場先生がわたしたちを刺激しげきしないようにだまってくれたんだと思う」

「三沢先生、今日もあたまはたらいてなかったんだよ。道案内の相手がだれかもおしえてくれないんだもの。

 ……とりあえず、まだ掃除中だから。

 掃除終わるまで、児童じどう玄関げんかんなかってて」

「うん」

 わたしが三の二教室を出ていこうとしたとき、作田君に呼びめられた。


「あっ、って!

 大事だいじなことはなすの、わすれてた」

なに?」

 耳元みみもとでヒソヒソばなし

 男子となんて、やったこと無いんだけど!

「まあ、小三女子はひがし木目小と、年輪ねんりん小のほうがおおいかな。

 でも、錠前じょうまえはアンタッチャブル。

 しん三年のはる休みに兆部都合つごうてん校した錠前、おぼえてるだろ?

 アイツ、年輪小なんだけどさ。

 俺イケ小の奴が話しかけても無視むしするから。

 鈴木も知らないりしてあげて。

 ほら、『イケ小=ウ●コで学級崩壊』でゆう名になったからさ。

 じゃないと、兆部アレルギーで夕飯ゆうめしまえからいて、テント小児科しょうにかれて行かれちゃうからさ」

「りょ、了解りょうかい……」


 あっ、でも、あの話があるってことは、錠前さん、どうするんだろう?

組石くみいし木目地区ちく小学校三校統はい合・木目ステーション小学校への再編さいへん計画けいかく」。

 ランタンウェイ木目えきはさんで。駅東口側ひがしぐちがわにあった東木目小学校と、駅西にし口にあった年輪小学校と、沿線えんせん楓池かえでいけ小学校の三校が統廃合する計画が検討けんとうされている。


 あと。

 兆部は楓池ちかくの雑木ぞうきばやしの手まえんでいて。だから、「兆部は楓池でおぼれて死ねば良いのに」が女子の口癖くちぐせだ。

 自分じぶんの手をよごすほど価値かちが無いから、かっ手に野垂のたれ死んでしい。そうおもっている三年女子は多い。

 わたしも、すごく、すごく思っている。



 楓池小学校の通のクラスは、午後ごご三時はんになると掃除当番以外はすぐかえれる。

 保健室登校と別室登校の子は、帰りの学活が無いので、三時十分じゅっぷんからパパッと帰っちゃう。

 兆部は三時ニ十分に、下校することになったって聞いたけれど。

 さすがに、警察の事情じじょう聴取ちょうしゅは終わっていないだろう。


 アイツはおやむかえに来てもらえていないから、徒歩とほ公園こうえんったり、雑木林に立ち寄ったりして帰っているらしい。

 なつ休みけからは、月明つきあかり地区ちくの大きな公園まで寄り道というか、遠征えんせいしているって、子分こぶんたちがヒソヒソ話していた。

 学校に居るあいだは、先生たちが「接触せっしょくしない」ように配慮はいりょしてくれているけれど。学校のしき地を出たら、兆部は野放のばなし。

 放課後、いかに、兆部被害ひがいけれるか。慎重しんちょうになればなるほど、下校時間がながくなる。

 そのうちに、ともだちとあそぶ時間がっていく。



 組石市えい下鉄かてつ東陽とうよう線の沿えん線上といっても、線電車でんしゃも地下をはしっている。

 だから、積木つみきどおりの歩道ほどうっすぐ、木目駅方面ほうめんかって歩く。

 年輪一丁目のランタンウェイ月光線木目駅、地下鉄東陽線木目駅、そして「tsundeツンデ」。

 そして駅前の積木通りを挟んですぐの、木目一丁目にあるはずだから、まようはず無いと思ったのに……。

 まず、作田君は「ランタンウェイ駅の西口から駅の中をけて、東口へ出るほうが時間がかかる」と言うので、駅しゃすみにある、ランタンウェイ高架こうかしたの歩道を教えてくれた。

 子ども一人ひとりじゃくらいし、不審ふしん者情ほうが多いところだ。

 べつに、兆部だけがあぶないんじゃない。


 組石市は誘拐ゆうかいすくないけれど、誘拐未遂みすいは多い。

 車道しゃどうからゆっくりすすくるままどひらいて、歩道をあるいている子に向かって。

「お菓子かしあげるから、車にらない?」とか。

「おかあさんが病院びょういんはこばれたよ。病院までおくってあげるから、車に乗って」とか。「やさしいひと」をえんじながら、話しかけて来る。

 でも、多いのは露出ろしゅつ魔。


 あと、もっとこわい人もいる。

 組石原生げんせい公園の原生りんの中にひきずりこまれそうになった女子中学生の新聞しんぶん記事きじきょ年、小学校のぜん校集しゅう会でも紹介しょうかいされたけれど。

 今年ことしの春、引きずりこまれて殺された男子中学生の話は集会で紹介されなかった。

 でも、何となく、「嗚呼ああおな犯人はんにんだろうな」って思った。



 目の前を歩いてくれる作田君は登下校中に禁止きんしされている「つつかまえて歩く」をやっている。

「こんな薄暗うすぐらくて危なそうときに役立やくだつのが『ぼう犯魔術』の一つ。

夕闇ゆうやみ遊び】だ。

 筒を手に持って、筒を自分のむねに向けて、真似まねして。

カラス羽根はね 使つかえないかがみ かくれる子ども 遊ぶ靴音くつおと』」


「か……からすの……なんだっけ?」

「烏の羽根」

「烏の羽根 つ、つか……」


 ブワッ。

 鳥肌とりはだった。

 警察かんこくぐん公務こうむ執行しっこうで使う、魔水量の魔術を待機たいきさせている。そんな気配けはいより、もっともっと禍々まがまがしい感じ。

 不審者が来る。

 とても、いやな感じ。

 怖い。

 もう、木目の王国へ行くどころじゃない。

「じゃあ、俺からはなれないで。

 二人ふたり分を隠すには、ちゃんととなえなくちゃ。

 失敗しっぱいしたらごめん」



「烏の羽根

 使えない鏡

 ちないよご

 まわ風見かざみどり

 たたまれたがさ

 遠吠とおぼえするイヌ

 夕闇の化粧けしょう

 影切かげきりばさみ足長あしながおんな

 隠れる子ども

 遊ぶ靴音」



 ……何も変わってない。

 ど、ど、どうしよう!


 作田君は高架下の歩道のわきのほうへわたしを誘導ゆうどうする。

「地下鉄東陽線木目駅9きゅう番出口」の看板かんばんが頭のうえひかっている。

 作田君に引っられたさきは、すこし開けていて、地下鉄の出口と、tsundeの出口もあった。

 年輪こう校の生人がカラオケに行くか、tsundeでアイスを食べるか多数決たすうけつを取っている。


 テント小児科病院の診察しんさつえて、これから帰るのかな。

「地下鉄じゃなくて、やっぱりタクシーで帰ろうか」と保護者が中学生と一緒に、タクシー乗りへ歩いて行った。

 でも。

 聞きたくない声が聞こえて来る。

「いきなりはしんないでよー。

 アンタさー、そもそもー、めがあまいのー。

 カツアゲしたおかねー、またカツアゲしてあつめて、被害うったえて来た子のおやかえしておきなよー」

「ウッセー、クソババアア!!!」

「何よー、チクられないようにー、ボコボコにしないアンタがー。なまぬるいのー」

 高級そうなバッグで子どものぶったたくのをやめて、サンダルで子どもをばして、三ぷんみ続けた。


 それを見た高校生が何も言わずに解散して、げていった。

「じゃあね、パパと遊んで来るから。

 邪魔すんなよ。

 邪魔したら、やまにまたてるから」

 かみに、目の周りに黄金おうごんのラメがついた二十だいくらいの女の人がキャミソールとミニスカートにサンダルで、煙草たばこをふかしながら。

 のついたサンダルを面のタイルでぬぐって。


 <パッパッパッパー>とクラクションをらした、派手はでな車の助手席じょしゅせきにピョンッと飛び乗った。

 ゴツイタイヤ。

 高過たかすぎる車高しゃこう

 助手席と左こう席のドア二つ分、一直いっちょく線にタトゥみたいなペイントか、シールがついていた。

 何か、ほのおえているようなスプレーイラストを前も見たことがあるけど。それにている。

 ……女の人は怖い魔術を待機させていない。

 女の人が何度も踏んでいた子どもは、起き上がってからも、ずっとキョロキョロ見回している。

 目が合いそうになって、怖くて、作田君の中のうしろに隠れる。


「クソッ。

 鈴木と二組の作田、地下通路でランタンウェイの中に入って、西口にもどったな!」


 聞きおぼえがある、怒気どきのあるこえ

 兆部 えぶりでいの声……。

「これで、悪意あくいのある奴から存在そんざいを隠せる。

 御前、相当そうとう、アイツにうらまれてるんだな。

 でも、大丈夫だいじょうぶ

 しゃべっても、声もとどかないから。

 ゆっくり行くぞ」

 でも、兆部があしでこっちに向かって来る。

 兆部はものすごくおこったかおで、ランタンウェイ木目駅西口へ引き返していった。

 すれ違うときの、ドキドキはヤバかった。


 ……え?

 そもそも。何で、わたしが兆部にねらわれているの?

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